第126話 復讐ノ刃
セシリアは逃げ続けていた。
出口を求めて、広い場内を時には隠れてやり過ごし、風のように走り、新しい武器で道を切り開いたりした。
しかし、一向に出口が見える気配がない。
「城ってこんなに広いのね! メイドさん掃除大変ね!」
皮肉を叫びながら走っていくとエントランスへと出た。物陰に隠れて様子を見ると、人々が列を成して外へ向かっている様子が見えた。
「何か集まりでもあったのかしら?パーティ……ではなさそうね」
パーティなら武器や鎧を着ているはずが無い。
そんなことよりも出口を見つけたがここには人が多すぎる。明らかに無謀だ。
ここは冷静に別の道を探した方が良いだろう。
そう思ったセシリアは気づかれないように遮蔽物を利用して、エントランスから離れた。
エントランスから離れてからある程度、歩いているが妙なことに追手が現れなくなった。
見回りの兵士も余り見当たらない。
そんなことを思いながら出口を求めて歩いていると、大きな扉に差し掛かった。
出口があると思い、セシリアはその扉を開けるとそこには沢山の椅子が立ち並ぶ調見の間だった。
恐らく、さっきの列の人々はここに集まっていたのだろう。
部屋へと踏み込んだ時、気配を感じてすぐに扉から離れるように飛び込んだ。
受け身を取り、顔を向けるとセシリアの居た場所にナイフが複数本刺さっていた。
「反射神経が良いみたいですね」
その声と共に上から現れたのは、セシリアが取れたあの是々しき宿敵マルルクだ。
「またあなたってことは。ここはあなたの家か何かかしら」
「半分正解、半分不正解。ここはバルバドス様の城です。まさか、脱獄するほどの元気があったのは驚きですが、君のおかげでバルバドス様がお怒りです! おとなしく僕と来るなら何もしないけど来るです?」
「付いていくわけないでしょ! 私は早くフールと合流して、バルバドスにぎゃふんと言わせたいの!!」
「ま、分かってたですけどね」
マルルクはナイフを構えると前回の戦い同様に素早い速さでセシリアとの距離を縮め、ナイフを振り下ろす。
それに反応して、セシリアも背中の大太刀"草薙"を引き抜き、ナイフを受け止めた。
「思ったけど、その武器どこで手に入れたですか?」
「落ちてたのをちょっと借りてるのよ! てか、私の武器どこよ!?」
「ここです♪」
マルルクの空いている片手から見覚えのある愛刀の烈風がその手にあった。
「それ、返してよ!!」
セシリアは木刀を難ぎ払い、マルルクを吹き飛ばす。マルルクは一回転して綺麗に地面へ着地した。
「返して欲しきゃ僕を倒すですよ!」
「言われなくてもそうするわよ!』
セシリアは草薙をマルルクに向けて振り回す。セシリアよりも長いその武器は重量もあり、二刀流の時よりも攻撃速度は遅くなっている。しかし、流れるような太刀裁きと長いリーチを生かしてマルルクを押していた。
「ほらほらどうしたのかしら!!」
「こんの!! 調子に乗るなです!!」
セシリアの大振り動作の隙をついてマルルクはナイフを突き立てた。
「掛かったわね!!」
そう、大振りはわざと攻撃をさせる為の間だったのだ。
「何!?」
「"焔"!!」
セシリアが叫ぶと、草薙の刃から炎を帯びた熱波が放出され、マルルクに直撃する。
「うわぁああああぁ!!!!」
マルルクの胸が焼け、それをかき消すために地面をのたうち回る。そして、鏡火した頃にはマルルクの装備が焼けただれ、身体もボロボロになっていた。
「い、今気づいたです。その武器は特定の者しか使えない“神器”をなぜ君が」
その時マルルクは思い出す。
「捨ったって言ってたですよね!? ま、まさか……王の間から奪ったですか!?」
「部屋の名前は知らないけど、立派なものがいっぱいあったから多分そうじゃないかしら?」
「せ……先代の王の血族しか使えない武器を……バルバドス様の言っていた通りです」
マルルクは胸を押さえながら、立ち上がるとニタニタと笑い始める。
「でも、ここからです。君の弱点であるあの力を……」
そして、マルルクが能力を使おうとした時、身体に違和感があった。
「え? あれ?」
マルルクの様子がおかしい。身体の様子を見ながら何か焦っていた。
「嘘です!? どうしてですか!? どうして能力が発動しないのですか!?」
そう言いながら、マルルクが何度も能力の発動を試すも何も起こらない。
「気は済んだかしら?」
セシリアは草薙を肩に置きながら、ゆっくりとマルルクのもとへと近づいていく。
「わぁ!? 辞めろ!! 悪かった! 僕が悪かった!! ほら、これ返すから許してくれです!!」
命乞いしながらマルルクはセシリアの方へと烈風を投げる。
セシリアはそれを受け取ると腰に付けた。
「返してくれてありがとう」
「君のは返したです......だから、命だけは……」
「その言葉、よく思い出してみなさい。あんた達がどれほどの人々に言わせてきたのかを」
セシリアは大太刀の刃をマルルクに向ける。佐えるマルルクは下顎が震え、ガチガチと音を立てていた。
「や、やめるです……やめて」
「私は、あんた達に無残に殺されたものを見てきた。それはそれは辛く、悲しい気持ちになった。何かしてあげたい、どうにか無念を晴らせてあげたい……だから私は思ったの」
セシリアは草薙高く上げ、構える。
「私が犠牲者たちの復讐の刃になるって!!」
「うわぁあああああああああああああ!!!!←
セシリアは振りかぶった草薙を振り下ろし、マルルクの胴体を切り裂いた。
真っ二つに割れた胴体が崩れ落ち、今にも消えそうな意識の中で小さくつぶやく。
「も、もうしわけ、ございま、せん」
その言葉を最後にマルルクの意識はこと切れ、マルルクの死体が激しく燃え、死体だったものは元の原型が分からないほどの灰になった。
「マルルク、死んだのか……」
背後から声が聞こえたセシリアは後ろを振り向く。
そこには藍色のウルフヘアに自分と同じような耳を持つ、筋肉質の女がいた。
いつ現れたのか分からない、しかしセシリアはそんなことはもうどうでも良かった。
一方、ノンナはマルルクの援護に来たのだが、一歩遅かったようで、セシリアの後ろにある灰の塊を見て、マルルクの死を感じる。
そして、ノンナは目を疑った。
今、自分の目の前にいる者は本当にターゲットなのだろうか?
ノンナが見たセシリアは鋭い殺気が赤いオーラがとなってにじみ出ている。更に、見た目も変化しているのだ。獣人特有の耳の横から小さい角が銀髪から見えているのだ。
その姿は、前に見たセシリアの姿と似て非なるものである。
その姿は最早皇女ではない。言い表せばこの言葉が似合う。
「鬼神だ……」
セシリアの尻尾が逆立ち、マルルクの戦いで習得した“鬼人化”を無意識に発動している。
等々、これまで溜まっていたセシリアの怒りがオーバーフローし、感情のコントロールが制御できず暴走してしまったのである。
ノンナはセシリアから感じる殺気に押されそうになるも、踏ん張って挙を構える。セシリアもノンナへの視線を掘るがず、何も言葉を発さず、草薙を構えた。
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