第123話 カタリナ、到着
カタリナ率いるグリフォンもバルバドスの国へとやってきた。
反り立つ石壁に囲まれた国の入り口が開かれ、カタリナたちが乗っている馬車が軽快に歩き出す。
バルバドスの国はアガレスの国とは比にならない程土地が広く、人口も多い。
出店が多く立ち並んでいる広場で人々が楽しそうに歩いている様子をカタリナたちは馬車の窓から眺めていた。
「きゃーー! 何あれ素敵一ー!! 用事が終わったら見に行けるかしら!」
「サラシエルさん、僕たちはここへ遊びに来たわけではないのですよ」
「何よ!せっかく来たんだから仕事の合間にちょーーと見るくらい良いじゃないのよ!」
セインとサラシエルの喧嘩を注意するほどカタリナに余裕は無い。窓の外を眺めながら、どうすれば良いのかずっと悩んでいるのだ。
「なぁ、おいリーダー。元気無ぇみてぇだけどどうしたんだよ」
正面に居たライナが鋭い目をカタリナに向けた。
しかし、その眼には心配の気持ちを映り込んでいるのをカタリナは察している。
「何でもない」
「いや、ぜってぇなんかあるな。クレドと話をしてからここに来るまでずっと元気無かったぞ」
ライナはこう見えて、人の変化を感じられる性格だ。勿論、カタリナはそれを知っていた為、顔に出さないようにしていたが案の定ばれてしまったようだ。
「お前達には関係ない」
「いや、あるな」
「ふ、珍しいわね、あなたが仲間を気にするなんて」
「わりーーかよ」
「いや……変わったなって」
「だから、変わっちゃわりーーのか?」
「……」
カタリナは黙って、外を眺めている。
沈黙の間、少し何か考えてからライナは頭を掻きながら一息置いて口を開く。
「最初の頃はあんたや仲間の事なんかぁ信じちゃ無かったよ。どーーせ、あたいは厄介者なんだろうってな。だから、あたいの好きなようにやればいいって思ってた。けど、あんたはあたいの事を命懸けでかばってくれたろ。そん時、あんたはあたいを仲間と思ってくれてたんだなって初めて実感できたんだよ」
「……当然だ」
「あんたにとっては当然だったかもな」
ライナは腕と足を組み、カタリナと同じく、外の景色を眺め始めた。
「あんたの事は信じてる。あと、あのインチキ回復術士もな……今回の件、フールのことなんだろ?」
カタリナは思わずライナの方を見てしまった。ライナは目を合わせるとにやついた。
「それはもう正解ってことじゃねぇか」
「はは、全く……お前は大雑把なのか、頭が切れるのか分からないな」
頭を抱えながら思わず吹き出してしまった。けれど、少しだけ肩の荷を下ろせたような気がする。
「あたいが言うのもなんだけど、1人で抱え込むなよな。リーダーがしっかりしてくれなきゃあたい達はだめだ」
「私が居なくてもしっかり動けるようにしておけ」
「へいへい、人が折角心配してやってんのに……ったくよぉ。後で詳しいこと教えろよな」
ライナがそっぽを向いてしまった。
しかし、ライナのおかげで緊張感が少しだけ解けた気がする。
カタリナは背負いすぎていたのだ。仲間を危険に晒すリスクを怖がって、自分だけで何とかしようと思っていた。
仲間を信用していなかったのは自分だったと深く反省する。
まさか、ライナから教えられるとは思わなかったがライナには感謝しなくては。
「だーーかーーら! 良いじゃないの!! 最近セインも頭堅くなってるわよ! どっかのデカ乳女みたいに!!」
「ですから遊びに来たわけではないと何度も!」
少し心に余裕が持てたのか、隣で喧嘩を続ける2人がやかましく感じてきた。
「てめぇーーらうるせぇ!!」
「2人とも静かにしなさい」
ライナとカタリナが同時に注意をすると、サラシエルは膨れた顔をして黙り込んだ。
セインは『何で僕も』と思いながら腑に落ちない様子で口を閉ざした。
一息ついてまた外を見るとバルバドス城が近づいてきていた。もう来ることは無かったのにまた来てしまった。
また、あの思々しき男に会わなくてはならないのかと思うと胸が重くなる。
しかし、カタリナの君とは反比例に馬車は颯爽と城へと向かっていく。
等々馬車が城門へとやってきた。城門へ近づくと1人の兵士が馬車を操縦するクレドへ近づく。
「クレド様、お待ちしておりました。中に居られる方々が例のパーティで?」
「そうだ、早く中へ入れてくれ」
クレドが門兵へせかすように、場内へ入れるよう言う。
「はっ!! おーーい!! 門を開けろぉ!!」
門兵の大きな一声によって閉ざされていた大きな城門が開かれる。城門が開かれ切ると同時にクレドは馬車を進ませる。
城門を抜けると馬を止める小屋があり、そこへ馬車を止めてカタリナたちは地に降り立った。
「決して無礼の無いようにな?」
「ああ、分かっている」
クレドに一言忠告を入れられたことにむっとなるが、今は耐えることにした。例え何があっても感情的になってはいけない。
カタリナたちは城の中へと入ると大きなエントランスが迎え入れてくれる。
正面には大きな階段があるが誰も使っている様子はない。
勿論そのはず、この階段はバルバドスのみが使用を許されているのだ。見つかればすぐに処罰されるであろう。
エントランスには会議に参加する関係者たちが立ち並んでいた。
人混みの中を歩いていると、突如エントランス内で見回りしていた兵士が大声を上げた。
「バルバドス様がお見えになる! この場に居る者は跪くのだ!!」
その言葉に合わせて、この場に居た者全員がき、階段の方へと身体を向けた。カタリナもそれに合わせて跪く。
「おいおい、一体何なんだ?」
「早く跪け!」
カタリナはぼんやりと突っ立っているライナの頭を掴んで、無理やり跪かせた。
「痛ぇ! てめぇ何すんだ!?」
「馬鹿者、死にたいのか。良いから顔を伏せていろ」
「お、おお」
カタリナの必死な形相を見て、ライナは大人しくなった。
暫くして、2階の扉が開かれると是々しい黒い肌の巨体の男がゆっくりと階段を下りてくる。
そして、ゆっくりと辺りを一瞥すると、一点に目を向けた。
「おお誰かと思えば、カタリナではないか? 元気であったか?」
あの一瞥は私を見つけるためだったのだろう。そして、わざと声をかけたのだ。
そんなことはカタリナも分かっている。しかし、カタリナにとっては余り気が良い行動ではない。
「私は変わりありません」
「そうかそうか。アガレスでのギルド暮らしも悪くないか」
カタリナの拳に力が入るが、目を伏せて感情を抑える。
「そろそろ、私のところへと戻ってくる気は無いかね?」
答えは決まっている……が、ここは抑えるんだ。
「検討させていただきます」
「はっはっは! また振られてしまったなぁ」
「バ、バルバドス様!お久しぶりでございます!」
突然、クレドが間へと割って入ってきた。
「クレドか、久しぶりだな。お前のギルドは中々良い評判と言う噂を聞いている。頑張り給え」
「はい! ありがとうございます。あの、バルバドス様」
「なんだね?」
「こちらにセシリアがいらっしゃるのでしょう? 私と面会することは可能でしょうか?」
クレドの言葉にカタリナ驚いた。フールの仲間であるセシリアがここに捕まっているということは何も聞いていない。
しかし、ここで感情を出してはならない。カタリナは唇をかんで耐える。
「構わん。しかし、会議が先だ。会議の後、部下に案内させよう」
「はぁ! ありがとうございます!!」
クレドは深々と礼をすると、バルバドスは横の扉からエントランスを出て、会場の方へと向かっていた。
バルバドスが居なくなったエントランスは一気に緊張感から解放され、皆がばらばらと立ち上がり、一斉に会場へと向かっていく。カタリナも人の流れに乗るように会場へと向かった。
会場の中心には円卓テーブルがあり、その周りに参加者が座る椅子が立ち並んでいた。
各々がそこへ座り、会議の始まりを待つ。カタリナたちも椅子へ腰かけるとライナが耳打ちしてくる。
「おい、聞いたか、さっきの話。セシリアが捕まってるってどういうことだよ」
「私にもわからない、そういえば言ってなかったな。私たちがここへ来た理由」
「ああ、確かに。まさか、こんな退屈な会議に参加するってだけじゃねぇよな?」
「フールの確保だ」
「はぁ!? 何だそれ!?」
ライナと会話を遮るように兵隊たちがファンファーレを奏で始めた。会議が始まる合図である。
「詳しくは後で話す」
そう言ってカタリナは正面を向いた。
ファンファーレが止むとバルバドスとバルバドスの部下である魔人六柱達が部屋へと入り、中央の円卓テーブルの席へ着く。
まもなく天魔会議が始まろうとしていた。
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