第122話 "鬼神ノ妖刀"草薙
大男から逃げ続けるセシリアは明らかに道に迷っていた。入り組んで明かりも少ないこの牢獄の出口を見つけるのは迷路を解くのと一緒だ。
何か良いアイデアが無いか。その時、セシリアに電流走る。
地下牢獄の近くに酒蔵があると酔っ払いの兵士が言っていたことを思い出す。
自分の優れた嗅覚を使って酒蔵の場所を突き止めることができれば、脱出できるかもしれない。
そう考えたセシリアは一か八か自分の嗅覚を信じて、匂いを嗅ぎ始める。
すると、かすかではあるがアルコールとブドウの匂いを感じた。おそらくこれは果実酒だろう。
セシリアは匂いのする方向へと走ると上へと続く階段を発見した。
後ろから追ってくる大男がセシリアを逃がさんと大鉈をセシリアに向かって投げてきた。
しかし、セシリアはその鉈を華麗に回避し、階段を素早く登っていく。
階段を登り切った先には3つの道がある。直ぐ右には扉があり、錠がかかっていた。
正面の扉から、酒の匂いが強くなっているので恐らく酒蔵だろう。左は広い廊下へと続く道だ。おそらく場内へと続く道だろう。階段からは大男が迫っている。
「しつこいわねぇ! しつこい男は嫌われるわよ!!」
考えていてもしょうがないので、セシリアは場内へ通じる回廊を走り始めた。場内にいる兵士やメイドなど諸共せずに走り続ける。
流石に逃げ続けられるのも時間の問題だ。反撃する手段として武器がいる。
「私の武器はいったいどこ!?」
とりあえず、自分の武器じゃなくてもいい。武器庫を見つけることができればあの大男ぐらいは倒せるだろう。逃げ回りながら、闇雲に部屋を開けて武器庫を探す。
ここでもない、ここも違う、ここもだめ。
流石にここまで堂々と逃げていると脱獄者が出たという情報が広まり、気が付くと最初から追跡してきた大男だけではなく増援が送られていた。
セシリアが通る道を先回りされていることもあったが、見事な身のこなしで何とか危機を回避する。
しかし、これ以上追手が増えると捕まるのも時間の問題だ。
――そして、等々セシリアは兵士たちに挟み撃ちに会い、逃げ場を失ってしまった。
「武器があれば……」
にじり寄ってくる兵士たち、唯一の逃げ道は背にある扉だけ。ここに打開の手段がなければ袋小路だ。
「もう!! なるようになりなさいっての!!」
セシリアは勢いよく扉を開けると。その部屋だけはどの部屋よりも変わった印象だった。
壁にはたくさんの絵がかけられており、価値が高そうなメダルや骨董品やらが並んでいた。
その中でも1番目を引いたのは、セシリアの正面にある大太刀だった。周りに武器になりそうなものも無いので、セシリアはその大太刀に駆け寄った。
その大太刀はセシリアよりも長い刃が赤い朝に納められている。大太刀を取り、ゆっくりと刃を出す。
その刃には文字が刻まれていた。
「“鬼神ノ妖刀”草薙」
この名前をどこで聞いたことがあった。どこか かしく、暖かい匂いがする。セシリアは刀を背中に身に着ける。胸の中が熱くなってくる。
追手たちはセシリアを取り囲み、槍を向けた。大男は兵士を掻き分けてセシリアへと近づき鉈を構えた。大きな雄叫びを上げて、激怒している。
まるで、俺たちが捕まえると言わんばかりの様子である。
セシリアは背中に着けたその太刀をゆっくりと抜く。
抜いた瞬間を、刃から激しい炎が生まれ、セシリアの周囲にいた者たちは吹き飛ばされた後、気絶してしまった。
大男2人はその衝撃に耐え抜き、セシリアの方を向く。
セシリアの抜いた剣の刃が轟々と燃え、赤いオーラが漂っていた。
その様子は正しく『鬼神』そのものである。
セシリアはゆっくりと剣を両手で構えると頭に血が昇っている大男 2 人は恐れることなくセシリアへ向かって襲い掛かってきた。
「灰となりなさい……“焔”!!」
初めて使う武器であるのにもかかわらず、セシリアは身体の使い方が分かっていた。
セシリアが剣を大きく振ると火を練った衝撃波が大男 2 人を襲った。その威力は金属鎧を溶かしてしまうほどであった。
金属鎧の下は人間ではなく巨体で不細工な顔が特徴的なトロールだった。
襲って来た敵はモンスターだった様だ。
セシリアの攻撃を受けたトロールの身体は一瞬にして灰となり消えた。
「何で魔物が……でも助かったぁーー!!」
緊張感が一気に抜け、その場に座り込む。太刀を背中の鞘に戻し、周囲を眺めた。
気絶した兵士の後ろに気になる絵があるのを見つける。
それは、角を付けた大男と獣耳が付いた綺麗な女性が佇み、その女性の手は可愛らしい戦耳が付いた赤ん坊のいる絵だった。
その絵からは剣を持った時と同じく暖かな気持ちとなっていく。
セシリアは綺麗な女性の服を今までの冒険の中で見たことがあった。それはビフロンス湿地でセシリアが見つけ、自然に涙を流したドレスを着ている死体だ。その死体が身に着けていたドレスと似ているのだ。
あと、赤ん坊がとても気になる。近くに鏡があり、自分とその少女の顔を見比べる。
「この娘、私にそっくり……」
そう、この少女の顔はセシリアと瓜二つだったのだ。
ぼーーっと絵を眺めながら、何か思い出しそうになったが、何故か頭の中で黒い炭で上から塗られたような感覚だった。
私の中で確かに何か記憶があることまでは分かる。
しかし、その記憶の内容を見ることができないのだ。
そうしていると、部屋の外から数十人の足音が聞こえてきた。増援がやってくる。
「少しは休ませなさいよ……」
セシリアは剣を背負い直し、その絵を名残惜しそうに見ながらこの部屋から離れた。
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