第119話 The Star
3年前から考えていたことをやっと書けるとこまで来た。
嬉しいです。
姉妹が再開した喜びに浸り、ある程度落ち着いてきたところでエミーリアが俺達の事を紹介してくれた。
「この方々がお姉さまを起こしてくれたのです!!」
「回復術士のフールです。目を覚ましてよかった」
「やっと来てくれたのですね。信じておりました」
「え?」
エリザベスが俺に微笑みかけた。まるで、俺たちが来るのを分かっていたかのような言い方だった。
「ケルディア女王とテリオン王は? お2人はどうなったの?」
エリザベスがエミーリアにそう承ねると面食らった表情をした。
「お、お姉さま? 何を言ってるの? そんな名前の方々聞いたことがないわ」
エミーリアの言業を聞いてエリザベスはこちらの方を向く。
「すまないが、俺も聞いたことがない。みんなは聞いたことがあるか?」
仲間に聞く皆、首を横に振った。その様子を見て、エリザベスは下を向く。
「そう……やはりね」
エリザベスは悲しそうな顔をしていた。何度思い出してもその名に対して心当たりは無い。
「お、お姉さま、起きたばかりで疲れているのよ。一度お休みに」
「エミーリア、皆を集めて」
「え? ですが」
「お願い、どうしてもしなくてはならないことがあるの」
エミーリアは急いで皆を集めた。
治療場へと行くと、全員が集まっていた。修道女たちと患者たちはエリザベスの意議が戻ったことに大喜びし、泣き崩れる者たちもいた。遊んでいた子供たちや修道女も集まり、ここにいた全ての者たちが喜んでいた。
しかし、エリザベスは焦った様子で、この場にいる全員に名も知れぬ王と女王について聞きまわる。
突然の話に皆が驚いていた。勿論、全員そのような名前の人物を知らない。
「お姉さま! 一体どうしたというのですか!?」
さきほどまで、エミーリアの事を認識し、正常に記憶が戻っているのは見た。エリザベスが狂ってしまっている様子はない。しかし、皆が知らないことを必死に聞くエリザベスに対して違和感を持つ。
「お姉さま、お疲れなのですから……」
「いや、エリザベスさん。その2人の話を聞かせてください」
俺はエミーリアの間に割って入った。
「え?」
エリザベスは驚いた声を出した。
もしかすると、エリザベスは正常に記憶が保持されている。エリザベスにとって正常な記憶というのは今から10年前の記憶。10年後に起き上がったエリザベスにとってはその記憶は今でも最近の出来事である。
もしかしたら、俺たちが忘れているだけなのかもしれない。俺はそう思い、落ち着いてエりザベスから話を聞こうと考えた。
「エリザベスさんはきっと10年前の記憶で話をしているんだ。もしかすると俺たちが何か忘れているのかもしれない。俺たちに10年前のエリザベスさんに起こったことを話してほしいんだ」
俺がそう言うと、ほほ笑んでエリザベスは口を開いた。
「話をする前に1つだけ聞かせてください。今のこの国の王はどなたでしょうか?」
「バルバドスだ」
エリザベスは目を伏せる。
「分かりました」
エリザベスは全員の前に立った。
「皆様、今から私の見てきた過去をお見せいたします。今から見ることは全て真実です!! さあ、皆様! 目を閉じて、神に祈るのです!!」
そう言うとエミーリアを合めた修道女及び、すべての患者と子供たちが目を閉じ、祈り始める。慌てて、俺たちも祈りを始めた。
「ああ、神よ、お久しぶりでございます。私は永い眠りから覚めました。しかし、私が目覚めるころには彼らは本来の記憶を失ってしまっているようです。今ここで神が私に授けし、
この力でお導きください!」
そして、エリザベスは天高く両腕を上げた。
「【時間映写】!」
エリザベスの言葉と共に閉じた俺の視界に光が包む。
そして、目を開けるとそこはどこかの牢獄だった。目の前には、両腕両足が鎖につながれたエリザベスと大きな鉈を持った屈強な兵士と真ん中にはあの憎きバルバドスが居た。
俺は身体を動かそうとするが動かない。どうやら、意識だけがその場にいるようだった。
「ご無沙汰ですねぇ、牢屋での生活はいかがでしたかな? エリザベス院長」
「一体……何が目的なのですか?あなたにこのようなことができる権利を持って居ない筈でしょう、バルバドス大臣」
「はっはっは、大臣ですか。まぁ今では元大臣ですがねぇ」
「どういうことですか?テリオン王はいったいどこに?」
「テリオン王は、現念ながら不虚の事故で死んでしまいました……ワインに毒が入っていたようで……気の毒です」
バルバドスは前を手で隠す。その手の下は悲しみではなく、不敵な笑みを浮かべていた。
「そんな! まさかあなたが……」
「さぁ……どこの誰なのでしょうね。このような国を脅かす不届き者を現在血眼で、我々が探しております」
「こんなこと、ケルディア女王が黙ってないわ」
「ケルディア女王は私を次期王にすると話してくれましてねぇ。素敵な功績を残してくれた大臣である私が次の王に相応しいと」
「そんなことあるはずがないわ!!」
エリザベスは声を上げるが、繋がれたが擦れる音がむなしく響くのみであった。
「まぁ、私の話は良いとしてエリザベス院長、あなたがなぜここに連れて来られたか、お分かりですか?」
エリザベスは睨んだまま沈黙していた。
「答えないということは、分からない、ということですかな? ならば教えてあげましょう。あなたの能力ですよ。あなたは【世界的特異能力】をお持ちのようだとこちらでお調べしたのですが?」
「……」
エリザベスは沈黙を貫く。
「特に、あなたのその能力が私たちにとってあまり都合がよろしく無くてですね。その「未来と過去を見る力」が。でも、知っていたのでしょう? あなたが捕まることもこれから起こることも」
「……あなた、ケルディア女王にこの世界全体に向けて「記憶操作」を解き放たせる気ね。この国の……テリオンの国の歴史を最初から無かったことにするために!」
「はっはっは! ご名答! 流石は選ばれし聖女だ! だが、貴様は過去を遡ることができる。そうなると、私たちの完全な計画が台無しになる」
等々、バルバドスの化けの皮が刺がれたのだ。今まではテリオンの国の大臣として身を潜め、隙をついて王を殺し、女王を脅して自らの都合の良いように動かし始めていた。
「と、言うことで……あなたの顛末は言われなくてもお分かりでしょうね?」
にやにやとバルバドスが笑うとケラケラと兵上も笑い出す。
勿論、この後、自分に起こる最悪の結末を知っているエリザベスは絶望的状況だった。しかし、次にエリザベスがバルバドスへ顔を向けた時、まるで迷える者を導く聖女のように微笑んでいた。
「最後にあなたに1つだけ未来をお伝えましょうか?」
「一言だけなら許してやる」
「あなたは必ず破滅します。それも、たった1人の男と王女に」
「はっはっはっはっは! ……やれ」
バルバドスの指示と共に2人の兵士が鉈を振り下ろしたその瞬間、また視界に光が広がり思わず目を閉じる。
次に目を開けた時には治療場へと戻っていた。
「如何でしたか? 私の祈りは?」
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