第108話 最後のわがまま
第三章も後1話で終了です!
救護室までの足並みは重いように感じた。
2人はあれから口を閉ざしたまま、何も話さない。そんな、思い空気で救護室に辿り着いた。
白いベッドの上で本を読んでいたメリンダが俺たちが帰ってきたことに気がつき、本を閉じて顔を向けた。
「お帰りなさい3人とも……って、アルちゃん? イルちゃん? どうかしたの?」
アルとイルは大好きなお母さんの前だというのに、ふくれっ面でメリンダと目を合わせなかった。
出発するときと打って変わって、ここまで表情に出てしまったらメリンダも流石に心配するだろう。
多分、いや間違いなく原因は俺だ。言ってしまった後だが、あんな雑な突き返し方はあまり良くなかった気もするがこれは2人の為であり、母親のメリンダのためでもある。
「あはは……実は、急用が出来てしまいまして、直ぐにでもこのウッサゴから旅立たなくてはいけなくなってしまったんです。だから、別れの言葉を2人に伝えたら、こうなってしまって……」
「そんな……もう旅立ってしまうのですか? まだ、何もお礼が出来てないのに……別れがお早いです」
「僕も別れるのはとても寂しいです。でも、どうしても直ぐに行かないといけないんです」
俺は真剣な眼差しで伝えた。
メリンダは少しぐっと胸をこらえた様子で次、何かを言いかけた時、アルとイルが声をそろえて言った。
「フール!! 私たちも連れてって!!」
「フール……一緒に冒険したい」
「ええっ!?」
俺は思わず面を食らってしまった。まさか、2人からそんな言葉が出るなんて思いもしなかったから。
「でも、お前らにはやっと見つかったお母さんが居るだろ? それに俺達と一緒に居る理由なんて2人にはもう無いはずだし、俺たちと一緒に居たらもっと危険な目に遭うかも知れないんだぞ?」
「お母さんも見つかって、私達とても安心してる。でも、フール達と出会って、沢山冒険した時間が楽しかった。怖いこともあったけどでも乗り越えることが出来たからもっと楽しかった。セシリアもルミナもソレーヌもパトラもみんな優しくしてくれた。私達、フール達と一緒に居たい理由あるよ!!」
「私達の事、助けてくれた。今度は私達がフール達を助けたい。お母さん、無事に帰ってきて安心。でも、フールと分かれるのも嫌」
「ねぇお母さん! 私、フール達と冒険してみたい!」
「お母さん……お願い」
「おいおい、2人とも……」
流石にメリンダも子供を易々とそんな危険な所へと向かわせる事などしないだろう。ましてや、実の夫も失ってこれ以上家族を失いたくないはずだ。
「フールさん、もし私がこの子達の冒険を許したら、この子達を連れて行けますか?」
俺の予想に反して意外な答えが返ってきた。
「それは……」
「私も、フェルメルに捕らわれていたときは2人の事を……家族の事を凄く心配していました。でも、思ったんです。私を助け出してくれたあの子達と出会ったとき、まるで大きい存在に見られたのです。最後に見たときは、まだ小さくて子供で私達家族が守らなくてはと思ってましたが、この短期間の間で2人は大きく成長したんだと思います。それは紛れもなくフールさん達と出会えたおかげだからだと思っています。だからこそ、私もこの子達を見習って、成長しなくては行けないと思いました。いつまでも親は過保護で居てはいけませんよね。それでは、亡き夫に怒られてしまうかも。だから、フールさんお願いです。この子達を冒険に連れて行ってあげてください。彼女たちに沢山の体験をさせてあげて欲しいのです。そして、もっと大きくなった娘の顔を見せてください、これは私達家族の最後のわがままです。どうかお願いします」
メリンダは姿勢を正して、深々と頭を下げた。
「お、おねがいします!!」
「……ます」
アルとイルもメリンダの隣りに並び、俺に頭を下げた。
俺は正直驚いていた。成長のために、そして自分も前に進むために最愛の娘の希望を尊重する決断を普通の母親は出来るだろうか。そんな、メリンダに俺は心打たれた。こんなに頼まれては断る訳にもいかない。
それに、アルとイルは今後も頼りになりすぎるほど強力な能力を持っている。それに何よりもセシリアが喜ぶかも知れない。いや、怒られるかも? 『なんで連れて来ちゃったのよ!!』って尻尾を振りながらな。
2人が居ることで俺たちパーティにメリットがある。この家族は覚悟したんだ、俺も覚悟しなくては。
「分かりました。俺が責任を持ってこの子達を守ります」
「「はわぁーー!! やったぁ!!」」
俺の言葉に2人は声を上げた。
「良かったわね、2人とも! ちゃんと良い子にしてるんですよ。そして、フールさん。承諾していただきありがとうございます。娘達の事をどうかよろしくお願いします」
「はい、任せてください。メリンダさんは今後どうされるのですか?」
「実は、ウォルター様からこの協会内でお手伝いをして欲しいと言うお話を頂きました。ですので、私はここで騎士団の方々のお手伝いをしようと思っております。私はいつでもここに居ます。だから、もし帰って来たくなったらいつでも私は貴女たちの帰りを待っていますからね」
メリンダは優しくアルとイルの頭を撫でる。今後のケアも計画済みか、流石ウォルターと言った所だ。
しかし、彼女の居場所があるのなら本当に良かった。
「分かりました。メリンダさんも身体にお気を付けてくださいね」
「ええ、ありがとう。では、2人とも……頑張ってくるのですよ」
「うん! 行ってきます!」
「行ってきます……お母さん!」
こうして、俺の元に改めて、アルとイルが仲間に加わった。
俺たちにとってセシリア奪還の為の心強い味方だ。メリンダから託されたこの命を必ず守り通してみせる。
「じゃあ2人とも、いつでも出られるように準備してくるんだ」
「「はーーい!」」
2人が元気よく駆け出し、救護室から出て行った。
「では俺も行きま……」
俺が振り向いたとき、メリンダの頬に涙が流れていた。しかし、彼女の顔は笑顔だった。
「ええ、行ってらっしゃい。頑張って」
「……はい!」
俺はメリンダに見送られながら救護室を出た。あの涙を俺は必ず忘れない。彼女の思いを無駄にはさせない。
「俺も、前に進むんだ」
俺は覚悟を新たにし、今度はウォルター部屋へと向かった。
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