第103話 セシリア VS ”幻影ノ王”マルルク
夜が更けたウッサゴに2人の影が対峙していた。
静寂に割り込み入ってくる風とその風によって木々が揺れる音は闘いの合戦の合図の様に聞こえる。
セシリアは腰に付けた『雷光』と『烈風』、2つの愛刀を引き抜くとマルルクへ向けて刃先を向けた。
一方、マルルクは器用にナイフを指先で回しながらセシリアを見つめている。
お互いが一触即発の中で一定の距離を保ちながら見つめあい、ゆっくりと横に歩く。風がやみお互いの足が止まる。
そして、次の突風が吹きだしたと同時に先に仕掛けたのはセシリアだった。右足で地面を蹴りつけ、勢いよくマルルクへ向けて突っ込む。
「たぁあああああ!!」
セシリアがマルルクの身体へ向けて水平に剣を振るがそれをマルルクはたやすく見切り、後ろへと難なく避ける。
そして、さらにセシリアが畳み掛ける剣技に対して、紙一重でよけ続けていた。
「なんですなんです? この程度の振りで僕の体に当てられるわけないです」
するりするりと攻撃を涼しい顔をしながら避けるマルルクにセシリアは段々と腹が立ち始めていた。
「ほらほらどうしたのですか?? 僕に攻撃を当てられなくて今どんな気持ちですかぁ?」
「むきぃい!! ちょこまかと動き回って落ち着きのない魔人ね!!」
セシリアのモフモフの尻尾とケモ耳が怒りによって逆立つ。セシリアは無意識に興奮状態になっていた。
やみくもに振り続ける剣の流れを完全に理解したマルルクは隙を着いてセシリアへ足払いを行い、転倒させた。
そして、持っていたナイフを突き立てセシリアへと刺そうとした時だった。セシリアははっと我に返り、即座に前へ転がりマルルクの攻撃を回避した。
「うわ……まさか気合で冷静さを取り戻したですか」
セシリアは起き上がり、自分が無意識に精神状態をうまく保てていなかったことに酷く驚いた。
よく戦闘の時、感情的になって行動をすることは自分でも自覚はあったが今回は違った。ただ、『マルルクのみに攻撃を当てたい』という憎悪が掻き立たせられたのだ。
「私……どうしてこんなに取り乱しちゃったの……」
心当たりがない。でも、考え得る可能性としてはマルルクが何かしらの能力を使用したのではないのだろうか。
そう考えたセシリアは敢えて自ら攻撃をすることを辞め、様子を見ながら戦う受け身の構えに転じた。
「君が来ないなら僕から行くですよぉ!!」
今度はマルルクがセシリアへと激しいナイフさばきで攻撃し始めた。マルルクのナイフの手数はセシリアの二刀流よりも圧倒的に多いが、威力は低い。
セシリアは自身の職業能力である【受け流し】を【猛攻】で強化し、華麗なる刀さばきでマルルクの攻撃を受け流す。そして、セシリアは敢えてマルルクに対して攻撃を行わず、ただ攻撃を受け流し続けた。
「どうしたですかどうしたですか!? 攻撃を防いでるだけでは何もできないですよぉ!!」
「くぅっ!!」
セシリアは攻撃を防ぎながら、マルルクの挑発する声を聴くと段々とまたあの憎悪が心の底から生まれてきているのを感じた。
「この感情……もしかして!」
何を閃いたのかセシリアはすぐにマルルクから距離をとった。そして、【猛攻】による身体運動強化によって瞬時にマルルクとの距離を縮める。
「うぇ!? フェイントですぅ!?」
「そこっ!!」
セシリアは刀の柄でマルルクのみぞおちを殴り、吹き飛ばした。
さすがのマルルクもこのフェイント攻撃を避けることはできず、吹き飛ばされた。
「はぁはぁ……わかったわよ。このイライラのからくり……」
「へへ……分かっちゃったですか……」
マルルクは体を瞬時に起き上がると、自分の体についた誇りを払い始める。
「あなた、ずっと言葉で私を惑わしてたでしょ」
「ほぼ正解です、まさか【惑術】と併用して【挑発】を使用してたのですが……早々にばれちゃうなんて思いもよらなかったです。ひゃぁ~~背中に砂がいっぱい入っちゃってるですぅ……」
セシリアがマルルクの話を聞いた時、ある事が疑問に感じた。【惑術】は会話で相手の心を惑わす効果を発揮する能力で、芸人や吟遊詩人などの会話に長けた職業を持った者に身につく職業能力である。一方で【挑発】は敵の注意を自身へ向けやすくなる盾士や騎士などが身に着ける職業能力である。
つまり、なぜ別々の職業能力を同時に所持しているのかと言うことである。
この世界には転職ということもできるが、得た能力や魔法は一部を除いて無くなってしまうのがほとんどなのだ。
「ちょっと! なんであんたが別の職業の職業能力を複数も持っているのよ!? 貴方何者!?」
「まぁ教えてあげてもいいです。僕には特殊能力がありますです。そのうちの1つが【偽装者】と言う能力です。この能力は僕自身の職業をあたかも別の職業として認識させることができる能力です。偽装できる職業の数は3つとか初級職業しか選べないという制約があるですが、僕は同時に3つの職業を持っていると言うことが言えるです。僕は主の職業は暗殺者ですが、【偽装者】の力で芸人と騎士を持っているです」
「そ、そんなのインチキ能力じゃない!!」
「ふふん、これだけじゃないですよ。僕にはあと1つ能力があるです。それはさっき見せたよう……」
そう言うとマルルクの身体が黒くなる。そして、次にマルルクの姿はセシリアと同じ姿で現れた。
「私が……居る」
「【身体模写】、これで一度見た者の口調と声、外見すべてを真似することができるのよ」
声も口調も外見も何もかもが自分で見てもほぼ一緒だった。セシリアは自身が鼻が利いたおかげで正体を見抜いたが一般人では識別できないほどに完成された偽物だった。
数分が経ち、再度偽セシリアの身体が黒くなると元のマルルクへと戻った。
「本来ならこれで正体を隠して連れていくつもりだったですが、ここまで鼻が利くとは思わなかったです。でも安心するです。君の弱点はもう知ってるですから安心して僕に負けるです」
プチン……
この時、セシリアの堪忍袋の緒が遂に切れてしまった。
「私の弱点を知ってるだか何だか知らないけどねぇ……あんたの情報は大体わかったわ! 私だって勝算はあるのよ!! 舐めるんじゃないわよ!!」
セシリアは言葉と共に飛び出した。今度は最初から【猛攻】を発動させ、目にもとまらぬ速さでマルルクへと近づいた。
マルルクは速度に対応できてない様子を見て、勝ちを確信しながら刀を振った。
しかし、マルルクは驚く様子はなく、寧ろ気味悪くにやけた顔が見えた。
「甘いです♡」
刀が当たる寸前にマルルクの身体は黒くなると、次に見せた姿はあのフールだった。
「フール!?」
セシリアは思わず条件反射で刀を振り下ろすのを辞めてしまった。そのセシリアの隙をマルルクは見逃さない。
すぐさま、セシリアの腹へ回し蹴りを食らわせた。
「あうぅ!!」
蹴られたセシリアは態勢を大きく崩し、地面に倒れた。
「くぅ……ひ、卑怯よ……こんなの……」
歯を食いしばりながら顔を上げるセシリアを見下ろす偽フールのマルルクは不敵な笑みを浮かべている。
「さぁ、切れるものなら切ってみろ! 大切な仲間をなぁ!!」
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