第102話 忙しない日々の終わり?
ウッサゴにも夜は訪れる。
街から溢れ見える灯の明かりも消え、皆が寝静まる時間にセシリアはその静まりかえった街を歩いていた。
一日中動きっぱなしで疲れも溜まっているというのに外に出ているのは、心は少しだけざわついて眠れそうに無かったからである。
道の途中にあった木製のベンチに腰をかけて空を見上げる。視界にはアルが作り出した土の竜がフェルメル城があった場所で鎮座しているのが見えた。
「はぁ……」
セシリアは深く溜息をついた。
今日も色々なことがあった。沢山魔物と戦って、人と出会って、生き残れた。今、生きていられていることが奇跡的な事では無いのかと冷静になったときにふと感じてしまう。
フールに出会う前は色んな人から馬鹿にされ、パーティにもあまり入れさせてもらえなかったから戦闘経験も無く、いつ死んでもおかしくなかったセシリア。
でも、フールと出会ってセシリアは成長できた。強大な魔物と戦い生き残れているこの結果が正にセシリアが成長している証明でもあるのだ。自分がアガレスの国のギルドに居たときのことが今では大昔の事に思えてしまう。
フールとみんなと一緒に居るあの時間が楽しくて、一生皆で旅をすることが出来たら良いな……そして、いつかフールと……
「……って、なんで気がつかないのよぉ、フールの鈍感男……」
1人で顔を赤くしてセシリアは膨れていた。旅を続ければ続けるほどフールへの思う気持ちが高まってきていることは分かっている。
「でも、乙女が自分から告白なんて出来ない。でもでも、フールは鈍感だし……私から言わないと……でもでも……にへへぇ……♡」
悩みの中でも膨らむ妄想にセシリアは1人にやけながら、少しの間けしからん妄想を楽しんでいた。
ある程度時間が経ち、妄想を楽しんでからセシリアはある事を思い出す。それは、ビフロンス湿地で玄武が見せてくれた死体の中にあった獣人の死体のことだ。
綺麗なドレスを身に纏ったまま白骨化していたあの死体を見て、自然と涙が出て来たことである。
別にあの死体を見て何かを思った訳でもなかったし、この死体に似た人と会った記憶も無い。けれども、なぜかあの死体の事が気になってしまう自分がいる。
「なんで、私あんなに……疲れてたのかな?」
ビフロンス湿地にはアンデット系の魔物が多く居たのもあって、セシリアにとってストレスが掛かっていたのは紛れもない事実。そう言った要素で自然と涙が出てしまったのかもしれない……と、セシリアは思うことにした。
「さて、そろそろ戻ろうかしら」
少しの間休んで、大分気分も落ち着いてきたセシリアはそろそろ聖騎士協会の建物へ戻ろうとベンチから立ち上がった。
その時、後ろの物陰から何か気配を感じた。
「おーーい、セシリアーー!」
その気配を感じた方を向くと直ぐに声をかけられた。そして、現れた人物はさっきまで妄想の中に居たフールだった。
「フール! どうしてここに? 休んでたんじゃ無いの?」
セシリアはフールの登場に耳をピンッと立てて,尻尾を左右に振り始めた。
「いや、セシリアがどこ行ってたのか心配になって探してたんだぞ」
「そ、そうなんだ。ごめんなさい、心配かけちゃって」
とは言いつつも、フールが心配してくれて探しに来てくれていた事が嬉しくなり、尻尾の動きが激しくなる。
しかし、フールと出会ってから少し違和感がした。セシリアは鼻が効く。勿論、フールの匂いは鼻の粘膜に染み付くくらい覚えているはずなのだ。目の前には確かにフールがいる。だが、そのフールからいつもの匂いを感じ取れないのだ。
それに気がついた時、セシリアの尻尾の動きが止まった。
「さぁ、一緒に帰ろう」
そう手を差し伸ばすフールの手をセシリアは振り払い、大きく後ろへ下がり剣を抜く構えをとった。
「あなた誰!?」
セシリアの言葉にフールはきょとんとした様子をする。
「な、なにを言っているんだいセシリア? 俺だ、フールだ。疲れてるだろ? さぁ帰ろ……」
「私は鼻が利くの! いつも一緒にいるフールの匂いなんて鼻に染みついてるわ! けど、あなたからはいつもの匂いはしない!!」
セシリアの言葉を聞いて、差し出していた手を下ろすと肩を小刻みに揺らしながら笑い出した。
「くっふふふ……なんだ、ばれてしまったですか。飼い慣らされた獣人だと舐めてはいたがそこは機能しているようですね」
そう言って、フールのような姿をした何かが指を鳴らすと姿が変化する。
背丈は少し小さく、黒髪ボブヘアで右目を隠した少女らしき者が現れた。服は肌が少し露出している軽装の鎖帷子とスカートにナイフホルダーと褐色の太ももが少しだけ見えるニーソスタイルの強化タイツに薄皮のシューズを身に着けている。
装備から見て、おそらく”暗殺者”または”盗賊”の職業に違いない。
「やぁ、ごきげんようですセシリア。僕はマルルク、君を迎えに来たです」
「あなたのような少女に迎えられるような心当たりはないのだけど? その名前も知らないし」
「少女!? ぼ……僕は男です!! また間違えられた!! わかんないです!?」
マルルクという少女はどうやら少年だったようだ。
「知らないわよ! そんな、女の子みたいな格好してたら誰だって間違えるわよ!」
「こ、これは別に僕の趣味じゃないです! これはウィーンドールが……無理やり……」
マルルクは顔を赤くしながらぶつぶつと何かを話している。セシリアは謎の脱力感に思わず呆れの溜息が漏れてしまった。
セシリアが自分に対して呆れているのを見たマルルクは冷静になり、セシリアに指をさした。
「そんなことよりセシリア、僕たちのボスが君に会いたがっているです! おとなしく着いて来ないなら力尽くで一緒に来てもらうぞです!!」
ボスという言葉にセシリアは反応した。
「ボス? あなた、まさか魔人なの?」
そう、ボスといわれて最初に思いつく人物はあのバルバドスしかいない。となると、このマルルクは魔人でありバルバドスの配下だと予想できた。
セシリアの言葉にマルルクも目つきを変えた。それは、先ほどのまでふざけていたような様子ではなく、魔人の威厳そのものを見せようとする姿勢となった。
「鋭いですぅ。てことは、もう僕らの仲間に会っているってことですね。それなら話は早いです。そうです、僕は魔人です。バルバドスの配下『魔人六柱』が一人、”幻影ノ王”マルルクでぇす!!」
「ですですうるさいのよ!!」
思わず突っ込みを入れてしまったが、魔人六柱と言ったマルルクはビフロンス湿地で死神ノ鎌を召喚させたダンドリオンと言う魔人と同じ仲間であるとわかり、気を抜いてはならないと感じた。なぜなら、ダンドリオンの力は本物だったからである。
「僕にそんな口をきいて居られるのも今のうちですよぉ」
マルルクはナイフホルダーからナイフを2、3本抜くとその内の一本の刃先をゆっくりと舐めた。
その様子を見て、セシリアの背筋に鳥肌が立つ。
「さぁ、一緒に遊ぶです♡」
せっかく休んでいたのにまた変な奴との戦いになってしまった。
急にバルバドスが直々に配下にセシリアを連れてくるよう命令を下した意図もよくわからない。だから、ここは勝って情報を吐かせるしかない。
セシリアは腰の剣を二刀抜いた。
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