98 善意の重み
「そうだ。ルカとくま吉に自慢しよう!」
偶然、手に入れたこの家を見せたらどう思うかな。信じるだろうか?
わくわくする。
足取り軽く出発!
今日も街は平和だ。
スリーピングキャットも昼寝を、あれ?逃げるように走り去った。
「キャー」
気の所為かもしれないけど、なんだか今、遠くで悲鳴が聞こえたような?
嫌な予感がして、騒ぎの方向へ自然と足は向かっていた。
この先には小さな市がある。
まさか。
「オークがあ!町中に。犯されるぅ」
手提げ袋から食品を撒き散らしながら涙目で逃げるおばちゃんとすれ違い、僕は走り出していた。
何をやってるんだ!
森林警備隊の人はっ。
走る。
走る走る走る。
心臓は限界でも、僕はサポート1の効果で止まらない。
近付くたびに、どんどんとざわめきが大きくなってきた。
「オークの侵入を許すなんて何年ぶりだ?」
「森林警備隊はまだ来ないのか?」
「あれヤバくないか?」
緊迫した空気は伝わってくるけど、人だかりで全然前が見えない。
冒険者の人もちらほらいるけど、誰も動き出していないようだ。
「ごめんなさい、通してください」
野次馬の足元を掻き分けて背の低い僕は最前列にようやく出ることに、成功。
視界が開けると、町中に侵入したオークが二匹と、既に誰かに潰されたゴブリンがいた痕跡がいくつかあった。
一匹は露店に並んだ果実を美味しそうに食べてる。こいつは後だ。
もう一匹は、腰を抜かして涙目で後退る女性を襲おうとじりじり近寄っている。
そんな2人の逢瀬にカットイン!
お前はぁ僕だけを見てればいいんだっ。
血走った目の貧弱な僕が、涙目の女性をスルーして、筋骨隆々の逞しいオークを襲う。
「うぉぉぉぉっ!」
全力で駆け出した勢いで厚い胸板に飛び込んでぎゅっと抱きしめると、オークが困惑した声を上げた。
「ぶもぅ?」
僕の言葉で痺れちゃえ!
「スタン」
「ぶもーーーっ!」
死のダンスを二人で完成させて。
まずは一匹。
オークBを倒した!
「あ、あ、ありがとう」
お礼を言ってきた女性にコクリと頷き応えて、雷光を纏ったまま次のオークへと近付く。
そいつは齧りかけのパルルの実を手にもったまま不思議そうな顔で見てきた。
「大人しく手を出すんだ」
僕たちはもっと分かり合うべきだと手を差し伸べる。
シャリ。
不思議そうな顔で、再びパルルの実に齧りついた。
ええい、まだるっこしい。
「スタン」
「ぶもももー」
適当に体を触って電撃をかますと、雑に倒したせいか暴れだしたオークの拳が露店の木柱を直撃してしまった。
メキメキメキィ・・・
あぁっ、ヤッバい。
オークAを倒した!
露店Aも倒壊した!
ぬぉぉぉぉ、オークめ。
もしかして、これ弁償するの僕なのでは?
返済相手が。小魔石に変わってこの世から逃亡した。
驚異が去ったはずなのに、新たな驚異が訪れて、がくがくと震えだす。
このお店は幾らするんですか?
格好つけてライ姉にお金を渡したから、手元にお金は殆ど無い。
店を潰された露店Aのおばちゃんが現れた!
ひゃん。しかも鬼の形相で近付いてくる。
あわわ、オーガより怖いよ。
手を伸ばしてくる。
ヒィィィ、さっきのは仕方が無かったんです。
回避失敗!
がしっと両肩を掴まれた。
泣きそう。
「怖かったかい?」
「は、はい。今も」
素直に答えると、おばちゃんの怒号が市場に響く!
「ちょっとアンタたち、こんな少年が怖い思いして戦ってんのに、どいつもこいつも何を腑抜けてるんだいっ!あたしゃ情けないったらありゃしないよ!」
「そうだ!腑抜けの冒険者どもめ」
「うぐっ」
はい?
怖かったのは貴女なわけで。
おっと、口は災の元。
どうやらお咎めはないらしい。
だけど、僕を想った余計な一言で、その場に居合わせた冒険者の人達が屈辱に染まった顔で俯いている。
ちょ、ちょっと。
僕が言わせたみたいになってない?
「彼らは悪くありません!」
おばちゃんが不思議な顔で見てきた。
なんで?って顔だ。
そんなの僕にも説明できないよ。うわわ。
「わ、悪いのは、森林警備隊です」
「そうかい」
「そうだ!そうだ!」
「エクス、庇ってくれてありがとう」
なんだか敵が大きくなったような気がするけど今のは仕方が無かった。
えっと?手持ち金庫を持った男の人が話しかけたそうにしてるんだけど何だろう?
「魔法使いさま。先程は、妻を守ってくれてありがとう御座いました。これは少ないですが、店の全財産です!どうか受け取ってください」
重っ!!
なんで全財産なの?
「・・受け取れません」
「そんなっ!?」
泣きそうな目で見てきた。
貰ってくれなきゃ私が困るの!というルカの言葉がリフレイン。ぬぐぐ。
「代わりにこれを貰いましょう」
逃げるように歩き、彼の店先からよく分からない商品を一つ手に取ると、歓声が上がった。
「偉いじゃないか。ちょっと待っててね」
「格好良いぞ、坊主!」
「良くやった」
ふーっ。あまり目立ちたくないしね。
え?ちょっと、やめて。
露店Aのおばちゃんが満面の笑みで壊れた店に近づき戻ってくる。
その手には、果物袋。
「これは私の店からだよ」
嬉しいけど、多いです。
「そうだ!俺の店のも受け取ってくれ」
「私のもあげるわ英雄さん」
「うちのも持っててくれや!魔法使いはん」
重い。
皆の感謝が重い(物理)
どこで間違えたのか分からないよ。
非力な僕には無理です。
ニトラー助けてー。
目の前に積み上がった善意の貢物に困っていたら、お爺さんが声をかけてきた。
「ほっほ。小さき勇者よ。お困りのようじゃの」
その声に光を感じて見上げる。
「先程は見事じゃったわい。どれ、儂からもプレゼントしよう」
その手にはマジックバッグ。
超高級品!
「そ、そんな。頂けません」
「若者が、遠慮などせんでええ」
お爺さん。
んん?
アイテムバッグの中から背負い袋を出してきたぞ。まさか?
「ありがとう?」
「これで運べるじゃろう」
いっらねえええ!
しかも親切な人が、パッキングしてくれるし。どうぞ、だって?
ふんっ!
一応持とうとチャレンジしたけど、やっぱり重くて全く持ち上がりませんでした。
「ごめんなさい」
「いやいや、問題ない。誰か背負わせてやるのじゃ」
ふんぐぅ。
これまた親切な人に背負わされると両肩に重みが。持てた!僕でもこうすれば持てるんだ。知らなかった。
「お、重い」
「座ったら起き上がれなくなるから、休むときは荷物を壁に押し付けるようにして立ったまま休むんじゃぞ」
ずん!ずん!ずん!
僕の苦行は始まった。
両肩には無垢なる人々の善意という重みが食い込む。
「英雄さーん、ありがとう!」
「格好良かったよーー」
多くの人の暖かい歓声に見送られながら僕は出発した。市場を抜けて歓声が消えると現れたのは、虚ろ。
「ねえねえ」
「ん?・・・今大変だから、後でね」
「レビテト」
苦痛から解放されていく。
まるで、罪が赦されたかのような。
「ありがとう。軽いっ!見直したよ」
「えへへ」
スキップしながら、ルカの家を目指そう。







