95 マイホーム4
「馬車で訳有り物件まで案内しますわ」
悪戯っぽく笑うルーラに手を引かれて、店の前に止まっていた豪華な馬車に連れ込まれる。
内装が見た事も無く豪奢で落ち着かない。王族専用馬車のクッションはとても触り心地が良くてふかふかだし、揺れもなくて静かだ。
「うあっ・・・豪華だ」
ニトラとライ姉を見ると、借りてきた猫のようにガチガチに緊張してちょこんと座ってる。
「姫様、エクス様が気に入られたようなので同じ物をプレゼントするのは如何でしょうか?」
「爺や、良い考えですわ」
「いやっ催促したんじゃ無いです」
慌てると、悪戯成功みたいに笑われた。
迂闊な事は言えそうにない。
「ルーラ、どこに連れて行かれるの?」
「ふっふふー」
着いたのは、何処かのお屋敷。
妙なのは人の気配がしないのに、新築特有の木材を削ったいい香りに満ちている事だ。
「着きましたわ」
で、デカい。
後から追いかけてきた支店長も目を白黒させている。
「・・・これが、僕の家!?」
戸惑っていると爺やが声を掛けてきた。
「エクス様。ここが訳有り物件なのは、没収された家(鉱山送りにされたギルマスの新築)だからです」
「それと、何の関係が?」
ルーラが悪戯っぽく笑う。
「なので、オークションのスタート価格は、金貨1枚ですわ」
「ず、ずるい」
良いのか、それ?
店員のお姉さんが興奮した声をあげる。
「凄い!あぁー良いな。これに憧れない女子はいませんよ」
ニトラがくんくんと鼻をひくつかせ、目をキラキラさせてふらふらと探検に出発したそうにしている。
爺やが再び声を掛けてきた。
「エクス様、ここにして頂けますと国の面子も保たれて助かります」
「僕は・・・」
こんなの貰っていいのか。
身の丈に合っているのか。
僕の半身の虚ろはどう思うんだろうか。
「げっ!?」
心と対話するまでも無く、虚ろが幽霊のように体から漏れていた。
黒いモヤのような僕より小さな悪魔が、わくわくしながら屋敷を見ている。
冷や汗が流れ落ちた。
魔導師としてのステージ3に到達。
侵食度が増して、人間を辞めつつあるようだ。
詳しくは分かっていないが、完全に侵食されて実体化してしまうと、魔王になるとか魔人になるとか仙人になるとか言われている。
というのも、虚ろは人間と価値観や倫理観が違いステージ3を超えた魔導師は人里から出ていくため、詳しく分かっていないのだ。
だから、黒服の護衛に槍や杖を突き付けられて一気に緊迫した空気に包まれたのは、安全上、仕方が無い。突然、斬りかかられないだけマシだろう。
爺やが険しい顔をして、犯罪者鑑定の魔道具を取り出して覗き込み、変な顔をして首を捻った。
「グリーン。まだ油断なりませんぞ。エクス様、申し訳ありませんが願望読取器を使わせて頂きます!」
「どうぞ」
拒否権は無く拒否するつもりも無いけれど、どうやら新たな魔道具を使うようだ。
お裁きの結果を待つ。
緊迫したビリビリした空気。
僕の体から勝手に出た虚ろが、不安そうに僕を見上げてきた。
いや、お前のせいなんだけど。
魔道具が光り、結果が出たようだ。
それを見た姫様が腹を抱えて大笑いし、爺やがマジかこいつぅって目で見てくる。えっと、悪いのは虚ろだよ?
「うふふふ。さすがは大魔導師さまですわ」
「ええ、姫様。噂は真に当てにならないもので。爺やは年を取ったのか、いささか疲れました。エクス様、どうか御無礼をお許しください」
黒服の護衛が警戒を解いて、無罪放免されたよう。
一気に和やかなムードになり、虚ろがもう良いよね?とソワソワしながら見上げてきた。
「はぁ、良いよ」
「キャハハハ。僕のイエ、イエ、イエーーー!」
楽しそうに虚ろが新築の探検に出発して、ニトラがうずうずと興奮して、てちてち歩いていく虚ろの背中を堪らず追いかけた。
「爺や、これからの説明を」
「はい、姫様分かりました。エクス様、これが家の鍵になります。後日。職人や世話係を手配しますので、その者達にご要望をお申し付けください」
僕は、こうして豪邸を手に入れた。







