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92 マイホーム1


 部屋を借りるよりも、買えば良いのでは?

 それは突然の閃き。

 今日の僕は冴えている?


 冒険者は一山当てたら家を買う。

 実は少し憧れだった。


 そんな訳で、緊張しながら2人を連れて不動産屋に入ると笑顔でお姉さんが迎えてくれた。


「今日はどうされました?」


 お約束の台詞を言われて胸が高鳴る。この後に返す台詞は、決まっている。


「実は、一山当てましてね」

「それは、まぁ!おめでとうございます」


 ニッコリ笑って驚いたような演技をしてくれた。茶番だけど。

 う、嬉しい。


「それで、ご予算は?」

「はい。金貨5枚でお願いします」


 店員さんの笑顔がひくついた。

 え?


「そのご予算だと訳あり物件になってしまいますが」

「望むところです」


 僕の延長魔法は生活レベル向上に極めて相性がいい。安宿だってみんな驚く高級旅館へ早変わりするだろう。

 秘策に笑みが溢れる。


「なにか条件はありますか?」

「ありません!」


 訳あり物件、どんと来い。

 劇的ビフォーアフターをお魅せします。


「そうですか?ハァ・・・。では、まずは近いところからご案内しますので付いてきてください」


 胸を張った僕を見て、疑わしい顔をした店員さんの背中を追う。

 ふふふ、お姉さん。

 後でびっくりしますよ。


「まずは、一軒目。崖の家なんて呼ばれてます」

「崖?」


 いきなり不穏なワードだけど、相手にとって不足なし。


「ここは有名な物件で、つい3日前にまた売りに出たんですよ」

「ラッキーですね」


 単純に喜ぶ僕を見て店員さんは、心を痛めた顔をした。


「こちらになります。平地、3階建、好立地、一軒家」

「いい!」


 案内されたのは、予想してたよりはるかに大きい家だった。


「ただ少し・・・訳ありでして」


 陰った顔の店員さんが扉をゆっくりと開き、室内が見えて思わず絶句した。


「うっ」


 びっくりさせられた。

 予想を超えてきた。

 訳あり物件におののく。

 だって、眼の前に突然現れたのは・・・壁。


 狭っ。

 すぐに見えたのっぺりした壁面には、なぜか小さな変な形の岩が無数に打ち込まれていて、これが崖を演出しているのだろう。


「ここは暮らせるんですか?」


 店員さんをじと目で見つめたら、目を反らされて営業トークが始まった。


「ここは、崖をイメージして建てた獣人のデザイナーズハウスです。日常に運動を取り入れた新しい暮らしをご提案。ちなみに寝室は3階付近、です」


 ニトラだけが、その言葉に反応してテンション高めに尻尾を振りながら家の中に入ると、壁面の岩を掴んでひょいひょいと身軽に登っていった。


「・・・ベッドまでが遠い」


 見上げるとあまりの高さに目眩を覚える。

 しかも高くなるにつれて足場になる石が少なくなってきて次はどうやって登るんだろうと悩んでいたら、ひょいっとジャンプして岩に捕まってぷらぷらと揺れた。

 うわっ、ニトラの笑顔が眩しい。


「楽しい。お兄さんものぼろ!」


 いやいや。ニトラさん、僕はそこまで登れないよ?


「ちなみに、前の家主さんは入院されていますが、どうされますか?」

「次、お願いします」

「うーっ」


 ニトラは不満そうだけど却下。だって、僕はベッドまで辿り着ける気がしない。


「そうですか。ええっと」

「人族向きの場所でお願いします」


 獣人凄い。


「あっ!少し懸案がありますが、お勧めがありましたよ」

「ぜひ、お願いします」


 自信有りげに案内されて付いていくと、いつものスラム街へと辿り着いた。店員さんが鼻をひくひくして首を傾げる。


「あれ?いつもの異臭がしませんね。側溝の水も綺麗ですし。どうしたんだろ」

「何かありましたか?」


 サポート1スライムかも。

 触れられたくないので誤魔化す。


「いえ、臭いだけが心配だったんですが懸案が解消されました。次の物件はあの値段帯では作りも良くて、きっと気に入って貰えるはずです」

「楽しみです」


 さらに自信オーラを燃やして案内してくれてたお姉さんの脚が、目的地に着いたのかピタリと止まった。ガクガクと震える。


「うふふふ。屋根が焼け落ちてます。もちろん割引しますけど。屋根割り」

「・・開放的ですね」


 お姉さんの自信オーラがぷすんと消えた。

 屋根を作るところから始めるのか。

 でも、これくらいなら。


「あぶにゃ!」


 ニトラの短い警告がしたかと思うと、びゅっと何かが顔に飛んできた。

 ぱしっと小石をキャッチしてくれたニトラが毛を逆立てる。

 どうやら、問題はさらにあるらしい。


「くそっ!盗り返しに来たのか!」

「ちくしょー。渡したくねえよ」

「出ていけー。ここは俺たちスラムドッグのアジトだー」


 ガサゴソと動く音の方向を見ると、投石してきたのは孤児の少年達のようで威嚇してくる。


「すみません。エクスさん。もちろんハウスクリーニングしての引き渡しとなりますのでご安心ください」


 お姉さんの笑顔が怖い。

 八つ当たり入ってませんよね?

 ライ姉が、ぽつりと呟いた。


「ここ、私達の家だった」

「え?」


「もしかして、気に入られました?」


 食い気味のお姉さんに待ったをかける。

 さっきの言い方だと、ちょっと前まで住処にしていた場所なんだろう。


「えーと、少し考えさせてください」


 悩む僕に、お姉さんは来店したときに見せてくれた営業スマイルで微笑んだ。


「エクスさん。良かったら、私に任せてもう一軒だけ見に行きませんか?」

「はい」


 最後の一軒。

 連れて来られたのは、そんなに大きくないし、少し古臭い家。

 部屋を移動しながらセールストークが始まる。


「個室が3人分。台所に応接間。市場も近いし立地は悪くありません。どうか想像してください、ここでの暮らしを」


 微妙な家。でも僕の魔法があれば大化けする可能性をビンビンと感じる!探してたのはまさしくこんな家だ。


「良いですね!」


 心が決まりかけたとき、お姉さんが申し訳無さそうに告げた。


「ただし。・・・ここだと、少し足りないのでローンになります」

「ローン、ですか」


 家選びって難しい。

 崖は無しとして。

 少年達からアジトを奪うのは嫌。

 ローンも嫌。

 どうしよう?


 というか、そもそも無職なのにローンなんて借りられるんだろうか。

 でも、想像なんかしたから住みたくなっちゃったし。うわぁああ悩む。



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― 新着の感想 ―
[一言] 屋根割りwww 想像を超えるイレギュラーだろうに、お姉さんの対応力すげぇな!?
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