90 ニトラとライ姉5
ニトラを追って部屋の外に出ると、領軍の3人組が暗い顔でまだ待っていた。
「まだ、いたんですか?」
「もう捕まえる気はない。ただ先ほどの件を謝らせて欲しい」
僕の首を絞めた人が、1歩前に出てきて震えながら膝をつく。
あれは、土下座スタイルの予兆。
「止めてください」
「いや、エクス先生。どうか謝らせて欲しい」
僕は別に謝ってなど欲しくないのに。
まるで話を聞かない人に僕は魔導師らしく実力行使に出た。
「アイスボール!」
「どうか、この通りだっ。本当にすみませ。うぐっ」
僕の放ったアイスボールは、土下座の構えをした領軍の人の頭と床の間に命中し、土下座のキャンセルに成功。
「頭は冷えましたか?」
「謝らせてもくれないの・・だな?」
絶望の表情で、土下座に失敗し床にめり込んだアイスボールで頭を打って額を赤くした領軍の人が僕を見上げる。
「そうです」
「そうか」
泣きそうな顔へ僕は言葉を連ねる。
「貴方は確かにやりすぎました。罪のない領民の首を締め上げるのは問題です。しかし、それは領民の平和を守りたかったから。違いますか?」
「ち、違わない。その部分に嘘はない」
「なら。いいじゃないですか。何も起きなかった。それで」
「・・・いいのか?」
表情には希望が宿る。
「はい。立ってください」
「ありがとう」
手を差し伸べて、ぐいっと引き上げたらあまりの体重差にふらついた。
僕ってやつは。
「悪いのは、全部子爵さまです」
恥ずかしさを誤魔化すようにそう締めくくり、呆気にとられて安堵と感謝の表情を浮かべる領軍の人たちとお別れした。
彼らの敬礼に見送られて、屋台へと出発!
謝らなければいけないのはむしろ僕の方だ。
「ニトラー。さっきはごめんよ。串焼きあげるから許してー」
雑踏へ消えたニトラへと語りかけるが反応はない。
いや少し茂みが動いたような気がしたから、もう一押しだ。普通にお願いして駄目なら、納得するまで串焼きを積み上げるまで。
「食べ放題だよ。今なら食べ放題ーー」
ぴこぴこと耳を動かし、ひょこっと建物の陰から現れたニトラに安堵する。
「串焼きたべつくす」
「うん。満足するまで食べていいよ」
「ごめんなさい、ニトラ。私が間違ってた。努力は自分でするべきだった」
僕はライ姉を残念な目で見た。
くんくんと鼻をひくひくさせるニトラを先導に屋台へ足を進める。
今夜は飛び切り美味いものが食べれそうだ。
「ここ!」
興奮したニトラの選んだ行列に並んだ。
なるほど、美味しそうな匂いがする。
これは期待が高まる。
空腹は最高のスパイスだからとお腹を減らしながら待っているといろんな人の話声が聞こえてきて、僕の気になるキーワードが耳に入ってきた。
「やっぱり、新型結界が止まってないか?今日も屑魔石が一個も落ちてなかったし」
「だから森の中にゴブリンが多いのか。ちゃんと仕事しろよ森林警備隊め」
そういえば、僕の代わりにかけられる人はいないかも。
でも元々の結界があるし大丈夫だろう。
「御主人様、どうしたんですか?」
「ううん、何でもない」
どうやら列が進んでいたらしい。
依頼の事を考えるのはもうやめよう。
ニトラにぐいぐいと引っ張られながら僕達は順番が来るのを待った。
結論から言うと、美味かった。
それに体調が回復したのか僕も串焼きを丸々1本食べれるようになっていた。
ライ姉が0.5本で、ニトラは2.5本。
いったいあの体のどこに入るのだろうか?顔をべたべたにして幸せそうな顔をしたニトラにほっこりする。







