87 ニトラとライ姉3
僕はスライム枕の事で頭がいっぱいだった。帰り際、ルカが何か言いたそうだったけど、虚ろの衝動を優先してしまったから、今度会った時にゆっくり聞くから許して。
走る、走り続ける。
サポート1の無限APで走り続ける事が可能なんだ。
問題は僕の足がたいして速くない事くらいか。
宿屋の前に着くと、スラムの住人と見られる足の悪い老人が座り込んでいた。
何だろう?
「すみません、ちょっと通してください」
「あぁ、悪いな。坊主。邪魔だったか」
「いえいえ」
すれ違い際、仲間と見られるスラムの住人が老人に声をかけた。その会話に僕の名前が出てきて耳が奪われる。
「よお、エクスは現れたか?」
「見ないな。姐さんの話によると女神を侍らせた熊の縫いぐるみを持った少年なんだろ」
「あぁ、見つけたら大銀貨1枚。オーク肉にキングエールをたらふく飲めるぞ」
「夢なんか見るな。エサ取りしてる俺らには小銀貨1枚でもありがてえよ。ウラカルさんに感謝だ。馬鹿言ってねえで交代の時間だ」
「・・・だな」
おおっと。どうやら彼らは何日も僕を待ち構えていたらしい。
お疲れ様です。僕はここですよー。
もしかしたら、存在感の薄い僕はシーフが天職なのかもしれない。
そんな事を考えていると、ゴール手前で隣の扉がゆっくりと開いた。
中から出てきたのは、屈強な領軍。
1,2,3人。
1人でも無理そうなのに3人とか。
そういえばウラカルから聞いた話だと、彼らは隣の部屋で張っているとか言っていた。
僕はすぐに油断してしまう。忍び足を忘れるなんてシーフ失格だ。
でも。入口の二人組のように誤魔化して行けるか?
「すみませーん、通してください」
「駄目だ。少し確認させてもらう。ふむ、エクスだな?」
ひゃん。
魔道具みたいなので調べられて、あっさりバレた。
「そうですが?急いでいるので通してください」
「駄目だ。何をやったが知らんが、君には子爵さまより出頭命令が出ている。大人しく我々に付いてきてもらおうか」
まるで犯罪者のような扱いだ。僕は悪くないのに。
ルカから教わった魔法が口をついて出た。
自分のものになってきた感すらある。
「・・・嫌です」
「なっ、何だと?逃げれば罪が重くなるぞ」
嫌だ嫌だ嫌だ。僕はスライムまくらのためならきっと本気が出せるんだ!
うぉぉぉぉっ
ドアノブに手を伸ばす。
「わぁぁぁ」
「駄目だと言ってるだろ少年?」
簡単に腕を掴まれてぷらーんと宙づりにされた。
彼らは門番として、街を守っている守りのプロ。
僕の素早さでは難しい。
ギッっと睨んでやったが僕の脅威度が低すぎるらしく、困った顔をさせてしまっただけ。
ファイヤーボールを使って良ければ倒せるのに、それだとオーバーキルだし。
ままならない。
あと少し、あと少しなのに。
そんな僕の想いが通じたのか、自分の借りてる部屋のドアが勝手に開いた。
出てきたメイド服の少女ライ姉はお目目をぱちぱちする。
「ご、御主人様。お帰りなさいませ。・・・ところでいったい何をされてるのですか?」
宙づりにされてる?
そんなの僕も聞きたいよーと領軍を見た。
「お嬢さん。エクスには領主様より出頭命令が出ている。これから子爵家へ向かうところだ」
「僕は行きません!」
駄々をこねると、ライ姉が困惑しながらも領軍を見つめて口添えしてくれた。
「御主人様は行かないと申していますが?それに、何か連れて行かれるような悪い事をしたのですか?」
「お嬢さん。それについては守秘義務というやつで詳しい話は隊長しか聞いていない。だが、エクスも疑いが晴れれば解放されるだろうから安心したまえ。やましいところがなければ大人しく付いてくるんだ」
そして、また奴隷みたいに働けと?
「もう働きたくないんです」
「は?」
何も事情を聴いていない副隊長の目が点になった。
「だから、もう働きたくないんです」
「んん?お前が何か犯罪行為を働いたから出頭命令が出てるとかではなくて?」
そっと拘束を解かれて領軍の人の目つきが、警戒から同情へと変わる。
「はい」
しょんぼりすると、領軍の人たちが困りだした。
「副隊長、どうしますか?」
「いや、しかし嘘を言っている可能性も。そこはかとなく怪しいし」
「確かに今まで隠れていた事からその少年は怪しいのですが、自分には、・・・無害そうに見えます」
「状況は複雑だ。データが確かなら初級魔法しか使えないらしいし、私もそう思いたいが、単純に決めつけるのは早計だ」
「で、どうします?」
しばし、副隊長の答えを皆で待っているのと重い口を開いた。
「隊長が不在である以上、全権は私にある。すまないが、怪しい少年には子爵家に行ってもらい、そこで身の潔白を証明する。これでどうだろうか?」
「証明・・・・」
嫌な顔をすると、沈痛な表情で諭された。
「頼む。分かってくれ少年。大人になれよ、我々も仕事なんだ」
「僕は仕事ではないので」
そこはハッキリさせておこう。
「んぐっ。しかし、そもそも今までどこに隠れていたんだ?」
「僕は隠れてなんかいません。隣町のシープタウンにいました」
あれ?なぜか急に領軍達が警戒色を示してきたんだけど。
「なら、どうやって街に入った!?我々の厳重な警備を不正に潜り抜けたとでもいうのか?」
「えっと。・・空から?」
おおっと、今の発言に問題があったらしく3人の領軍は棒まで構えてきた。
「副隊長、すみません。自分が間違ってました。この少年、やはり危険です」
「私も同意です副隊長、今までの言葉とても信じられません。リョグ隊長の追撃を振り切り、我々のガードを潜り抜けたなど」
「そうだな。不可能だ。虚言癖の疑いがある」
「嘘なんかついてません。僕はドワーフの国のアミン女王に連れてきてもらっただけです」
説得するつもりが、駄目だーーーー。なんかしまいには怒り出したし。
「アミン女王だと?我々を馬鹿にするのも大概にしたまえ。ゆっくりと子爵家で真実を聞かせて貰おうか!」
「ふぐっ」
痛いっ、激昂した部下の1人に首を締めあげられた。
そうだ。証明すればいいのか真実を。
僕にはそれが出来る。
「貴様ッ。じっとしろ。何を取り出そうとしている?なぜ答えない?」
首を絞められて喋れないんだよ!ごそごそと、ポケットを漁り冷たい金属を掴んだ。
締め上げられたまま見せつけようとしたら、手を叩かれてチャリーンという音を立てて酒場でお酒が無料になるコインが廊下に転がっていった。
「ん?落としたのはコイン?コインなんか出して何がしたかったんだ。んぐうううう!!!!!!」
「副隊長?どうしたんです???何かトラブルでも?」
「あわわわっわ・・・この馬鹿者がッ!そのお方から、すぐに手をお離ししろ」
「はあ??何を言ってるんですか?副隊長?」
「お前が首を掴んでいるそのお方は、神職人のエクス先生であられるぞ」
「・・・・んあ!!!」
「ごほっ」
どうやら誤解が解けて解放されたようだ。
副隊長の声は震えていた。
「もしかして、今までの話は全て本当でしたか?」
「副隊長、ではこの一件は技術力を狙って子爵さまが私欲に走った発令をしたものかと愚考します」
「お、俺は、、おしっこマンの二の舞になるのか」
首を締めてきた人を見ると、顔面蒼白の顔をしている。
誤解は解けたようだ。でも痛みから口調がキツくなるのが分かる。
「そろそろ、部屋に入ってもいいですか?」
「どうぞっご自由に!!!」







