8 無職始めました(1日目)
圧倒的な爽快感。
湧き上がる活力。
嗚呼、自由って素晴らしい。
僕の死んだ目にも光が戻ってきたような。
何をしようか。
時間がある。
お金も少しある。
なんせ5年間。休まず指名依頼を受けまくってたから。指名依頼料金はなんと通常依頼の5割増し。
指名依頼は、最悪だった。E級依頼だから5割増えても安いし、断れないせいで休みもなかった。一番嫌いな言葉は指名依頼かもしれん。
小金持ちになった本当の理由は、お金を使う時間と気力すら無かったこと。泣いてもいいかな?
久しぶりの休みを満喫。
というか、これからはずっと休みだけど。
ニヤニヤが止まらない。
朝露から立ち昇る爽快な草の匂いを腹いっぱい吸い込みリフレッシュしていると、屋台の串焼きの匂いを見つけた。
猛烈に刺激された食欲に突き動かされるように、ここからは見えない位置にある屋台を探す。キョロキョロと探しに歩くと通りの曲がった先にあった。
「屋台を発見っ!まずは本能のまま食い倒れるまで肉を喰らう。串焼き一つくださーい」
「はいよ」
ベンチに座り、たれがてらてらと輝く大きなキングオークの串焼きにかぶりついた。こんなの食ったのはいつぶりだろうか。
そういえば昨日何を食べたんだっけ?
よく思いだせない。
つまり、飯に興味が持てるぐらいには心に余裕を取り戻せた事に気付き嬉しい。
「美味っ。そして重っ。うへぇ〜重すぎる。もう、これ以上は食えないかも」
残念ながら、ブラックな仕事でダメージを受けすぎた身体にはこってりしすぎて受け付けないようだ。
暴力的に美味みが口いっぱいに広がるけど、リハビリしないとムリだよと胃がキリキリと痛んで拒絶反応を起こしてる。
まさか一口目でギブアップだとは。
串焼きをぷらぷらと遊ばせながら、ここまで情けないと逆に笑えてくる。
「もう、たべないの?」
幼女の声が聞こえた。
声の方を振り向くと、スラム街の住人っぽい服装をした幼女が恥ずかしそうに目を伏せた。恐らくは、偶然見ていて無意識で声が出たのだろう。
「あげるよ。胃がびっくりするから、ゆっくり食べてね」
自分の事を棚に上げて、食いかけの串焼きを手渡すと、戸惑いながらも受け取ってくれた。
「いいの?ありがとー、お兄さん」
「どういたしまして」
キラキラした感謝の笑顔で見つめられるとなんだかこっちが照れてしまう。
嬉しそうにバイバイして路地裏に消えて行った幼女を見送りほっこりした。また会ったら何かご馳走してあげよう。
「満たされてるな無職生活。だけど僕はまだまだこれぐらいでは満足しない。欲望のまま生きるっ。次は、久しぶりに何か買ってみるか」
欲しい物は無いけれど、無性に散財したい気分なんだ。
青空を見つめてぐいーっと背伸びをして立ち上がり、意気揚々とショッピング街へと足を運んだ。