74 没落の足音(子爵8)
飼い犬に逃げられた。それが子爵さまの偽らざる気持ちであり、激しい怒りは執事へと向いた。
「イエスマン!!なぜあの欠陥魔導師をいまだ見つけられんのだ?勇者イゼルは、この緊急時に何を遊んでおっぐぅ。フーッフーッフーッ」
さらに怒りのエネルギーは子爵さま本人にも向いてしまったらしく、苦しそうに胸を押さえる。
「子爵さま。お身体に障りますので、どうかお気を鎮めください」
子爵さまは、アドバイスどおり気を鎮めるため責任を擦り付け始めた。
「イエスマン、お前は分かっているのか?姫様との約束をこれ以上は引き延ばせんのだぞ??」
イエスマンは沈痛な表情で、もう何度目になるか分からない言葉を繰り返した。
「はい。エクスを全力で探します」
そう。
・・・あれから、3日が経っていた。
驚く事に、
エクスはまだ見つかっていない。
誰もがすぐ見つかるだろうと思っていた。
それが、どうだ?蓋を開けてみると、ぽやっとした危機感のまるで感じられないエクスを、誰も発見する事が出来ないときた。
もしかして追われている事に気付かれたのだろうか?
「エクス、貴方はどこにいるんですか?」
イエスマンは静かに目を瞑り己に問いかける。ぴくりと瞼が動き打開策を探し当てたようだ。
「そうだ!・・・ワールドサーチなら分かります」
そして向かったのは、魔術師の庵。
「イエスマン様、本日はどんな御用向きでしょうか?」
「ワールドサーチが使える魔導師に会わせなさい」
「では、チャンネルを繋ぎますのでこちらでお待ちください」
部屋に通されてしばらく待っていると、中央に鎮座した水晶が光り、水晶の中に王都にいる落ち着いた老人の姿が映った。
「我の命題は検索。何でも答えてみせますので任せてくだされ。心配無用ですぞ」
「頼もしいですな。では、彼がフォレストエンドのどこにいるか居場所を教えてください」
エクスの雇用明細書を見せると、自信たっぷりだった魔導師がなぜか動揺して尻もちをついた。
「ひいっ。え、エクス様!?」
「おや?お知り合いでしたか。ところで、エクス様とは?様付け?」
イエスマンの疑問に老人はよろよろと立ち上がると力なく首を横に振った。
「僭越ながら私どもが一方的に存じているだけに御座います。ワールドサーチ」
『エクスの現在地は、シープタウンです。人形遣いのルカと行動を共にしています』
イエスマンの耳がぴくりと動き、予想外の回答を拒絶した。絶大な信頼を寄せる街の警備の要の魔道具サーチアイが破られた事など過去に無かったからだ。
「有り得えません!エクスが、フォレストエンドの厳重な警備をすり抜けて脱出したとでも言うつもりですか?部屋に残されたメイドは囮だと?」
「落ち着きなさい。シープタウンにいるのは間違いありません。お客様は、分かっていないようなので1つ無料で教えてさしあげますぞ。エクス大魔導師なら有り得るんですぞ」
大魔導師???意味不明な過大評価すぎる称号に、さすがの執事イエスマンも動揺を隠せない。
「エクスが大魔導師!?いえいえ、私の探しているエクスは、魔術師の庵を門前払いされたエクスですよ。新聞に載っていたエックスではないんですよ」
「ちっちっちっ。青いですのう。それは新聞が間違っておるのですぞ」
暴かれる真実。
勇者新聞のフェイクニュースだった。
「な、なんですと。・・・正気ですか?」
「ふむ。まるで少し昔の自分を見ているようだ。それは高度な擬態ですぞ。我々は、エクス大魔導師の狡猾な個人情報操作に弄て遊ばれてると認めるべきです」
魔術師の庵から出たイエスマンの顔は青ざめて、夢遊病患者のようにふらふらしていた。
「意味が分かりません。いつの間にエクスが大魔導師に?魔術師の庵で、悩みを減らすつもりが増えてしまいました。ひとまず探してから考えましょう」
次に会いに行ったのは、領軍のリョグ。
「リョグ、経過報告をしてください」
「エクスは3日後に帰ってきやがる。あと、3日待ってくれりゃ良い」
イエスマンは目頭を押さえた。
「貴方は、昨日も一昨日も同じ事を言った記憶はありますか?」
「し、しかし。今朝、エクスの部屋にいるメイドから直接聞いたんだ。だからよ。間違いねえ」
イエスマンは、思わずため息が漏らした。領軍は実戦に重きを置き過ぎているため、一番強いヤツが隊長なのだ。肉体は強いが頭は弱いので困る。
「エクスですが、シープタウンにいる事が分かりました。追手を出してください」
「それは出来ん。警備が優先だ。それに、あと3日待てば帰ってきた所を捕まえられるからよ。焦らず安心して待ってくれや」
・・・その台詞も3日前に聞きましたよ。と、イエスマンは安心どころか、眩暈を覚えた。
イエスマンは、もはやリョグに何を言っても無駄なのだと悟り、最後は頼りたくない森林警備隊のイゼルに会いに行った。
「イゼル。エクスですが、シープタウンにいる事が分かりました。すぐに追手を出してください」
だが、返ってきたのは意外な反応。
「ふん。儂は既にそこを探らせている。人形姫と行動を共にしているところまでは掴んでいるが、そこから足取りが消えておっての」
信用出来ない相手だが優秀ではあるようだ。情報を隠されていたのは腹が立つ。狸ジジイめ。とイエスマンの言葉は鋭くなる。
「それで、どのように進めるつもりですか?」
「第三の手を打つ」
秘密主義な偉そうなイゼルにイエスマンは、こめかみがぴくぴくと動く。
「ちなみに、第一も第二も詳細を聞いておりませんが」
「企業秘密だ。しかし、そうだな。少しだけ話してやろう。スラム帝国のウラカルを使った」
その名前を聞いたイエスマンが嫌そうに顔をしかめたが、イゼルは人脈を見せつけれたと幸せな誤解をしてニヤリと笑った。
「あのウラカルを!?」
「そうだッこれが儂の人脈よ」







