66 俺たち森林警備隊5
エクスの常宿に向かって、仲の悪い2人は肩を並べて歩く。森林警備隊の勇者イゼルは領軍のリョグに文句をつける。
「君ぃ。なぜ儂について来るのだね?」
「嫌なら、別方向から帰れよ。もう勝ったつもりか?」
勧誘合戦となると、この街のヒーローである森林警備隊が有利だろう。リョグの指摘どおり勇者イゼルは勝ったつもりでいた。
執事は、エクスが出掛けた事を伏せていたため、出てきたのはメイド服のライ姉。
「御主人様は、3日後に帰宅予定です」
顔を見合わす2人。
エクスが外出したなら、門を押さえている領軍が圧倒的に有利で2人の立場が逆転する。
口笛を吹いてリョグが消えた。
「ヒューッ!イゼル爺さん悪いな」
「なんのなんの、まだ終わってはおらんよ。若造は短絡的で困るのう」
巻き返しを計るイゼルは、起死回生の一手を打つためスラム街へと足を運んだ。
彼の属する勇者協会は、ヤクザ組織であり裏社会の顔である。頼ったのは、同じく暴力組織。スラム帝国。
スラム帝国。
パチパチと火の爆ぜる音を聞きながら、机の上に足を伸ばして座り、ウラカルは眠そうにしていた。横に座った姐さんがイチャイチャしてくるが、焚き火の明かりがどうにも邪魔だ。
女の格好をした部下が来客を知らせる。
「ボス、客です」
「んあ?・・・通せ」
「続きはまた後でね。アンタ」
姐さんの温もりが腕から消えて、しばしのお別れ。
全く誰だ?
こいつは、たまげた。
現れた勇者イゼルは開幕早々にケンカを売ってきた。
「ネズミ君。喜べ、仕事を出してやろう」
「まぁ座れよジジイ。自ら来たって事は相当焦ってんだろ。別にこっちは受けなくたっていいんだぜ」
ウラカルは、怒り狂いたくなる気持ちをぐっと抑えて、ニヤニヤ笑って余裕を見せてやった。あぁ、余裕があるのは新兵器があるからさ。ミニスカにコートを着た可愛い部下がお茶を出したが。
「喉が乾いていてね頂こうか。ウラカル君、冗談だよ。すぐに拉致して欲しい人物がいる」
「どんな奴だ」
ちっ、無反応か。
枯れてんのかねえ。イゼルの野郎は男の娘を一瞥しただけで平然と茶を飲みながら話を続ける。
「ひょろいガキだ。欠陥魔法使いエクス。領軍から、奪ってこい」
「エクス!?」
ぶふっ。
予想外すぎて茶を噴いてしまったじゃねーか。
くそっ、さすがは老害勇者か、今夜は相手の言い値になりそうだ。イゼルに追撃される。
「ふむ。ウラカル、どうやら自信が無いようだの」
「一つだけ確認させろ、拉致だな?ハニトラじゃねえよな?」
ジジイが嫌らしく笑うと、部下のケツに手を伸ばした!?そして、さわさわと撫でると部下が嬌声を上げた。
「ひゃう!」
「ウラカル。美女を手に入れたから本業を変えおったのか?手段は任せてやる。ところで、あのブ族が見当たらんのだがようやく捨てたか?ふはは」
ハスキーボイスで叫んだ部下を見て、勝ち誇ったジジイは鼻の下を伸ばしやがった。アホめッ。
「くくく、ジジイめ。良い事を教えてやるよ。そいつは男だ」
「んぐ。儂は男のケツを撫でた?気持ち悪ッ。よくも!」
ジジイは愕然として、もじもじする部下を気持ち悪いモノを見る目で拒絶した後に、憎悪の視線をぶつけてきた。
交渉は俺の勝ちだから大銀貨1枚を上乗せし請求する。
「ジジイ。前金で大銀貨3、後金で金貨1だ」
「失敗したらどうなる?」
なおも食い下がるが、てめーは負けたんだよ。
「依頼者はカネを失い。俺らは信用を失うが、ネタが間違ってた時はただの笑い話さ」
「ウラカル、どうやら殺されたいようだの」
ほぅ、なかなかの殺気だ。ドラゴンソードはヤベえからな。だが、笑わせやがる。このスラム街は、俺の国なんだよ。
「ジジイ。そういう事はテーブルの下を見てから言いやがれ」
警戒した顔で動かない。
ブラフだとでも思ってんのか?
早くしねぇと。ほら、テーブルの下からシビレを切らした姐さんの声がする。
「さっさと見ないとタマ無しになるよッ!アタイは気が短いんだ」
「んぐ。・・・・撃たないでくれ」
ジジイがテーブルのクロスを捲って、ボウガンを構えた恐ろしい顔の姐さんとご対面したようで、びくりっと震えた。
そして顔を上げようとしたようだが、拒絶されて不機嫌になった部下のナイフが首元にあるんだなこれが。
さて、さっきの暴言のツケを払って貰おうか。
ウラカルは怒ってる。
「ジジイ。散々囀ってくれたが、前金は幾らだったかな?まだボケてねぇよな?」
「・・・大銀貨5枚だったの」
顔面蒼白の勇者イゼルから、さらに大銀貨2枚を引き出す事に成功。
「大銀貨5枚。依頼は受けたぜ。さぁ、お客さん。お帰りはあちらですよ」
勇者イゼルはなんとも言えない顔で帰っていった。見送ってると、
「わんわんわん!」
今まで寝ていた番犬気取りの犬♀が起きたのか威嚇されて、びくっと震えやがった。
くくく、まったく今夜は、最高の夜だぜ。







