64 テント生活2
ルカが、唐突に平原に出現させたゴーストクロス城に入ると、中は空洞だった。しかも、中で騎竜のレースが開催出来そうな程に、広い。
「広っ!!」
「どう?凄いでしょ」
そう言って得意げに薄い胸を反らす。
「凄いけど、なんか落ち着かない」
「・・・それも、そうね」
申し訳無いけど、何だかそわそわする。
「なんでい、いってえ何が気に入らないんだよ相棒?漢が小せえ事を気にすんねい」
「いや、くま吉。部屋も無いし、家具も無いし」
あれ?
そういえば野営をしにきたのに何を言ってるんだろうか僕は。そんな悩み事を御者さんの悲痛な声がかき消した。
「おおーい。お客さん。何処ですかー??生きてたら、返事をしてくださーい」
ううっ。探されてる。そりゃいきなりこんな城が出来てるとびっくりするか。
「ここでーーす!」
「ちょっちょっと!?何で、怪しい建物の中に入ってるんですか!馬車に乗ってください。早く逃げますよ、2人とも」
どうやら助けに来てくれたみたい。
敵なんていないのに。
「あのっお騒がせしてすみません。これは少し大きいテントみたいな物なので、大丈夫ですよ」
「て、テント?」
だって、ハリボテだし。
「さっきルカと魔法で作っただけなので」
「つ、作った?この城をですか??」
「まぁ、出来損ないですがどうぞ中へ」
中を見せれば分かってくれるでしょう。とりあえず1名様ご案内〜。おっかなびっくり御者さんが城の中に入ってきた。その顔には驚きが満ちる。
「うっ!広すぎるっ。これをたった一瞬で!?中身が無くても脅威ですよ」
大きな声を出すから、ルカがびくっと震えて僕の背中に隠れてしまった。
しかし、虚ろの熊は絡んでいくスタイルらしい。
「おいおい、てめぇは、こんなモンで満足かい?豪華家具付きのゴーストハウスはもっとヤベえよ。常に魔力供給がいるが、相棒のマナバフがあれば可能なんだぜ」
「さらにこの上があると!?」
くま吉のせいで、御者さんが凄い勢いで食いついてきて、めちゃくちゃ期待の目で見てくるんですが。
「え、えーと、ルカ出来る?」
こくんと頷いた頭が背中に当たったので、城を捨て、ゴーストハウスの建築に着手する事になった。
ハリボテ城の隣に立てるらしい。
今夜、早くも3軒目か。
ルカは流石に魔力切れなのかマナポーションをぐびぐび飲んでから、アイテムバッグを漁り触媒のドールハウスを取り出して空中に投げた。
『ゴーストハウス』
投げられたドールハウスがどんどんと大きくなり、怪しげな黒いもやもやに包まれた洋館が現れて、ずぅんと地面が揺れた。実体があるタイプだ。
うっ。なぜか分からないけど、屋敷から猛烈に嫌な雰囲気が漂ってくる。これ、本当に住めるの?
「ほらほら。相棒、ぼやっとすんねい。急いでマナバフ頼むぜ!ぼやぼやしてたら消えちまう」
『マナプール!』
くま吉にぱしぱし叩かれて、つい魔力+1のバフをかけてしまったけど、かけて良かったのか?
だ、駄目だぁぁぁ。
洋館から「キョホホホーッ」なんて奇声が聞こえてくるんだけど。でも、もしかしたら安全なのかも。
「あのー、お客さん。今、何か叫び声のような物が聞こえませんでしたか?」
「くま吉、・・・これ本当に大丈夫なの?」
「てやんでい。シャドウなんて雑魚モンスターだから小さい事は気にすんねい」
くっ、気にするよ。
完全に事故物件じゃねーか。
ルカとコミュニケーションが取れてれば、こんな事には。
「お客さまなのに。すみませんでした。すぐにゴーストハウスを消して頂けませんか。これは危険です」
謝る御者さんに、僕は悔しそうに唇を噛んだ。こちらこそ大変申し上げにくいのですが。
「それは出来ません」
御者さんの顔が引きつった。
延長を舐めないで欲しい。
「な、なぜ?」
「消えないんです」
2人して青ざめた顔をしていると、心を代弁するかのように「ギャワーッ」と悲鳴のような音が聞こえた。びくぅと震える。
「おっ、主!ナイスだぜっ。間抜けなシャドウを一丁あがりでい」
盛り上がってるくま吉の声に釣られてルカを見ると、楽しそうにネオランタンで、屋敷を照らしていた。
「え?ルカ何してるの?」
どうやら、強烈な光でシャドウとやらをサーチしてるみたいだ。
ルカの光が、黒いモヤのような敵シャドウを捉えた。シャドウは身を捩りそのまま消滅すると再び断末魔が聞こえた。
あっ・・なんか倒したっぽい。
へー。ほほー。
倒せちゃうんだ。フラッシュで。
作戦は決まった。
夕食を軽く済ませ、洋館の片付けを決行する事にした。僕たちは幽霊屋敷のシャドウを、御者さんはさっき立てたソロテントを。
役割分担はバッチリだ。
ギギィと嫌な音を立てて玄関が開いた。
「これよりシャドウは一匹残らず浄化します」
「がってんでい!」
「任せてエクス」
怪しげな部屋に飛び込み、光でサーチする。おっ発見!逃げる影を光で執拗に照らして「ギャワーッ」と悲鳴が聞こえると浄化完了。
ちょっと楽しい。
「すまねぇ。相棒、逃げちまった」
「ルカ、フォローして」
「いいわ。貴方の背中は私が守る」
一箇所ずつ片付けていくのがポイントかな。屋敷が広くてようやく大掃除が完了した頃にはへとへとだ。ルカに一番風呂を譲りソファーにダイブする。
「終わったあ〜。ルカ、お先にお風呂どうぞ」
「ありがと、エクス」
ごろりと、反転して、黒いもやが消えて綺麗になった天井を見ると充実感が湧いてくる。あー、このまま寝てしまいたいかも。
ひょこっとくま吉が視界に入ってきた。
「やるじゃねぇか相棒」
「くま吉こそ」
くま吉と戯れていると、一足先にお風呂に入ったルカの足音が聞こえたのでアイスボールで冷やしたジュースを手渡した。
「どうぞルカ」
「ありがとうエクス。楽しかった」
湯上がりのルカは、白い肌が薄いピンクに上気していてとても魅力的だった。
ジュースのグラスにぷるぷるとした唇がキスをして、こくこくと細い喉が鳴る。
「エクス?どうしたの?」
「いや、うん。僕も楽しかった。お風呂行ってきまーす」
少し見惚れてしまったのは内緒。
「行ってらっしゃい」
とっても優しい笑顔で、ルカが送ってくれた。
理由は分からないけどドキドキ痛い。
お風呂の扉を開けると、温かい蒸気とともに花のような強い香りが満ちていた。
「ふわーっ、凄い良い匂い」
かけ湯で身体を温めて、雑念を落とすようにごしごしと頭を洗い、汚れと1日の疲れを落とす。
クリーンを使ってもらえば一発なんだけど、僕は風呂が好きなんだ。
浴槽にちゃぽんと入ると、ヤバい。
掃除で疲れた身体に温かさが染みて身体が溶けそうだ。このままスライムになれそう。
ガラガラっと窓を開けると冷たい外気が入ってきて、湯気が水面を走った。遠くには、色とりどりのテントの灯りが見える。
はああ〜サイコー。







