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6 没落の足音(子爵2)


 翌朝。

 バカンッと壷が砕けた。


「なぜ壊したのですか?」

「はあ?執事さんが壷にウォーターボールを放てって言ったんだろうが」


 執事イエスマンは、冒険者ギルドから呼んだ優秀なはずの魔法使いと揉めていた。

 魔導師を呼びたかったのだが、断られたからだ。


「私がお願いしたのは、初級魔法で水瓶を満たすという意味でのウォーターボールです。そんなの常識で考えてください」

「ちっ、だったら分かりやすく言えよ。全く貴族様は、補給の出来ないダンジョンにいる訳でも無いのに常識外れの贅沢な使い方をされるからな。庶民に分かるわけねーだろ! ウォーターボール」


 今度は、ちゃぽんと注文どおりに水瓶がいっぱいになる。

 魔法使いは仕事をやり切った満ち足りた顔をしたが、執事はこれに青筋をたてる。


「はあ〜。新人には1から10まで説明が必要ですか? 湧き続けるように放ってください。じゃないと使えないでしょう」

「は????」


 ベテランの魔法使いの目が点になった。

 思ってたのとは違う反応に執事は戸惑う。


「あ、あの。もしかして、そんなことも出来ないのですか? たった1年で良いのです」

「あ、あのよー。そんなの無理に決まってるだろ」


 魔法使いの目がキョロキョロしだしたのを読み取り執事はため息をつく。


「まぁ、しょせん魔導師になれなかった魔法使いなら仕方ないですね。これはこちらのミスです。とりあえず今日は1週間で結構です。さすがに魔法使いでもこのくらいなら出来るでしょう」

「ハァーッ、執事さん。頭は大丈夫か? 何を言いたいのかまるで分からないが、上級魔法のウォーターランスですら5秒も保たないぞ?」


 呆れた表情で首を振って返された至極真っ当な指摘に執事は口をあんぐりとあける。


「な、なんですと???」

「いや、マジだからね? こんな低レベルな嘘つかないし」


 ここにきて執事が動揺しだす。


「で、出来ないならば依頼は失敗にしますよ? 欠陥魔法使いのエクスにすら出来たのに、そんな態度では貴方のランクが下がるかもしれません!」

「あぁ、いいよ。失敗でいいよ。あんたの言ってる事がヤバすぎて関わりたくねえ。この事は魔術師の庵にも報告させて貰うからな」


 執事イエスマンは、いつものように脅しをかけたが、エクスと違い無茶ぶりをストレートに打ち返したベテラン魔法使い。このままでは腹いせに悪い評判が広がるのは必至だった。失言に気付き下手に出る執事。


「あ、あの。どうかこの事はご内密に。先程は言い過ぎました。依頼も成功にしておきますので」

「いやー、失敗で良いですよ執事さんっ。なんせ俺は魔導師にもなれなかった魔法使いですから」


 A級のプレートをこれ見よがしに見せつけて魔法使いはニヤァと笑って去っていった。


「お、お待ちください」

「やだねっ、コケにしやがって。酒場での良い土産話が出来たぜ」



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