59 ニトラとライ姉2
その頃、元ギルマスの他に
エクスに接触しようとした男がいた。
執事イエスマン。
ついに動く。
あ、動くのは何度目かは分からないのだけど、とにかく今度こそは本気モードのご様子。彼は元ギルマス以上に困っていた。
「ギルドも犯罪組織も使えません。やはり大事な仕事は人任せではいけませんか」
悲壮な面持ちで向かうのは、エクスの泊まってる宿屋。
「このままでは子爵さまが暴走される恐れがありますから、頑張って説得しなくては」
コンコン。
とエクスの宿の部屋をノックすると、出てきたのはエクスではなく見知らぬ少女だった。
イエスマンはぎょっとして言葉に詰まる。えっと誰ですか?
「あの、どちら様ですか?」
「いえっ失礼。子爵家執事のイエスマンと申します。ここはエクスの部屋だったと思っていたのですが違いましたでしょうか?」
メイド服の少女は微笑んだ。
「いえ、合っています。御主人様は3日ほど出掛けておられます」
「ご、御主人様ですと!?」
エクス。人に腐っているとか言いながら、自分は狭い部屋で少女にメイドの真似事をさせてるなんて業が深すぎます。
言葉に詰まっていたら、さらにもう一人の気配がした。
「ライ姉、だれか来たの?」
それを見たイエスマンはハンマーで殴られたような衝撃を受けた。見覚えのある。忘れられないトラウマ幼女まで現れたからだ。
あの幼女も連れ込んでいるなんて。
なんて事を。
「あ、貴女は!」
「?」
きょとんとする獣人。
ハニトラの意趣返しにウラカルに送り込まれた幼女に極めて似ている。
まさか、監禁?
だがそんな雰囲気は無い。
私の見間違いなのか?本人か確認するために、尋ねた。
「仲間の風邪は治ったのですか?」
「あっ!子爵さまの横にいた人だ」
やはり合っている。
もしや、エクスもウラカルとグルだったのかと思考が迷走してきた頃、メイド少女がおずおずと手を挙げてくれた。
「あの時病気だったのは私です」
「そうだったのですか。治ってるようで、良かったですね」
ふむ。どういう事ですか?
「実はあの時、私は風邪ではなくてファーラの呪いに罹ってまして、そこを見ず知らずのエクスさまが私財を投げ打って助けてくれたんです」
「なんと・・」
夢見る年頃の少女は、エクス王子を賛美し始める。それはもう凄く。
「凄いですよね。何の見返りも求めず、今だって、出掛けてる間は自由に部屋を使っていいなんて言ってくれて」
「ぬおおお」
エクスは良い子でした。
疑ってしまい恥ずかしい。
「それ以来、私の中ではエクスさまは御主人様なんです」
「そんな話だったとは。彼の事を少し誤解していました。もしかしたら、執事の枠に収まらない人物なのかもしれませんね」
「あのね、それにエクスお兄さんは、いつも串焼きをくれるし大魔導師さまなの!」
ハニトラ幼女が自慢するかのように元気に付け加えてきた。
え?大魔導師とか呼ばせてるの?
それはちょっと闇が深すぎる。
「ニトラ!それは秘密です」
「秘密だった。ニトラは何も言ってない」
「ええっと、まぁ聞かなかった事にして良いでしょう」
世の中知られたく無い事もあるものですからと、口を手で塞いだ幼女の提案に乗っかる。これ以上、悩み事を増やしたくないイエスマンだった。
「では、今日は引きます」
「は、はい?」
「バイバイ?」
きょとんとする女の子達を残して、あっさりと行き先も聞かず引き上げたイエスマン。
その理由は、この街の特別な魔道具にある。
「3日なら待てなくはないのですが申し訳ありません。そのバカンスは契約が終わるまで待ってもらいましょうか」
民間人には知らされていないが、門には身分証明書を読み取る魔道具があり、誰が出入りしたかリアルタイムで分かるようになっているのだ。
もちろん証明書を持たない者も???と出る。本来は、魔族の侵入を防ぐために、こちらの運用がメインだ。
「エクス、この街からは出られませんよ。門で確保です」