56 散歩2
塔の上からは、大森林アルファとこの街。《フォレストエンド》が一望出来る。
「ねぇエクスの宿は?」
「あそこかな」
はしゃぐルカが可愛い。スリーピングキャットの集会場よりテンションが高いのはちょっと微妙だけど。
「すっごい小さい。ねえ他には?」
「あの森の中にある白いのが結界。全部で12個だったかな?あっ、新型結界はさすがに見えないね。子爵家に、リィナの店に、定食屋」
ルカの温度が下がった。
「リィナの店って?」
「普通の雑貨屋さんだよ」
不味い。スライム枕まで辿り着かれると困ってしまう。お喋りな口をチャックして平常心を装う。
「ふーん」
「そ、それよりも、森が緑なのはビックリしたな」
無理やり話題を反らすとルカが食いついてきた。
「森って緑でしょ?」
「いや。僕が育った森は、赤だったから」
狂うほどの赤が一面に広がる。
白い太い幹に、一年中赤い紅葉の葉をつける森。《赤の森》で僕はエルフに育てられた。
「赤?」
「赤の森という名前で、葉っぱが赤色なんだ」
その森にはチクチクという蚊のような殺戮虫がいるせいで、普通の動物や魔物が生息出来ない変わった森だ。
「イメージ出来ないわ」
「ふふっ。またいつか、話すよ」
高さ15メートル。
上空で接続されたツリーハウスで出来た小さな家々で暮らしていた。孤児だった僕は魔法使いのエルフのエリーゼに拾われた。喧嘩して出て来たけど、どうしてるのだろうか。
「約束よ」
「うん。あの遠くに見えるのが、隣町の《シープタウン》。あれ?飛行船がたくさんいるんだけど」
お祭りでもしてるのだろうか?
「そうなのっ今は音楽フェスをしてるの!ほら、このチケットを見て」
「チケット?・・・あっ!」
興奮したルカの手には2枚のチケット。
もしかして、昨日、趣味を持てば?とか急に不自然に言い出したのは・・・
「い、一緒に行ってくれませんか?」
「何故に敬語?良いよ。暇だし」
ルカがくま吉とハイタッチした。
今日、一番のはしゃぎようだ。
幸せそうで良かったよ。でもね、早く言って欲しかった。
「良かった。もう依頼出来ないし、どうしようかと思ってたの」
やれやれ、ぼっちを拗らせるとこうなるのか。安心して。
「友達なんだから遠慮はいらないよ。明日の朝、馬車で行こう。予約しておくから」
ルカが蹴ってきた。
ええー。
「今のは相棒が悪いんだぜ」
そして追撃の熊である。
そんなに直ぐに行きたかったのかな。言ってくれないと分からないんだけど。
「ごめんルカ。今日行きたいんだね?」
「はぁ、もうそれでいいわ」
むぅとルカが了承した。
塔を降りたらお昼を軽くすませて馬車を予約して、隣町までぷち旅行に出掛ける事にした。
少し音楽フェスが楽しみ。
個人馬車の予約もすぐとれて、ルカが大銀貨2枚支払ったら、待合の個室まで用意してくれた。
「あっ、ごめん。ルカはここで待ってて。宿に旅行の連絡を入れてくるから」
「行ってらっしゃい」
急に何日も不在にして心配されるのも困るので、宿へ挨拶をしてこよう。
スラム街を抜ければすぐだ。
僕は、わくわくしながら駆け出した。