55 散歩1
翌朝。
緊張するルカの手を取り散歩に誘う。
「付いてきて、ルカ」
「エクス。離れないでね」
人混みに怯えるルカが背中に隠れるように付いて来る。
「大丈夫だよ。すぐに静かな場所に行くから」
「うん」
この街には防衛拠点だった時の名残りでいくつかの塔がある。
今はほとんど使われていない、そのうちの1つへと足を運んだ。重厚な扉は開きっぱなしになっており管理されていないため、簡単に侵入成功。
ひたひたと隠し階段を降りると地下の連絡通路が見えてきた。
「ここを進むの?」
「やめる?特に危険は無いよ」
この地下連絡通路は古代魔法王国の遺物らしく、地下なのにぼんやりと明るい。
「行く。でも汚れてしまいそう」
「えー、だから動きやすそうな服って言ったのに」
相変わらずひらひらした服を着たルカは、少し不貞腐れたように答えた。
「女には戦いがあるの。いつでも綺麗に見られたいの」
「ルカは綺麗だよ?」
真っ赤になって、くま吉で顔を隠した。
「馬鹿・・さっさと案内してよぅ」
「はいはい」
「やれやれだぜ相棒」
機嫌は治ったのかな?少しルカと距離を感じるけど。
入り組んだ道を右へ左へ。
ほとんどの行き先は厳重にロックされていて、どんづまりの迷路になっている。
「相棒、まだなのかよぉ?」
「もう少しだよ。くま吉」
薄暗い通路を僕は道先案内する。
たしかに狭いし汚れるかもだけど・・・
あった。
地下通路を抜け、天から光が差し込む円形の空間。そこは暖かな陽だまり。これを発見した時は嬉しくて飛び跳ねたんだ。
「わぁ」
ルカが息を飲んだ。
地下通路の奥には、誰も知らないデートスポットがある。
まるで時が止まっているかのような神秘的な雰囲気が支配した空間で、滞留する埃が雪のようにキラキラと輝いていた。
螺旋階段のように積み上がったガラクタの山にはスリーピングキャットが沢山いて、眠そうに陽にあたってる。ルカが撫でようとしたら、スリーピングキャットは虚空へと消えた。
彼らは幻想種という生き物だ。
精霊に近い存在。
『にゃーご』
何かあるわけでは無いけれど
「エクス、またここに連れて来て」
「いいよルカ」
この場所をルカと共有したかったんだ。
しばらくぼーっと眺めていたけど、やがて飽きたのかルカが聞いてきた。
「他には無いの?」
「それなら、塔の上に行ってみる?」
来た道を戻り、最初の塔の階段を登り、目指すは屋上。
僕たち魔導師はだいたい非力なので、登りきった時は肩で息をしていた。でも歩けてしまう。
「着いた〜。どれだけ疲れてても歩き続けれるなんて、やっぱりエクスのバフは異常だわ」
「そうかな」
褒められたのか?
温かい陽射しが気持ち良い。
ひやっと冷たい風が吹き、ルカはくま吉を抱きしめた。僕もウサギさんを誘えば良かったかな。
「んー♪凄い眺めね。大きな森」
「あの辺にルカの家があるよ」