54 人形使いルカ8
ご機嫌になったルカがピアノを弾き始めた。この部屋のピアノはやたらといい音がする。心に響くみたいな。
「ルカ上手だね」
「エクスもやってみる?」
僕は不器用だからと曖昧に笑う。
「ちょっルカ」
「ほらほら、コレを弾いて」
強引に腕を引っ張られて座らされた。
目の前には白くて艶々と輝く鍵盤。満面の笑みで、謎の幽魂が躍った説明書を見せられたけどサッパリ分からない。ドレミ?なんでアから始まらないの?
ルカ先生に手を取られるまま鍵盤を押し込む。
ピン、ポロン
やたらと良い音はする。
けれど、教えてくれた短い部分すらなかなか満足に弾けない。順番は覚えたけど指がうまく動かないんだ。
「エクス、上手よ。そうそう」
折れそうになる心を励ましてくれたおかげで頑張れた。だんだん分かってきたかもしれない。ルカの細い指が僕の指に絡まり、僕は音楽家になった。
ジャジャーン!
1時間ほど練習して覚えたのは、たった数秒のフレーズだけど、すごい達成感。ああっこれは楽しい。
「偉いよ、エクス」
「ふふっ僕は大魔導師だからね」
「やるじゃねぇか相棒!」
音楽が少し好きになった。
つるつるした鍵盤の感触が指にまだ残っている。ルカの指の感触も。
椅子から離れると、くま吉がひらりと座った。くま吉も弾きたくなったのかな?でも思うんだけど。
「くま吉はその手で弾けるの?」
「甘いぜ。俺っちは才能の塊でい!」
ダラララーン!ラーンラン♪
マジかよ!?
巧すぎる。
縫いぐるみにも僕は劣るのか。
くま吉先生。・・・ん?なんだろう違和感が。よく見ると勝手に鍵盤が沈んでないか?疑惑は言葉の剣となる。
「ずるは駄目だよ、くま吉」
びくっとくま吉が震えた。
そして動揺しても曲は滑らかに途切れなかった。これはプロ意識?違うね。
「な、何をするんでい。俺っちは演奏中だぜ
、相棒。わわわっ」
くま吉容疑者を椅子からひっぺがしたけど、やはり素敵な曲はまだ続いている。じっと見ると、くま吉は観念して項垂れた。
「ルカ、自分で弾く意味無くない?」
「馬鹿ね。自分で弾いた方が楽しいじゃない」
ふふふと笑うルカは可愛かった。
この笑顔は、ずるい。
「うん。まぁ楽しかったかも」
「でしょ!また演りましょう。次はここまで覚えて1年後には連弾を」
僕は喰い気味のルカに、微妙な顔をした。だって自動で弾けるのを見てしまうと。なんかね。
「えー」
「そうだ!エ、エクスも何か趣味を持てばいいのに」
趣味か。でもそれで来る回数が減ったら寂しそうにするクセに。
あれ?何だかルカが何か言いたそうにもじもじしてる。
「どうしたの?」
「・・・んっ駄目。カードゲームしましょう」
言わないのか。
オークの尻尾というカードゲームが好きだ。伏せたカードを丸い尻尾のようにくるりと円形に広げて配置する。
順番に好きなカードを1枚ずつ捲って、真ん中の空いたスペースに山のように積み上げていくだけ。
カードの色か数字が直前と同じだったら、山のカードを全て取らされる。
最後に少ない人が勝ちだ。
黒、来い。
よしっ来た!セーフ。赤いカードの上に黒のカードを置いた。なぜか負ける気がしない。
「僕は散歩が好きかな。この前、スリーピングキャットの集会場を見つけたんだ」
「え?なにそれ見たい」
凄く単純なのに、カードの山が積み上がってくるとドキドキする。
「なら、明日動きやすい格好でね」
「分かった。うわっ」
ルカがヒットした。
はいはい、その山を回収してくださいね。くま吉とウサギを入れて4人プレイ。
カードが残り少なくなってきた。くま吉とトップ争いに。
「よしっ。セ――フ」
「なかなかやるな相棒。だが俺っちは矢の雨の中でも平然と歩ける漢でいいい。へぶしっ」
くま吉に矢が刺さった。
よおっし、僕の勝ちだ!
ふんすっと喜んでると、ルカがくすくす笑った。
「逆転するわよ、クレイジーベア」
「ガッテンでい」
かかって来なさい。
というか、今気付いたけどビギナーズラックの魔法が掛かったままだった。そりゃ強いわけだよ。
書籍1巻は、ここまでを収録
1~54話