53 人形使いルカ7
「そうだ!くま吉にファイヤーエンチャントすれば良いんだ」
「相棒!?俺は綿なんだぞ!」
くま吉がわたわたしだした。ルカにぴょーんと走りよる。
「主〜」
「もう!クレイジーベアを虐めないの」
ええー?お前は虚ろの住人だろ。
専門家のくせに、ふわふわボディに馴染みすぎて忘れてるらしい。
魔法の炎は普通の炎とは違う。木の棒にかけても炭にならないし。極端な話、燃える氷だって出来る。まぁ輻射熱で凄い勢いで溶けるんだけど。
「問題ないよ」
「そんな?あっ!確かに魔法ならそうね」
ルカがいち早く気付きはっという顔をする。
くま吉が擦り寄ってきた。
「そういやそうだったな。さすが相棒だぜ。いっちょやってくれや!」
ボタンの目玉がキラリと光り、左手を突き出して、肉球を見せながら決めポーズを取ってきた。
いい気なもんだ。
良いでしょう。くま吉を魔改造してやる。
「行くよ、くま吉。んん?」
走りよる影。ウサギがてててっと駆けてシューッと滑り込んできた。
「君も?」
こくんと肯いた。
分かりました、君も一緒に強化だ!
「ファイヤーエンチャント!✕0.01」
冷たき依り代よ。
熱を帯びて、生を謳歌せよ。
汝の心に熱を宿せ。
温かいくまー。
「オオオッ!俺の心が燃えるっぜぇ。これが温かさなのか?相棒」
「んんー。クレイジーベア、とても温かいわ」
ぎゅうっと幸せそうにルカがくま吉を抱きしめた。
「へへっ。また一歩、人へと近づいた。ありがとよ、相棒」
「・・・クレイジーベアが本当に生きてるみたい!?こんな事を考えつくなんて、貴方はサイコーよ」
ルカがキラキラと尊敬の眼差しをぶつけてくる。どうやらお気に召したようだ。
ただ温かくなっただけなのに、そんなに良かったのかな?僕には分からない。
てしてしと、腕に触れてくる存在に目を向けると駆け込みウサギさんと目が合った。
「ん?どうしたの」
小首を傾げて、しなをつくってぴとっと寄りかかってきた。
はわわ。これは良い。
思いの外、ほっこりする。
「ふわぁぁ温かい。分かるよルカ!これは、気持ち良いかも〜」
「ちょっちょっと、エクスから離れなさいッ!」
ルカがじたばたすると、ぷいっとウサギさんは横を向いた。
僕は呆れてしまう。
「ルカ、人形に嫉妬するのはどうかと思うよ」
「だって。その役目は、わたわたわた」
何か言いかけたルカが、真っ赤な顔してくま吉に隠れた。
「綿?」
「・・・馬鹿」
ウサギさんと戯れ、ルカがケーキを食べ終わるのを待つ。ここは、のんびりとした時間が流れている。
この部屋には時計が無い。
なんでもお客さまに時間を忘れて欲しいからだとか。
暇だったので、ポケットに入っていた謎の硬貨を眺めてたらルカも興味を持ったらしい。
「何見てるのエクス?」
「えっと、マーラに貰ったんだけど」
マーラにお礼で貰ったよく分からない硬貨をルカに渡した。何だろこれ?
「古代通貨。現在は流通してないわ」
「うえっ使えないのか」
マーラのヤツぅぅ。
あれ?なんだかルカさん不機嫌じゃないですか?
「普通には使えないけどこれは高いわよ。それより、マーラって?何でこんなの貰ったのかな?」
「あ、赤髪の冒険者。ほら、あの大きい人だよ。サポしたらくれただけで」
見上げるぐらい背の高い人だ。
羨ましい。僕は魔法使いになる時に成長も捧げたので伸び代はない。
「それで。エクスは、大きいのと小さいのは、どっちが好みかしら?」
「え・・・」
なんだか凄い圧力を感じる。
師匠の家にハイエルフの友人が遊びに来たときみたいな。
思い出せ、あの時の正解を。
師匠〜っ。
「僕は、小さいのが好きかな?」
・・・どう?
ニッコリ笑うルカ。
ふぅーっ。なんか良く分からないけど、セーフゥゥ。師匠ありがとー。