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52 人形使いルカ6


 大魔導師という最近聞いたワードに、思わず耳がピクリと動いた。

 隣りに座った魔法使いの人達の興奮した話し声に、僕は朝食を食べながら盗み聞きする。シーフのエクス君へとジョブチェンジ。


「それが、全然。謎の大魔導師の経歴が分からないらしいんだ。しっかり逆探知の罠まで用意されてたとか」

「手が込んでるな。陰険な力の示し方、大魔導師らしいといえばらしいか。それこそ新しい認定は約10年ぶりだろ。その御方の名前は?」

「たしか・・・エクス。いや、エックスだったか?」


 んぐっ。

 喉に詰まったパンを、慌ててスープで飲み込んで胸をとんとん叩く。


 ふーっ。

 びっくりしたぁ。


 似すぎだよ。

 まぁ、僕は魔術師の庵に登録しようとしたら、「ぷっ、初級縛りですか?冒険者ギルドはあちらですよ」って断られたような駄目な奴なんだけど。

 エックスさん。大魔導師就任おめでとうございます。



 ルカを自虐ネタでびっくりさせようと工房へ遊びに行ったら、なんと先手を打たれてしまった。


「ルカ。・・・これはいったい?」


 豪華なケーキに、部屋には飾りつけまでしてあって『祝!エクス大魔導師就任祭』なんて横断幕まである。

 ちょっと、冗談にしてはやり過ぎだよ。


「エクスやるじゃない。おめでとう!」

「流石だぜ、相棒」


 二人の渾身の笑顔を見た僕は理解した。

 あっ、これガチなやつだと。


 全く・・・早とちりだなぁルカ達は。


「あのさ、ルカは新聞をよく読んで。大魔導師の名前は、エックスさんだよ」


 そう指摘すると満面の笑顔から、むぅとむくれた。

 ごめんね。

 でも、ルカが他の誰かに間違いを指摘されたから、恥ずかしさのあまり奥の部屋から出てこなくなるかもだし。


「エクス。勇者新聞の信用が失われて久しいけど、真実は隠されてるの。ほら見てて」


 それなのにルカは勇者新聞のエックスの『ッ』を細い指で隠して、エクスに。な、なる程。・・・・とはならないよね?


「えー」

「何よ文句あるの?」


 ケーキまで用意してしまい、引くに引けなくなったのかな?

 それにしてもこのケーキ。

 見れば分かる。

 間違いなく美味しい。


 ごくり。

 喉が鳴った。


 ごめんなさい。


「僕が間違ってた。よく気付いたね、大魔導師エクスとは僕の事だ。さて、就任祭を始めようか」

「はーっ。なんて残念な大魔導師なのかしら。用意して」


 ケーキに魂を売り渡した僕をルカが哀れんだ。ケーキを用意したのはルカなのに。


 オーダーを受けた縫いぐるみウサギが、テーブルの上を歩きケーキをサーブしてくれる。紅茶が出されてお茶会は始まる。


「ありがとう」


 お礼を言うと、ウサギにペコリとお辞儀された。・・・この個体は知能が上がってきた気がする。


 まぁ良いか。フォークで、ケーキを切ると艶めいたフルーツの断層が見えて期待が高まる。一口運ぶと口の中に幸せが広がった。

 ふわーっ。

 高級感溢れる甘さ。

 フルーツのフレッシュな酸味が、立体感という感動を連れて来た。本来甘さを補うためのフルーツが酸味という役割を果たし、1つ上のステージへ。


「それでエクスはいつ来るの。準備とかあるし」

「ふがっ?」


 ルカが何か言ったけど、疑問は甘さとともに消えていく。

 しあわせーーー。

 紅茶を飲むと余韻が広がった。

 はふぅ。


「あれ?お金無いでしょ・・・まさか」

「ルカは甘いね。ケーキのように甘々だ」


 僕は稼いだ。

 暫くは余裕なのだよ。


「働いたの!?」


 紅茶を嗜み、

 ゆっくりと首を振る。


「いいや。この温かいだけの石が、なんと金貨1枚で売れてね」


 ドヤァ。。

 ルカに渡すと、不思議そうに石を触り出した。あれ?金貨はスルーなの?大金だよ。


「ずるい。私もこれ欲しい」 

「それは僕の。代わりに何かに付与してあげるよ」


 ルカはきょろきょろと部屋の中を探し始めたので、僕は再びケーキを少しずつ削る作業に戻った。違う色のフルーツの層が現れた。

 金脈のように煌めいている。あぁーっこれも美味しい。


(あるじ)!これなんか、どうでえ!」


 くまが吠えた。

 見ると持っていたのはピアス。石の色は似ているけども。


「あのね、クレイジーベア。人間は頭が温かくなると困るの」


 だよね。

 虚ろには分からないらしい。


 ネックレス、指輪、バッグ・・・

 次々とくま吉は提案するが、どれも審査落ち。


「すまねぇ。俺っちは無力すぎるぜ」

 

 しょんぼりして諦めたらしい。

 2杯目の紅茶を堪能しながら、くま吉に良く頑張ったよと心の中で労う。


「馬鹿ねクレイジーベア、貴方は素晴らしいわ。それよりエクス、これはどう?」

「あー、熱くなるからお勧め出来ないかな」


 ルカが悩んだあげく出してきたのは、懐中時計だった。金属ケースだから微妙かと。ルカもしょんぼりした。


「難しいわ。石にすると、聞かれた時に部屋に落ちてたじゃストーリーが悲しいの」

「ふーん」


 ルカはデザイナーだから、色々と思う所があるらしい。

 付け外し出来て、持っていても違和感が無いアイテムか。ルカに相応しいアイテム・・・。部屋をぐるぐると見渡す。糖分のおかげで僕の頭はフル回転してる。


「あっ!」

「どうしたのエクス?」


 ルカがきょとんと聞いてきた。





 レビューありがとうございました。

 ようやくほのぼの日常回へ戻ってきましたので遅くなりましたがお礼申し上げます。



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― 新着の感想 ―
[一言] ひたすら否定されてきた上に、師匠「誰でも覚えられる」なので……。 力を知ってるのがゲス隊員とゲス?冒険者(ゾンビ以外)くらいなので……褒めるわけない。
[気になる点] やはりくまさんうさちゃん不可避と思うが実際は?(未読) [一言] ぁあ! 虚ろな心が暖かくなっちゃう!
[気になる点] 「あっ!」  まさか「ホットパンツ」?  この小説が18禁になってしまう?
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