50 敗走のゾンビーズ3
金の切れ目は縁の切れ目なんて言うけども、ゾンビーズのバッツはまさにそれだった。
「くそっ金がねえ」
あれだけ奢りまくったのに。
誰も彼も端金すら貸してくれない。
先月のツケ払いをしないと、飯も食えない状況だった。
「来月ボーナスタイムを引いても、アイツらにはぜってー、奢らねえ」
据わった目で歩きながら、古びた店に入る。その店は、ずらりと格安商品が並んでる割に客は少ない。
いるのは、背の低い青年が一人だけ。
「どうした?珍しいねバッツ。何か買っていくか。おっ!今いーのがあるんだよ。粘ってた客が、ついに手放したのが!」
「ちげぇよ。今日はコイツを質に入れにきたんだ」
質屋の店主の顔が驚きに染まった。
あの英雄ゾンビーズが!?って顔だ。
「コイツだ。この魔剣を間抜けヅラしてないで査定してくれ」
ゴトリと置かれたのは、エクスの手により冷たい棒となった魔剣イグニシオン。
店主は丸眼鏡を取り出していそいそと鑑定を始めた。
直ぐに使えるかどうかなんてこの店では関係ない。ちゃんと適正な金額をはじいてくれる。
どうやら結果が出たようだ。
「良しっ金貨1枚でどうだ」
「ちいっ。安いけどしゃーねえな」
バッツは渋々肯く。まぁ、あんまり高くても買い戻すのが大変だしよーと。
店の親父は奥の部屋に入るとカチャカチャと音を立てながら金を準備しだした。
ジャラッと積まれたのは、銀色の大きな硬貨。
その数、9枚。
んあ?
目を擦り再度数えなおして見るものの
1、2、3・・9。
やはり、1枚足りない。
バッツは怒りに震えながら、机を叩いた!
「はあ?舐めてんのか?足りねーぞ」
「良いかバッツ。この魔剣には金貨1枚の価値がある。もちろん俺とバッツの仲だ。買い戻す時は金貨1枚でいいよ。値上げなんてしない。ただ、手数料はかかるだろ?」
なるほど納得。
「んぐ」
「ほら、早く受け取りなよ。お金困ってるんだろ」
悩むが、ここに来てる時点で追い込まれていて他に選択肢なんてない。
ぎゅっと1枚少ない大銀貨を握りしめるしかないのだ。
「くそったれ」
「後さ、俺とバッツの仲だ。この大事な大事な魔剣は1か月は誰にも売らない。約束する。だけどさ、それを過ぎると分かるだろ?」
愛用の魔剣を悔しそうに見つめる。
大丈夫、必ず取り戻すから。
「それっ。来月、取り戻しに来るから、それまで誰にも触らせんなよっ!」
「もちろんだよ。バッツ」
たとえ買った時の値段は倍以上しても。
1か月の利息が、驚きの10%というボッタクリだったとしても。
今月生きるためには金がいる。
「なんで。なんで俺はあの時、ツケなんかにしたんだよッ!」
バッツは後悔する。
考えを切り替えるが。
頭の中は、来月の来るはずもないボーナスタイムの事で一杯だった。
「あぁ・・・可哀相なバッツ。長いお付き合いになるといいんだけど」
質屋の店主は、質屋の一番目立つショーケースに、バッツの魔剣イグニシオンをいそいそと飾った。
「あのー。それ凍らせたの駄目でしたか?」
現れたのは、エクス。
「いやいや、俺と君との仲さ。何も問題なんかないよ」
「初対面ですよね?」
調子のいい親父を冷めた目で見た。
「流石は氷使い。君はヒエヒエだね。俺はしがない質屋の親父さ。それよりお買得な魔剣が入ったんだ。来月発売予定だからぜひ見ていってくれ」
「僕は魔導師ですけど?」
凍えるような目で見てやった。
「ひゅーう。君は最高にクールだね」