表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/207

48 敗走のゾンビーズ1


 帰り道、嫌いな三人組に会った。

 冒険者時代、いつも突っかかってきたゾンビーズとかいうクランだ。今日はなにかイライラしてるみたい。僕にはもう関係無いけど。


 関係ないのに。

 バッツは、僕を見つけるとニタリと笑って近付いてきた。

 手が延びてくる。


「おいおい、欠陥魔法使い。こんな天下の往来を歩いてんじゃねーよ!おらぁっ」


 どんっと突き飛ばされた。

 痛っ。以前の僕なら、僕が鈍臭いのが悪かったんだと反省したのかもしれない。


「ガッハハ。あれしきで尻もちを付くなど冒険者の恥晒しめ」

「元冒険者ですよ、ドワーフ。こんなのと一緒にしないでください」


 でも、今なら分かる。

 意味なんてない。

 無意味に、ただ彼らのストレスを発散する目的で突き飛ばされたのだ。

 以前の僕だとどうしたのだろう。へらへら笑っていたのかな。


「ぎゃっはは。はあ?欠陥魔法使い。なんだその目は?」


 だけど、もう違う。

 立ち上がり、

 ぐっと見返して拒絶する。


 滾ってくる熱い怒りから

 漏れた言葉は

 自分でも吃驚するほど・・


 キンキンに冷えていた。


「謝ってください」

「はあ?」


 僕がいつものように何も言い返さないと思ったのだろう。まるで何を言われたのか分からないって顔だ。

 僕は、ゆっくりと繰り返す。


「謝ってください。と言いました」

「ちっ、イカれたのか?魔剣イグニシオンの錆びにするぞ」


 バッツが見下したように怒り、剣の柄に手を掛けた。

 剣を抜いて恫喝するのは、冒険者スタイルだ。だけど、僕はそれを許さないっ。


「アイスエンチャント!」

「刻んでや、や、何をした!?」


 ビシッと氷+1が、バッツの剣に付与された。本来は味方への支援魔法。

 たった+1のしょぼい魔法。

 バッツが一生懸命、鞘から剣を抜こうとするが、氷結で膨れた刀身は抜けない。

 何が起きた?と僕を間抜けな顔で見つめてきた。


 分からないなら、教えてやるよ。



「その剣は、1か月抜けない」

「なにぃ!?」


 バッツの最大の武器、魔剣イグニシオンを封じた。剣はモンスターへ向けるべきであり、民間人に向ける剣などこの世にあってはならない。



 仲間がコケにされてキレたのか、ドワーフが斧を構え、エルフマンが杖を突き付けてきた。


「随分と舐めた真似をしてくれたな」

「初級魔法使いのくせに、高くつきますよ」


 怒りたいのはこっちだ。

 冒険者を辞めてまで、なぜ貴方達に馬鹿にされ続けなければならないのだ?


 手加減は苦手だ。

 どこまでやれば引き下がってくれる?

 僕は、今日。初めて人を殺してしまうかもしれない。


 そんな一触即発の空気をぶち壊すように、野次馬の中から野太い声が響いた。

 

「おおおおっ、見てられねえ。3対1とか、いい加減にしろや!」

「エクスー。お姉ちゃんが来てやったぞ」


 え?まさか僕の味方?

 現れた乱入者を凝視した。


 フォークを2本持ちした定食屋の犬娘さんは知ってる。それで、もう1人の包丁を持ったイカツイおっさんは誰?もしかして、定食屋の店長!?初めて見たかも。


 バッツが食ってかかるが。


「はあ?誰だ。俺らはコイツが欠陥だから喝を入れてやっ」

「ああああっ!坊主は何もしてないだろうが。俺様の心意気を見せられたいのか?それより、先月の定食屋のツケ払い早くしろや」

「3日も遅れてるぞ」


 定食屋コンビは一歩も引かない。

 ゾンビーズは街の英雄だから、逆らう人なんて誰もいないと思ってたのに。


「おい、俺らを敵に回してタダで済むとでも思ってんのか?なあ皆っ!」


 だけど、英雄バッツの声は通らなかった。

 動くと思われた野次馬は動かなかった。


 気付けば、笑っていた。

 お前らぜんぜん大した事ない。

 反撃、開始だっ。


「シャープナー(切れ味+1)」

「おおっ良いねぇ。やはり俺様はイケメンだな」

「店長、つけ麺の方が好きです」


 食堂の店主は、ギラリと光った包丁で自分の顔を見てウットリした。

 犬娘は、ペロリとマイフォークを舐める。

 さらに戦力を積み上げる。

 攻撃回数が増えれば、+1でも脅威だ。


「サポート1!」

「うおおおお。なんだ?これ。解体してやんぞ」

「うあああー!お腹減ってきた。これで3対3。良かったなー、エクス」


 街の住人が誰一人味方しない事に、英雄バッツの顔が青褪めた。

 さぁ、どーする?

 おっと、早くも逃げの態勢だ。

 

「ちっ、いちいち冗談を真に受けんなよ。つまらないヤツ。すぐに払ってやるからもう少し待ちやがれ。行くぞ」


 甘い。

 逃しませんっ!


「謝ってください」


 バッツの顔が、怒りに歪んだ。

 だから何?僕は君が謝るまで逃しませんっ!

 今夜の野次馬の視線は僕の味方のようだ。


「あぁっ、悪かったよ!」


 悔しそうに絞り出した声を聞き、僕は謝罪を受け入れ、戦いもせずにすごすごと去っていく3人の後ろ姿を見送る。


 ゾンビーズを撃退した。

 ・・・もっと粘着してくると思ってたのに、こんなにも呆気ないものなのか。

 野次馬から、歓声があがった。


「「やるじゃねぇか!」」


 またゾンビーズがお酒を奢ったら、言う事は180度くるりと変わるんだろうけど。

 それでも、あのゾンビーズに勝ったんだと実感した。あぁ、僕は英雄に勝ったんだ。


 ジャイアントキリング。

 ああああああっ!気持ちええーー。

 これは、サイコーの気分だ。


 分かってる。僕だけでは無理だった。

 漏れる感謝。


「ありがとうございました」

「へっ。坊主はお得意さまだからよ」

「エクスー、御注文は?」


 幸運の女神は、照れて鼻を擦るイカツイ親父と、尻尾を振っておこぼれを狙う犬娘。

 僕は感謝を込めて、調子に乗った。

 いえ、乗らせて頂きます。

 大銀貨を捧げた!

 

「デラックス・フルコース・スペシャルで!」

「デラフルスペ一丁入りまーす」

「心意気見せてやるよぉぉぉ」


 今日は、定食屋で勝利の宴。


「何だあ?張り切りすぎたのか、まな板が切れちまったぞ?」

「ちょちょっと、店長。何やってるんです?」


 厨房から聞こえるちょっとしたトラブルに、僕は心の中で謝る。ごめんなさい。

 お腹の空く良い匂いがしてきた。

 笑顔で、犬娘がテーブルに料理を叩きつける。

 いや本当は普通に置いたのに、重さで殴るかのように机が揺れた。


 ダンッ! 特盛り肉炒め


「げふぅ〜」


 ダンッ! 串焼きの山盛り

 ダンッ! 謎肉ステーキ


「・・・・」


 この後出てきた山盛り料理に、調子こいてた僕は予想通り初戦で完全敗北した。最強助っ人の犬娘もリタイアしたし、援軍にニトラとライ姉を呼ぼうか。助けてー。



挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 痛覚とか聴覚とか閃光耐性(常時サングラス状態)とかをデバフ2(一週間)くらいでできないものか……。 聴覚系は実際居るからあんまりおすすめしないかも知れない。 [気になる点] 以前の収入の…
[良い点] 漫画で店長見たけど普通に優男ぉ!
[気になる点] バッツの名前が気になります。ff5の名前をつけたの?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ