47 バフ魔法3
目覚めると知らない宿のベッドの上だった。
服に乱れは?
というか、靴まで履いたまま。
これはちょっと酷い。
「起きたか、エクス。私にバフ魔法を」
「嫌です」
マーラのお願いを秒で断ると、学者のお姉さんの悲痛な声がした。
「少年。どうか理由だけでも聞いてくれないだろうか?」
「まぁ、聞くだけなら」
真剣な表情で語りだした。
「私はセーラ。結界の構造証明に挑む魔法学者だが、つい先日。夢幻婆婆に捕まった」
「実在したんですか?」
曰く、未来を視るモノ。
曰く、1000年を生きるモノ。
永遠を願い、深淵に囚われた占い魔女。
セーラは頷いて、モノマネを始めた。
「ヒヒッ、この街の守りは失われた。落ち着いて聞かれよ。回避する3つの暗示は、【新型結界】【森林警備隊】【電撃】。障害を切り抜けるラッキーワードは、【サポート1】さね。これだけは、ゆめゆめ忘れないように。これを忘れたら、幸せな未来は、閉ざされる」
僕の背中に冷や汗が流れた。
これっ僕の責任じゃん。
「サポート1」
「うおおおおーー!ふぅっ。ありがとう。でも良かったのか」
いいよ。むしろごめん。
僕は曖昧な表情で答える。
ごほん。マーラの咳払いが聞こえたので、振り向くと。
「私は、マーラ・イオン。エクスのバフ魔法が無いと吐く」
突然。マーラが便乗してきた。
えっと、貴方の名前は知ってますし。
それに無理しなければ吐かないハズですよね?
「え?それが何?」
マーラを冷たい目で見ると、マーラはじわっと目許に涙を浮かべた。
いや・・・え?
なぜイケると思ったのか。
僕が悪いみたいなのは、ちょっと。
「私は、マーラ・イオン。エクスのバフ魔法が無いと吐く」
ま、マジかよ。
コイツゥ。村人病に罹りやがった。
同じ事を延々と話す病気だ。
マーラは、涙を浮かべて繰り返す。
「私は、マーラ・・・」
やれやれ。
今回だけだぞ。
「サポート1」
「はぁぁぁんっ。エクス、ありがとう!ぶへっ」
進撃の巨乳を伸ばした手でガード。
マーラの柔らかな頬に、僕の掌底がめり込む。
眠るのは貴様だ!
まぁダメージなんてある訳もなく、マーラは勢いそのままベッドに突っ込んだ。
「あのっ申し訳無いが、金が無い」
「はい?」
セーラさんが突然、深刻そうに告げてくる。いや、別にいらないけど?
「実は研究が売れないとお金が入らない。なので、この身を自由にしてくれていい」
セーラさんは目をぎゅっと閉じて怯えた顔で無抵抗のポーズをとったので、チョップでびしっと叩く。
「馬鹿な事しないで、いつでも良いですよ」
「ありがとう少年」
微笑んだら、恥ずかしそうに僕のチョップで崩れた髪を直しだした。
お節介だけど、ついつい聞いてしまう。
研究しようとしていた結界は魔導師の領分だから、証明は不可能だ。
「ところで、結界は魔導なので構造証明は不可能ですが」
「うっ、確かに。だから、新型結界の噂を聞きつけて調査の為にこの街に来たんだ」
僕の結界(笑)か。
「あれは、ただのスタンですよ」
「たしかに鑑定ではそう出たが有り得ない。エネルギーも動力も無く、結果だけあるのだ」
ネタバラシをしておこう。
「あれも魔導ですね」
「ぐっ、ここでも虚ろの壁。アプローチが間違っていたの?そうか!聖は無理でも雷だけなら再現出来る。ははっ、ラッキーワードで活路が見えた」
自分でバフ掛けておいて何だけど、死にそうな顔だよ。
「なんで、そんなに頑張るんですか?」
「使命感・・というのが表向きの理由で、私のは幼稚な復讐。偉くなって見返してやりたい。軽蔑しちゃった?」
意外な理由。
「いえ、良いと思います。代用品が完成する事祈ってます」
「ありがとう」
影のある笑いも素敵だ。
「マーラは?」
「私はだな。子供にありがとうって言われたのが、忘れられなくて」
そんな理由なの?
怜悧な表情のマーラを見る。
「だから、エクス。ありがとう」
「うぐっ」
不意に、いつもお姉さんぶってるマーラが、屈託なく笑った。ずるい。あぁ、この人の本質はこっちなんだ。
「何があったかは知らないが、本当に困ってる人には使えば?私とか。本心からの感謝を受け取ると病みつきになる」
「はいはい」
マーラはマーラだった。
手元には、マーラの感謝の硬貨。
2人の美女と1つ部屋に入り、出たらお金が増えていた。僕ってヤツは。
「お楽しみでしたね」
宿屋の親父が言ってやったぜ!と満足そうな顔してイラッとした。何も知らないくせに。
一歩外に出ると野次馬が出迎えてくれた。
お前ら暇人かよ。
恍惚とした顔の2人を見て、勘違いしてざわめく。
「また、頼むぞ!エクス」
野次馬が泣きそうな顔をした。
コイツゥ。
あー、来月はどうしようかな?







