45 リィナのお店4
その頃、僕は。
実にのんびりした生活を続けていた。
辞めてから2週間は寝ているだけの日も多かったような。解放感のあと疲れがどどーっと襲ってきて、なんか何もしたくなかったから。
だけど、いつだったか。
むくむくと身体の芯から元気が湧いてきた。まるで歩きだせと言っているような。
最近のマイブームは散歩。
あえて、ゆっくり歩く。
すると見逃してた物が目に入ってくる。
路地裏に咲く花とか、忘れられた丘の上の公園とか、スリーピングキャットの集会場を見つけた時は無性に嬉しかった。
まぁ、話してもあまり理解して貰えないけどね。
ルカは不貞腐れたように
「それより、私と何か作りなさいよ」
「そうだぜ相棒!共同作業だ」
リィナは
「エクス兄オママゴトしよー」
ニトラの友人のライ姉は、お宝を発見して味をしめたのかキラキラした顔で
「ご主人さま。一緒に溝漁りしましょう」
って、顔を合わす度に誘ってくる。横でニトラが飽きたって顔してるのが面白い。
何度かやってみたけど、どれもいまいちピンと来ない。面白いけどそこまで?みたいな。
ニトラの鬼ごっこに至っては無理ゲーだ。運動能力皆無の僕は幼女1人捕まえられないらしい。串焼きの罠を仕掛けるまで終わらないので、あれは串焼きゲームだよ。
そんな回想に浸りながら街を歩いてると声を掛けられた。血がついたエプロンのおじさん。職人かな誰だっけ?
「おっ欠陥魔法使い、丁度良いところに。困ってたんだ。また包丁に切れ味を掛けてくれよ。10本ぐらいでいいからよ」
「すみません、もう依頼は受けてないので」
断ると、吃驚した顔で見られた。
ですよねー、前は受注率100%だったから。
「はあ?たいして時間掛からねーんだから、ちょっとくらい良いだろ!」
「嫌です」
あ、怒り出した。
「ちっ、お高くとまりやがって!研ぎ屋に頼むからもういいよ。くそっせっかく見つけたのに高くついたぜ」
もう慣れたものだ。
ルカの言ってたとおり、僕がいなくても世界は回るらしい。
僕はあの日から依頼を断り続けてる。水の壷に、お風呂、永遠氷、火のコンロ、包丁の切れ味+1などなど。
皆、驚いた顔して、何で?
って聞いてくるけど、ただなんか働きたくないんだ。とても浅い理由でごめん。
すんなり諦めてくれる人や、心配してくれる人、捨て台詞を吐く人、怒りだす人、脅してくる人。さまざまだ。
んーっと背伸びをする。
解放された気分。
抜けるような青い空に、雲が気持ち良さそうに浮いていた。
「あっ」
そういえば雲菓子を食べに来てよ。って言われてたのをふと思い出してリィナの店に寄り道する。
雲菓子リベンジ。
今度は受け取り損ねても、また作って貰えるのがいい。勝利は約束されている。ふふっ。
「世界樹の種?」
今日の日替わりアイテムは、またとんでもなく胡散臭い内容の引換券だ。ここは雑貨屋だよね?
「エクス兄!リィナにあいにきたのー?」
「う、うん」
後ろから声を掛けてきたのはリィナだった。ねぇ、そうでしょ!?と書いてある。あまりの笑顔にそう言わされた。
いいえ、雲菓子を食べに来ましたなんてとても言えない。
「えへへー。あっ!ふわふわ、たべる?」
「うん!」
さすが、リィナ。
てててーと奥に駆け出していった。
「エクス兄、来てる。ふわふわの素だして。はやくはやく」
「はいはい。雲の結晶はここだね」
暇を潰しながら待つ。
ふふっ。本物かどうか怪しい種なんて誰が買うんだろうか。
「いらっしゃいエクス君!」
「遊びに来ました」
おばちゃんがザラザラと雲の結晶を機械に入れると、ゴウンゴウンと音を立て始めて、リィナが一生懸命な顔で作り始めた。
「そういえば、エクス君。なんかジャンキーみたいな女の人が探し回ってたわよ。何かしたのかい?」
「え?知りませんけど」
受付嬢さん?
違うよな。あっ!ルカかも
「もしかして、その子は縫いぐるみと喋ってました?」
「いや、縫いぐるみは持ってなかったような気がするんだけど。それに大人だよ」
うーん。
少しほっとしつつも。
分からないし分かりたくもない。
リィナが完成した雲菓子片手にご立腹だ。
「うわき?」
「ち、違うよ」
浮気も何もリィナは子供だよね?
どうやら正解の答えだったらしく、にへっと笑って雲菓子の賞品をくれた。
「ありがとう」
「えへへ」
あっ美味しい。
懐かしい味だ、口に入れるとシュワッと消えて騙されてる感があるけど好き。
上級魔法が使えた頃、本物の雲を食べようと空を飛んだんだけど寒くなって途中で引き返したから雲の味はいまだに分からない。
「御馳走さま」
「またねー」
リィナと別れて少し歩いてると、噂のジャンキーと目が合った。
フラグ回収が早すぎる。
目がヤバい。
隈の出来た危ない目付きのその女の人は僕を見つけると、嬉しそうに駆け出してきた。







