44 俺たち森林警備隊4
俺は元請けゲルグの親友のグラス。命知らずと言えば聞こえがいいが、チキンゲームが生き甲斐だ。趣味はお馬鹿なリーダーのゲルグをからかう事。
元請けを裏でコントロールしていて昨日まではうまくやっていたのに、どうにも良くない流れだった。その責任はエクス少年を逃したこの満身創痍のハゲにある。
エバソンが震えながら出してきた報告書を、リーダーのゲルグから奪い取る。
「ゲルグ、それ貸してよ」
「で、なんて書いてあるんだ?」
警邏業務報告
討伐 シャドウウルフ1
オーク1
ゴブリン5
結界 新型結界(0/24)
旧式結界(3/12)
損耗 魔法銃15、リカバリー2
特記 オークジェネラルに遭遇し撤退
「こりゃ酷い。子供のお使い以下だよ」
目眩がした。本人達は頑張った感を出してきたが、目も当てられない内容だ。怒りで震えるか笑いで震えるか迷うレベル。
高価な魔法銃が10もあればオークジェネラルなら倒せるのに。15使って討伐7。しかもゴブリンなんかに使うなよ。外してるし。
死んでくれたら良かったのに。
この失態には、エクス少年に頼り切っていたにしても呆れてしまう。
「げぴゃ」
やれやれと手を振ったら、ゲルグがお仕置きしてくれた。
「ゲルグ、これはエクス少年を取り戻さないと無理だよ」
「分かってる。だから報告待ちだ。それにしてもあいつ遅っせーな」
カードをする雰囲気でも無くなったので中断して、エバソンの悲鳴を聞きながら負け犬くんの帰りをのんびり待つ。
『連絡!連絡!』
水晶が光った!
発注担当者よりお呼び出しだ。
報告が遅れたのを気にした?意外だ。
「はい、ゲルグです」
『あー、ゲルグ君。ちょっとイゼル隊長の式典の費用が足りないからさ、コストカットよろ』
「は、はい。分かりました」
『幾ら削減出来たかすぐに報告してね。俺も怒られたくないからさ』
「後ほど、ご連絡します」
『通話終了!』
おー、全然違った。
平常運転で安心した。
水晶の光が消えたら、ゲルグが元気を取り戻してイキり始める。
「くそがっ、またコストカットか!」
誰が切られるかびくびくしてる。
この組織もそろそろ終わりかな。
でも、チキンゲームはまだ辞められない。
おおっ帰ってきましたか。
間が悪いね君も。
なんか顔色悪くない?
「ゲルグさん!ヤバい。エクスだけはヤバい」
「はああ?何があった?」
なぜか顔に煤汚れを付けて、目をギョロギョロと動かして落ち着きがない。俺は黙ったまま2人の成り行きを見守る。
「聞いてくれっギルマスは鉱山奴隷になってた」
「はあ??なんで?仮にも冒険者ギルドのトップだろ!?それにエクスといったい何の関係がある?」
これは俺にも予想外だ。
「鉱山主は、奴隷に落としたのは子爵だって答えたが、本人はエクスーエクスーってうわ言のように呟きやがってた。まだ耳元に怨嗟の声が残ってる」
まさかエクス少年が闇落ちしたの?
「つまり、エクスが領主を操ったのか。いったい何者だよ」
「知らないし、知りたくもないよ」
情報が不足しているな。
「まぁいい。それでお前はちゃんと、ギルマスからエクスの弱みを聞き出してきたんだろうな?」
「無理だ!聞こうにもギルマスの奴は、隷属の指輪を嵌められて、よだれ垂らして死んだような目をしてたんだぞ!」
はい。エクス少年の闇落ち確定。
ちょっとショック。
まぁ5年も経てば変わるか。
となると、秘密を探ろうとしたコイツもヤバいか?よし、切ろう。
「・・・つまり、見せしめか。秘密に近付いたら、こうしてやるぞという。まるで悪魔のような発想だ。殺すより非道え」
おっ!お馬鹿なゲルグでも気付いたか。
彼の成長を見るのは楽しい。
ここで、コイツをコストカットする所まで気付けば合格なんだけど。
「それに、刑期は11年らしい」
「長いが、それがどうした?それくらい普通に、なんだ?」
そうだ、普通なはずなのに、何か思い出したのか負け犬くんはガタガタ震え始めた。
「違うんだよ!ヤバいのはそこじゃない。それが刑期は最初は1年だけだったらしい。おぞましい事に、やる気になった翌日を見計らって10年延長を告げられたそうだ」
10年延長?
あぁ、くそっ思い出した!
たしか、少年の命題は・・
「それは、マジか」
「マジだよ」
冷や汗が流れる。
はーっ。エクス少年も魔導師でしたか。
「刑期が変わるなんて話は聞いた事がねぇぞ。それ、もしかしなくても一生出られないっていうメッセージだろ」
おや?
エバソンがガクガクと震えだした。
「あぁん?なんだエバソン。急に震えて」
「たしか、エクス君は魔導師で。その命題は・・・効果時間延長です」
つまり。
「ぐっぅぅう、なんていう執拗な奴なんだ。どこまで延長したいんだよぉぉぉ」
ゲルグ大正解!
あああ、喜べねぇぇぇ。
エクス少年、完全にヤベエ奴じゃん。
どーすんの!?
「それで、エクス君を再雇用する話は?」
ハゲが何か言い出した。
殺したい。
そうだ!薄くなった髪の毛を毟るなんて偉いぞ、ゲルグ。こういう機転は彼が凄いと思う。
今のは、オークリスペクトだよね。
つまり彼は魔物と同じ感性。
「はあ?こぉのハゲっ!無しに決まってんだろがっ。良いか、間違っても俺らを巻き込むな。そんなヤバい奴に逆恨みされてみろ。ギルマスと仲良く鉱山だ。くそっどーすりゃいい」
皆、怯えてガクガク震えだした。
はぁー。こいつ等にこのまま考えさせてたら、逃げるしかないとか騒ぎ出すのが、せいぜいだろう。
口を開く。
「無かった事にすればいいさ」
「無かった事だと?」
そうだ、どうせバレやしない。
「ゲルグ、担当者は書類しか見てないんだ。分からないよ。今月も無事に仕事は果たした。それで何も問題無しだ」
あれ?説明が難しかったか?
そうだ。
やっと理解出来たか。
「それもそうだな。おい、エバソン。半年前の報告書を出しとけ」
「あとエバソンさん。絶対にバレる事には報告がいるから、新型結界の効力喪失。それと保険のために、スタンピードの予兆。コストカットでこの無能な報告者の懲戒免職。この3点を追記して」
フォローを加えてあげる。
「わ、分かりました」
事務屋のエバソンが駆け出した。
あー、ゲルグは相当怒ってるな。
これ以上怒るとどうなるか無性に見たくなり、無意識で俺はゲーム再開を急かしていた。
危ない橋を歩きたくなるのは俺のどーしようもない性分だ。きっとあの日、死に損ねたせいだ。
コンコンと、コインでテーブルを叩く
「そんな事より早く再開しよーぜ、ゲルグ。今、いいカードが来てんだ」
「ちっ・・・忌々しいぜ」
ゲルグの顔に、またこのパターンか。今度は騙されねぇーぞって書いてある。ぷーくすくす。
「レイズ!」
「コーッ。この野郎、フォールドだ」
おおっ、ジョーカーに付いてる目印を見破るとは。やっぱりゲルグをからかうのは楽しい。
はぁ、でも今度の橋はヤバいよな。
さすがに死ねるかも。
来月はどーしよ?