39 ホワイト王族は仲良くなりたい5
転送門を出ると、大勢の給仕さんに囲まれた。怯んで後ろに下がると通ってきた所は壁になっていて阻まれる。ひんやりと冷たくざらざらしている普通の壁を手に感じる。
「ひぅっ」
「「お待ちしておりました。エクスさま」」
次の部屋の扉が開かれて進むと、お洒落な空間だった。
無数の灯りが煌き、高級な調度品、嗅いだこともない良い香り、どこからか流れる落ち着く音楽。
完全に雰囲気に気圧されてしまい、右手と右足が同時に動く。
席で待っていたのは、美しい女性と老人だ。ちょっと誰?
「大魔導師さま!」
にぱっと笑う顔見知りの小さな子もいた。
やっぱりあの時の子だ。
読みが当たってほっとする。
「本日はお招き頂きありがとうございます」
保護者と思われるお爺さんに挨拶をしたら慌てられた。使用人のようなので、初対面のお姉さまに礼をする。
とても複雑な家庭らしい。
「こちらこそ本日はお越し頂きありがとうございます。大魔導師エクスさま。私はシロン、こちらは妹のルーラと、爺やです。どうぞお掛けになってください」
お姉さまに微笑まれた。
「えっと、シロンさん。大魔導師とはこの子が勘違いしているだけで、僕は欠陥魔法使いなんて世間では呼ばれてます」
席につき真実を告白すると、困惑された顔をした。
「えっと、これを作られたのなら、紛れもない大魔導師で問題ないかと?」
気を使ってくれてるのかな?
「二人とも挨拶もすみましたし、まずは、お食事にしますわよ!」
えっと、ルーラだっけ?
初めて名前を知ったけどお忍びで街に遊びに来た子が仕切りだして食事はスタートした。
「今日はどうして?」
「この前のお礼がしたかったんですわ!」
一口サイズの肉が出てきた。上には草が乗っており、なんというか宝石みたい。皿の大きさの割に少し少ない気がする。
テーブルにはやたらとナイフとフォークがたくさん置いてある。大人用、子供用なのか?良く分からない気配りだ。
適当なフォークでぶっすり刺して口に放り込む。
うっうめぇぇぇえ!
何だ!?この料理?
爆発する旨味に殴られたような感覚。飲み込むのが惜しいけどびっくりして飲み込んでしまった。後からくる余韻も凄まじい。
テンションがマックスになり、感動を共有しようと見たらお姉さま方は平然と食べている。
これが普通なのか?
金持ち恐るべし。
「あら、お口に合いませんでしたか?」
「いえ、これがメインでも良いかもしれません」
くすりと笑われて2品目のスープが運ばれてくる。どのスプーンで食べればいいんだ?ずらりと並ぶスプーン。
フォークと違って形の違う物が何種類かある。どういう事だ?
ゴルフ!たしか貴族はゴルフをするらしい。一番目は大きいの、最後は平たいのを使う決まりの遊びだったような気が。
なら、これか?
一番大きなスプーンを握ってスープを飲む。飲みづらい。だが、これが貴族!
このエクスの迷走を見てぎょっとしたのはシロンと爺やだった。
上流階級は食事で語る。出された料理の素材やランクには意味のある問いかけであり、食べる側も作法でそれに婉曲に答える。
初手のスプーンで使いづらい一番大きな物をわざと使うのは、不足している。満足していないという意思表示だ。
二人が有りもしないエクスの思惑を探る中、ルーラが無邪気に指摘する。
「大魔導師さま!これが使い易いですわ」
「そ、そうなの?」
エクスはスプーンを持ち替えた。
シロン達の緊張が和らぐ。
貴族のルールなど知らないエクスは別世界に旅立つ。濃厚なスープに脳が溶かされる。ヤバたん。最後の一滴まで飲み切りたい味だぁぁ。
つい緊張が緩み気になる事を聞いてしまう。
「ところでご両親は?」
「お忙しい方ですので」
シロンと爺やが警戒する。
国王に直接謁見させろと!?
だが、正体を明かしていないのでこれは完全なる勘違いである。
「僕も人の事は言えないけど苦労してるんだね」
「問題ないですわ」
エクスが同情すると、ルーラが笑った。
勘違いに気付き顔を赤くする2人。
焼き魚に鮮やかな色のソースがかけられた魚料理を口に運ぶと、爽やかな柑橘系の香りが突き抜ける。しっかりとした魚の肉感が清流を泳ぐような感覚に酔いしれる。
食事は和やかに終わるかと思われたが、仕掛けたのはエクス。
エクスは、苦しい顔をしてメイン料理には手をつけなかった。シロン達は関係を拒否するメッセージかもしれないと困惑する。いったい、どこでミスをした?分からないと。
エクスは、ぐぐぐっとフォークを握りしめて立ちはだかる肉厚のステーキを睨む。ペース配分をミスしていた。少食の癖にふわふわパンをお替わりするという失策を犯していた。
(僕はなんて無力なんだ。もうお腹いっぱいだなんて。こんなに美味しそうなのに)
爺やはエクスの底しれない無言の圧力に負けて、メイン料理に手をつけない存在しない回答を求めてしまう。お腹いっぱいなだけなのに。
「ところでエクス様。何かお困りの事はありませぬか?」
「困り事ですか?」
なにか困ってたっけ?
その時、エクスのポケットが熱を帯びた!
「実は買い取って頂きたいものがあります」
「それは?」
空魔石に火魔法+0.01を掛けただけのゴミアイテム7個を机に置いた。
「この冬、温かいだけの石です」
「お幾らですかな?」
エクスは考える。これは本来は無料だが、高く売りたい。普通なら良くて小銀貨7枚だろうけど、もしかしたらお金持ちなので、銀貨。いや大銀貨1枚で売れるかも。
どうしよう。
・・・ルカとの会話を思い出す。
「ルカ、商品の値段はどうやって決めてるの?」
「エクス、教えてあげる。高く売りたい物は相手に決めさせるの。それで相手との付き合い方も決めれるのよ」
よし、そうしてみようかな。
「値段は言い値でお任せします。僕は少し席を外しますのでじっくり3人で考えてください」
「は、はい」
お手洗いに行ったエクスを残して難題を突きつけられた3人は、謎の温かい空魔石を触りながら考える。
「困りましたな」
「爺や、全部で金貨1枚ですわ」
「何を言ってるのですかルーラ。1つ金貨1枚でしょう」
既に金額がおかしい。
王族と庶民の感覚のズレが顕になってしまう。
爺やは、はっと気づく。
「もう・・働きたくない。つまり」
「??」
「実力は見せた。保護をしろという意味ですか?それとも一生遊べるだけ欲しい。断れば敵対する。分かりませんね。知っている事は洪水を起こす能力を秘めている可能性があるという事だけ」
会議は混迷する。
「ふっふふー、ならば質問を返しましょう。王族にはその余裕がありますわ」
「さすが姫様」
「爺や、足りぬとあっては王族の恥。これは戦争です」
エクスが大銀貨1枚来いと願う中、テーブルからメイン料理が片付けられて、使用人の手によって山のような金貨が積まれていく。
黄金の輝きで、お手洗いから帰ってくるエクスをニッコリと攻撃的な笑みで待ち受ける王族達。
ホワイトニング王族の反撃が始まった。
「姫様、集め終わりましたぞ」
「ルーラ、これでいいのね?働きたくない男の化けの皮を剥がしてやります」
「ふっふふー私だけは大魔導師さまを信じていますわ」