38 ホワイト王族は仲良くなりたい4
私は、ホワイトニング王国の第2王女シロン。最近、年の離れた妹の事が少し気がかり。悪戯好きで天真爛漫な彼女はメイドの腹から産まれた私を姉として慕ってくれていますが、あまりに無防備すぎて。
「ふっふふー。お姉さま、これから大魔導師さまにお会いしますの」
打診しても会食を渋っていたくせに、急に今夜なら会えるとか条件をつけてきた謎の魔導師。いったい何を企んでいるのかしら。
魔導師はみな変わり者らしいから、良くない影響を与えられては困る。
「ねぇ、ルーラ。私もその不思議な涼しき棒を作った方にお会いしたいわ」
「お姉さまも会いたいのですね!良いですわご紹介しましょう」
転移陣まで付いていく。
規則正しい生活をしている私にとっては非日常的なイベント。ルーラはいつもそう。
「爺や、私も参加できますか?」
「これはシロン様!真面目な貴女が珍しい」
「いいですわよね、爺や」
爺やが少し難しい顔をした。
苦労をされてますわね。今夜は少し私が肩代わりしますから。
ルーラは私が守ります。
「シロンさま、お越し頂けるのは良いのですが、幾つか注意事項が御座います」
「まぁ、お聞かせ願えますか?」
爺やは言い難そうに切り出す。
「今夜お招きするエクス様ですが、『仕事』は禁止ワードでお願いします」
「な、なぜ??」
「ふっふふー。大魔導師さまは、もう働きたくないそうですわ」
聞けばその男、働きたくないらしい。
とんでもないダメ男だ。
人には立場に見合った義務があるというのに。嫌な事から逃げて恩恵だけを得るなんてずるい。私だって籠の鳥なのに。
「いいですかな、シロンさま。エクス様に、お仕事は?なぜ働かないの?いつ働くの?家で雇います。一切禁止です。今日の目的は仲良くなるだけ。お願いしますぞ」
「ふふふふふ」
「お姉さま?何だか笑顔が怖いですわ」
こうして、一抹の不安を残しつつ、大魔導師?エクスとの会席は用意された。
そのエクスだが、宿屋でお腹を空かして寝ていた。一文無しだからである。
「お腹減った。・・・もし、迎えが来なかったら朝一でルカの家に。いや、近いリィナの家に行こう。何だか外が騒がしいけど?」
窓から下を覗くと、1台の華美な馬車が停まってた。こんな場所に?
コンコンとノックの音がする。もしかして自分の迎えなのかという期待と恐怖、それが勘違いだったらと思う恥ずかしさ。迷ってると聞こえないのかと勘違いしたらしく大きな声がした。
「大魔導師エクス様、お迎えに上がりました!」
ちょ、ちょっと。迎えに来た人は何を言ってるの?僕は欠陥魔法使いなんて呼ばれてるのに。
扉を開いたら、それを聞いて集まってきた野次馬と目が合った。それからスムーズに、ここにいない大魔導師さまを探し出した。・・気持ちは分かる。
無責任なざわめきが耳に入る。
「大魔導師さまだと?どこにいる?もしかして、姿を消されてるのでは」
「バカには見えないんだよ」
「お、おらは見えたな。あの上の方に浮かんでる」
凄く恥ずかしい。
消え去りたい気分のまま、やたら華美な馬車へと連行された。
中に入ると、使者だと思ってた人が反対側に座っていて目が合う。
「この度は、お招き頂きまして」
「エ、エクスさま。私はただの案内人ですからっ何卒ご容赦を。立って待たず申し訳ありません」
勘違いだった。
これから会う人は思ってたより高貴な人なのかもしれない。か、帰りたい。貧乏が悪いんです。
鉱山行きの馬車に乗ってるような気分で車室の装飾を見つめる。一日見ていられるかもってくらいに細かい。
「エクスさま、到着致しました」
馬車から降りると、ルカとくま吉と来た隠れ家風の喫茶店だった。
なんだか、からかわれた気分だ。
ここは、狭い個室に珈琲の香りが満ちる落ち着く場所。今夜は軽食かな?少し物足りないけど、大げさな感じじゃなくて良かった。
「あっ・・・ここには来たことある」
「やはりそうでしたか!ここは特別な会員証が必要なのに。それだけVIPな方なら、なかなかお誘いに乗って頂けなかったのも納得がいきました」
階段を降りて地下に入り、謎の扉の前で案内人が立ち止まると懐から取り出したゴールドの会員証で謎の扉を開けた。
「ん?」
「さぁ、私の案内はここまでです。いつも通りどうぞ」
扉の向こうにはぐにゃぐにゃと歪んだ空間が広がってる。噂には聞いた事があるけど、転送門なんて実在したんだ。
何故?行かないんです?って顔で見てきた。行かないよ使い方なんて分からないし。
だって、隠れ家の中に隠し扉があるなんて思わないよ!?
「ささっ、早くしないと遅れてしまいますので」
ぐいっと転送門に押し込まれた。
この嫌な感じは虚ろの住人との取り引きに似ている。僕が払える対価なんてもう何も無いよ。
吸い込まれた。
うぃえああああ!
転送門デビューだぜぇ。
帰ったらルカとくま吉に自慢しよう。
あとあの案内人は許さない。