37 金策2
「絶対に当ててやるっ!」
僕は、ドラゴンくじの売っている裏町へと足を進める。
道中のスラム街は、価値の無いゴミが散らかり、すえた匂いが鼻についた。
「ゲルグ、それでどの辺りで落とした?」
「分かんねぇよ。分かったら頼んでねぇ。見つからねぇな。ウゼー」
前から悪そうな二人組がなにかを探しながら歩いてきた。トラブルを嫌った僕は進路を変更する。
曲がった道の先の暗闇で目が光った。
子供?それとも獣?
「エクスお兄さん!」
何処かで聞いた声とともに、小さな影がしたしたっと近づいてきて、ようやくそれが猫耳幼女のニトラだと分かる。
ちょっとびっくりした。
「えーと、友達は元気?」
「うん。ありがとー。ライ姉も御主人様にお仕えします?とか言ってたよ」
あの魔女め。
薬の代金を値切りすぎた仕返しにどうやら子供に変な事を吹き込んだらしい。あれは魔女の妄言だよと誤解を解く。
「えーと、そういうのはいいんだ。僕も昔、ある人に助けて貰ったからさ。気にしないでと伝えといて」
「そうなんだ。分かった」
キョトンとするニトラに癒やされる。
これは、ご褒美串焼きかな。
「いい子だね」
おっと危ない、これは大事な種銭だった。
財布を持って、まごまごと躊躇してたら、ニトラが心配そうに聞いてきた。
「もしかして、お金無くなった?ライ姉のお薬高かったから」
「いや、大丈夫。さっき溝で落としただけだから」
嘘をついた。
たしかに、お薬は高かった。
ライ姉の病気は風邪じゃなくて《ファーラの呪い》だったらしく《エルフの霊薬》が必要だったからだ。
だから、いきなり生活費が底をついてしまったのだ。
「嘘ついてる?」
うっ、そんなにバレやすいか?
でも子供には心配なんかさせたくない。
だから、僕は嘘に嘘を重ねる。
「ニトラ、僕はお金持ちだ。その証拠にこれを全部あげよう。こんな事、余裕がないと出来ないよね?」
「う、うん。」
全部持っていけぇ。
ふっ、これが嘘つきの末路だ。
「ほら、分かったなら。えーとそれで。ライ姉に何か買ってあげなよ」
「分かった、ありがとー」
顔を寄せてきて、すりすりされた!
ゴロゴロと喉が鳴ってる。
うわあああ。癒やされるう。
「くすぐったいよニトラ」
これが大人の女性だったら、一発で陥落しただろう。獣人はいいぜぇと語ってた人の気持ちがちょっぴり分かった。
「バイバイ、またねー」
そして僕は残金ゼロになったけど。
心は温かい。
宿屋にぷらぷらと歩いて帰る。
「これは、ひも生活始まったか?」
ポカポカしてる。
貧乏だけど、ポケットに入ってる石のせいで物理的に温かかった。
寒いよりはいいけども。
「ん?これ・・・売れるかも」
そういえば、最近。
変な人に絡まれるのだ。
何でも、とある高貴な人を助けたお礼に食事はどうですか?と。
多分、僕を大魔導師さまと勘違いしているあの子供の使者なんだろうけど。
面倒だったのでお断り魔法を連発してたんだっけ。
お金持ちは娯楽に飢えてるから、こんな変な物でも買い取ってくれるかもしれない。
「そんなに誘われるなら、行ってみてもいいかな」
あ、あの人だ。
「これは奇遇ですね。エクス様。それで食事の件は検討して頂けましたか?」
「はい。今日なら大丈夫です」
使者さんの顔が驚きに満ちた。
「え?こ、今夜ですか?急に」
「あの・・・僕にも予定がありますので」
お金が無いから、明日にはルカのひもになるか、リィナの店番をするか選ばないといけないし。
「わ、分かりました。夕方までには結論を出しますので」
慌てて駆け出した使者さんを見送る。
急でごめんね、貧乏が悪いんだ。