36 金策1
あぁ・・お金が無い。
ヤッバイ。
なんで?
そこそこ贅沢しても半年ぐらいなら余裕だと思ってたのに。
やっぱりあれか。
調子に乗ってあれを買ったせいか。
いや買うよ。買わないなんて選択肢は無かったし。買った事に後悔は微塵も無いけどお金も無い。
現実を直視したくなくて、目を逸らしてたけど、いよいよヤバさを感じて来たので布団の上に残りの硬貨を広げて数えてる。
少ない。
このままだと、残り3日ぐらいか。
切り詰めても6日。
巾着袋に入れて紐を締めた。
「・・スライム枕を売ろうかな?」
愛用の枕を見た後、箱から出してない方の保管用スライム枕を見つめる。でも。ううううっ、これは限定色!
「駄目だ。手放せないよ」
どうしよう?
イェーイとハイタッチしてるルカとくま吉が脳裏を掠めた。
「エクスぅー思ったより早いじゃない?なになに、そんなに私と暮らしたかったの?」
別ルートの、リィナの家の奥の部屋でのんびり寝転びながら店番してる自分の姿も。
「エクス兄、あそんで。寝っ転がらないでリィナとあそんでよー」
うううん。
どちらも悪くないけど、なんだか負けたような気がする。
その後、きっと言われるんだ。
「相棒、ひも生活だな!」
「今日は、おばちゃんとリィナとどっちと寝る?エクス君は、どっちのスライムが好きかな?」
これさえ、なければっ。
どっちのビッグスライムも手を出したら、アウトじゃん。僕はまだ街から出てない勇者なので、倒せる気がしない。
師匠の家に帰るかなぁ。
ここ最近。
サービス定食を毎日食べるという贅沢を覚えてしまい、今さら前のゲロマズ生活なんかには戻れない。
昨日なんか、調子に乗って食後に、ジュースまでつけた。美味しかった。しかもまた飲みたいと思ってる。
お金も無いくせに、なんだか貴族さまみたいな生活をしてる。
どうしよう。
働きたくないけどお金がいる。
そうだ!ドラゴンソード。
ドラゴンソードを換金すればいいのでは?
当たると噂のスラム街のくじ屋に行って、ボックスの中に入ってる1等の紙を僕も引き当てれば、余裕で貴族生活が続けられる。4等とかでも問題ない。
良い事を思い付いたぞ。
ふぅー。なんだか子爵さまみたいなアイデアだけど、思いついたのが今日で良かった。タネ銭もギリギリセーフ。
「ビギナーズラック!」
幸運+1(初回のみ)
微妙だけど上がった。
効果時間が長いから不正対策もスルー。通常のラックみたいに万能では無いため、さっきまで忘れてたぐらいだ。
「よし、やるぞ!」
作戦がある。
この魔法は初回にしか効果が無い、ネタでしか使われないしょぼい魔法だ。
しかも、たった+1。
だけど延長状態で、初回に所持金分を纏めて掴んで引き抜けば?
「ふふふ・・・」
もし10枚、一気に掴めれば、
理論上おそらく
幸運+10
一回こっきりの裏ワザが炸裂。
これは上級魔法の+3を軽く凌駕する。
確率変動させるには、充分すぎる。こんな簡単な裏ワザを誰も知らないのは僕にしか使えないからだ。
「ドラゴンソードは、僕が貰った」
人より小さい手をぱしぱしと開閉して1枚でも多く掴んでやるんだと意気込んだ!
出撃開始っ
大当たりを引いて、僕の貴族生活を時間延長してやる。
命の次に大事なタネ銭を誰にも奪われないように懐にしまい、スラム街の中にある怪しいくじ屋を目指して、燃える炎に引き寄せられる夏の虫のようにふらふらと歩き始めた。
「ドラゴンくじは、如何ですか?小銀貨1枚で運試し!選べる1等のドラゴンくじー。皆の憧れドラゴンソードを手に入れよう。それとも白浜の別荘が良いですか?」
ウラカルの手下達が路地裏でカンペを見ながら大きな声を張り、勇者協会から委託されたくじは飛ぶように売れている。
姐さんが、上目遣いでお願いしてきた。
ウラカルは目を逸らす。
「アンタ、アタイも引きたい。当てて一緒に旅行に行こーよ」
「駄目だ。関係者は引けない決まりだ。手下にも徹底させてるだろ?」
くっ、馬鹿が多くて困る。
当たらねーよ、アレは。
小遣い稼ぎの副業に始めたくそったれ勇者協会のドラゴンくじは怪しすぎる。4等以上の高額当選は勇者協会が全額負担してくれる約束だ。
そのスペシャルチケットを何度も当てた関係者と思われる幸運勇者のカイゼル髭はもう覚えてしまった。たしか、森林警備隊の隊長だったはず。いったいあのゴミ箱の中に、引ける当たりは何枚入ってる?
「お姉ちゃん、俺も1枚!」
「いや10枚貰おう!」
「どけよ、俺が先だ。今月はなぜか体調不良だから、これで一発当てるしかねーんだよ」
何だか酷く盛り上がってる方向をげんなりした顔で見る。爆発的な人気は、この売り子のせいだったりする。
新メンバー?の絶対領域&へそ出し&ノースリーブの美女?が恥ずかしそう。
「な、並んでください」
外れくじを引いた客どもが、「くっそー外したあ!ついてねぇ」とか嬉しそうだ。
「が、頑張ってください。いい事もありますよ」
どいつもこいつもデレデレしやがって。
くっ、馬鹿が多くて困る。
そいつは男だ。
ついてねぇ?いいや、ついてるんだよ!
「くぅーん」
足に擦り寄ってきた犬を抱き寄せてやると、大興奮してきた。
高い体温とトトトトという心音に、荒んだ心がほわほわと癒やされていく。あぁ、お前だけだぜ、俺の苦労を分かってくれるのは。
「くくく、今日は貧民の肉をやろう」
「わんっ!」
嬉ションしたら、この話はナシだからな?と、ウラカルはネズミみたいな汚れた目で、はぁはぁと嬉しそうに興奮した犬を撫でた。