34 ウラカルの憂鬱3
再び、ウラカルの陣営。
スラム帝国。
ウラカルは、消沈して帰ってきた2人を出迎える。
まァ・・普通に無理だよな。
「アンタ。ごめん。エクスの隣に女神みたいな女がいて。でも、アタイ。・・・悔しくてハニトラで見返してやるって言っちまって」
「いや、いいよ。お前は悪くねぇ。安心しろ、俺が落とし前をつけてやる」
ちらりと、勢いで女にしてしまった部下を見る。
「すみません、ボス」
「いや、いいよ。そんな事より、お前はいつまで女の服なんか着てるんだ?」
ふとした疑問をぶつける。
「あっ・・・」
「よし、もうその服はやるから今日は帰れ」
くそっ、戸惑う仕草も女にしか見えなくて混乱する。新たな扉を開いた部下に、しっしっと手で下がるように合図をした。
「・・・ハニトラ部隊のオーディションをやり直すか」
問題はまだあった。
使えない手下が連れてきた、数だけはいたハニトラ応募者達だったが、脱落者が続出してしまい・・・今や、たった2名。
✕脱落者
・子供(風邪でダウン)
・老婆(腰痛)
・妊婦(産気づいた)
・野人(檻から脱走した)
○応募者
・犬♀
・猫娘←new
新規応募者に、謎の猫獣人の幼女がいたが、年齢的にアウト!誰だ連れてきたバカは?と部下を見るが、皆きょろきょろして心当たりがなさそうだ。
まぁ、いい。
ここに何かやってくれそうな奴がいる。直感めいた何かを感じてる。
犬だけに、ワンちゃんあるか?
「えーっと、犬。さっきはすまなかったな。お前、やってみるか?」
犬♀に和解を申し出た。
「わんっ!」
さっきの事を忘れたのか、ハッハッハッと大興奮して擦り寄ってくれる。くくく、愛い奴め。
撫でてやると、腹を見せて嬉しそうにトロンとした瞳で見つめてきた。抱きかかえてやると、心臓がとくとくと脈打ってて優しい気持ちになれた。耳元で興奮した犬がハァハァと幸せそう。
とりあえず、エクスの部屋から匂いのついたシーツでも持ってくるかな。暇そうな部下に指示を出そうとしたんだ。
「おい。そこのお前、」
じょーっ。
なんだ?ホカホカと生暖かい感触が襲った。
・・・・?
申し訳なさそうな犬と目が合った。
「くぅーん」
「ちっきしょう。こいつやりやがったッ!嬉れションを俺のシャツにっ」
犬を手放すと、びくっと驚いた犬はウラカルの胸を蹴って飛び出し華麗に着地を決めると、てててーと駆け出してそのまま抜群の逃げ足を発揮して建物の陰に消えていく。
くぅぅ、蹴り殺してえ。
「くそっ!!クリーンの使える魔法使いを呼んでこい!今すぐだっ」
犬、おめぇは落選だ。
嗚呼。ここまでコケにされたのは初めてかもな。燃えてきたぜぇ。
「くくく、随分とやってくれるじゃねぇか。エクスぅぅぅ!」
「え?エクスお兄さん?」
幼女が呟いた。
おいっお前、今なんて言った!?
驚いて見つめたら、びくっとされた。顔が怖い事を自覚しているウラカルは少し傷付く。
「お前、もしかしてエクスの知り合いか?オーダーは、エクスを子爵家まで案内だ。見返りに何が欲しい?」
「か、風邪薬をください」
あーこの幼女は、朝の体調悪そうな子供の為に、ここへ来たのか!やっと、繫がったぜ。
「分かった。手配してやるから行けっ」
こくんと頷いて走り去った幼女を見送り思わず溜め息が漏れる。眉間にシワが寄る。らしくない。こんなの、らしくない。
「はぁーっ。仕事にガキを使っちまうなんざ、俺もヤキが回ったかな」
「アンタ。この仕事はここでお終い」
なんだ?心配してくれんのかと、無理やり笑って姐さんを見つめる。
「ハニトラはもういいのかよ?」
「馬鹿言わないで。そんなアンタを見たくないの」
やっぱり、いい女だぜ。
何だか可愛く見えてきた。ウラカルはぎゅっと目を閉じて抱きしめた。
「エクスお兄さん、ハニトラに来た」
「え?」
これにはエクスもびっくり。
詳しく話を聞いたエクスは、ぎゅっと幼女の手を握った。ハニトラの意味も分かってない子にこんな事をさせるなんてッ!
「痛いよ?お兄さん」
「ごめん」
義憤に燃えたエクスは子爵家に向かう。
許せない悪と僕は戦う。
猫幼女と手を繋いで。
執事イエスマンは、驚愕の表情で子爵家にハニトラされたエクスを見つめる。その視線には、明らかな軽蔑が浮かんでいた。
「エクス。こ、こんな小さな子に・・」
そしてエクスも同じような視線だった。
つまるところ、両者に勘違いがあったのだ。こんな状況を作り出したのは、ウラカルであり、子爵さまである。
そして、こういうのは、大きな声を先に出した方が勝ってしまう。今までは、やられっ放しのエクスだったが、この日は初めて先に動いた。
よって、エクスの初勝利が確定する。
弱き者のために。
くま吉の魂に影響を受けた
少年は・・勇者になる。
エクスの瞳が燃えた!
「僕は怒ってます。こんな小さな子をハニトラに使おうなんて、あなた方は腐ってます!!」
執事イエスマンが口をパクパクする。
何を言ってるのです?それは、おそらく勘違いですよと。しかしながら、ウラカルの迷走によりそれこそが真実だった。
「しかも、病気の子供の風邪薬を条件に取引するなんて、卑劣すぎます!」
「ち、違いま」
違いません!
言い逃れをしようとするイエスマンをエクスは問い詰める。
「何が違うんですか?この子はあなた方がハニトラ要員に雇った訳ではないと?では、その潔白を証明出来ますか?」
「んぐっ」
雇っている。
言い逃れできないほど致命的に合っている。
イエスマンは無茶振りの意趣返しをウラカルにされてしまった。あの男、なぜこのような幼女を!
「語るに落ちましたね。この子はね、病気の仲間のためなら何でもするって言ったんですよ。こんな小さな子を利用したあなた方を、僕は軽蔑します」
「くおおお」
何も言い返せない状況。
そこへ、子爵さまが現れた。
そしていつものように能天気に状況を悪化させる。
「子爵さま・・・・」
「おおっようやく来たかエクス。やはり私のハニトラ作戦に引っ掛かったか」
ただ、今回は自分の首を絞めた。
きゅっと。
「僕は貴方を、許しません!この子の友達の風邪薬は僕が買ってあげます。帰りますよ」
「な、なにを。おいっ待たんか。勝手に帰るでない。話は終わっておらんぞ。エクス、エクスーーー」
状況を偶然にも陰で見ていた出入り業者は、職場でお土産話に花を咲かせた。
「ねぇ。ちょっと、知ってる?あの子爵さまがね・・」