33 ウラカルの憂鬱2
意気揚々と送り出されたハニトラ要員達だったが、足並みは揃っていなかった。
というのも美女?にデレデレの案内役の構成員の態度が、姐さんの元オタサーの姫としての矜持を傷つけたからだ。
ついつい姐さんは絡んでしまう。
「アンタ、ちょっと可愛いからってアタイからあの人まで奪ったら承知しないんだからっ!」
「姐さん。好きでこんな格好してるわけじゃないんですけど・・」
思わず、アタイはギロリと睨んだ。
無自覚な美女?に喧嘩を売られて、つい。買い言葉が出た。
「はああ?だったら脱げよ!」
「脱いでも、いいんですか?」
ぐぐぐっと拳を握って、どこかほっとした美女?の甘美な誘惑に耐える。脱がせばオタサーの姫に返り咲けるかもしれない。でもっアタイは。
「駄目に決まってるだろ!あの人が着せろっていうから、アタイだって我慢してお気に入りの服を貸してるのに」
「は、はい」
先頭を案内するそわそわと浮ついてる厳つい構成員が目に入り、さらに自分の機嫌が悪くなっていくのが分かる。コイツぅ、アタイから男なんかに乗り換えやがって!
「姐さんと、おおお、お嬢様。ターゲットはあの角を曲がった先です」
「このっ男と女の見分けもつかない、裏切り者があっ!」
「そうですよ。男なのに」
美女?がくすっと笑った。ちょっと満更でもなくなってんのかと殺しそうな目で見てしまった。
あー、もう駄目だ。
アタイ、キレそう。
ふーっ。でもアタイは、惚れた男の為なら火の中にでも躊躇わず飛び込める。
切り替えろ!あの人の役に立てるならそれだけで満足さ。パンッと自分の顔を張って気合いを入れた。
「分かった、アタイが女担当。お前が顔担当な。エクスを落とすよ!」
「はっ、はい!」
角を曲がり、
ターゲットのエクスと遭遇!
しかし、勢いの良かったアタイ達の足は思わぬアクシデントを発見してビタッと止まった。
アンタッ、アタイ達は子爵にハメられた!
こんなの聞いてないっ。
まず、エクス。
聞いていた話と違い、背は低いものの格好良いというか可愛い。長い脚に、パリッとした服はまるで王子様みたい。いや、まぁこれは嬉しい誤算。
だけど、もう1つがもう圧倒的に駄目。
お人形のような女がピッタリと密着するように歩いている。すでにターゲットはとんでもない美少女にハニトラされているじゃんかッ。
透きとおるような肌の小さな整った顔。愛らしくもあり、力強くもある表情。青く吸い込まれるような瞳。腰まで伸ばした長い髪は空気感をはらんでいて遊ぶように揺れる。
美女?と見比べるが、コイツを使っても勝てる要素なんて何1つない。アタイ?参加資格すらないねぇ。
なら、せめて服では!と思うが、ふりふりの王女様のようなゴスロリの服に目を奪われる。可愛いっ。一度は着てみたいと、つい憧れちまった。黒を基調に、白で締まっていてアクセントで入ったバツ印がとてもキュート。絶対領域の細い太ももまでもが燦然と眩しい。
思わず同じ服を着た自分を想像したけど、リアルに想像してしまって絶望してしまう。服を着るのにも資格がいるだなんて。あぁ、世の中はなんて不平等なんだ。だから、アタイは悪でいい。
これが・・本当の美少女。
気付けばアタイは、ゴスロリ女を絶望の暗い眼差しで見つめていた。
「なによ、アレ?あんなの魔王じゃんか。女として次元が違うんだけど?死ねばいいのに」
「ムリですよ。ハニトラなんて。帰りましょう」
「・・人形みてぇ」
もし、アタイの顔面戦闘力を戦士10人で計算すると、この美女?の戦闘力は90人。そこに戦力外の案内役を加えて合計100人。シナジー効果で3倍しても、300。
対するゴスロリ女の戦闘力は、おそらく5000。
アンタ、アタイ。散ってくるね。
「い、行くよ!アンタたち。私たちは人数だけでは勝ってるんだから」
「は、はいっ」
敗北が先に待っていても覚悟を決めて行くしかない。奇跡を悪魔に願いながらずんずんずんと急接近していく。B専か、ホモ野郎なら、ワンチャン!なんなら力づくであの調子に乗った女から男を奪ってやる。
げげっ!?
エクスは身構える。
曲がり角から出てきた怪しい三人組がガン見してくるなぁとは思ってたんだけど、困った事に覚悟完了したような顔つきで、こちらに近付いてきたからだ。
いったい僕達に何の用なんだろう?
知らない人だよね?
ぎゅっと裾が引っ張られた。見ればルカが怯えてる。迫ってくる3人から得体のしれないオーラを感じて足が竦みそうになるけど、僕は守るために手を広げて構えた。
「大丈夫だよ、ルカ」
今日は、お買い物に行きたいというルカのお願いを聞いて付き添っていた。この子がいれば、僕はナイトになれる。
「僕が守るから」
ルカは小さく背中に隠れた。
くま吉も構える。
ついに、激突。
怪しい三人組 があらわれた。
ハニトラの先制攻撃。
にこっと笑いながら話しかけてきた。
「ねぇ、坊や。アタイ達と良い事しない?」
「よ・・良い事しませんか?」
なっナンパしにきたの?
意味が分からないよ??思いもしなかったふわっとした提案に不意討ちされて、そのまま飲まれてしまい硬直っ。
ルカはエクスの背中で瞳に炎を宿した。
熊の反撃。
「何だお前ら?主と逢引中の相棒に、手を出そうとするなんて、いってえどういう了見だ!それに、ブ族に美少年なんかで落とせるとでも?」
クレイジーベアーは、虚ろの住人なので魂の色も見ているので、姐さんの悪に染まった心と、少年の美しい心を見抜いた。
「く、熊が喋ったよ!」
「もう駄目ですよ姐さん。人数も同じですし」
「もしかしたら、彼女も人形か?」
「ちょ、ちょっと。くま吉?失礼だよ。女の人に。それに逢引じゃないし」
熊の追撃!
「やれやれ何言ってやがんだ、この魔物共は。主は人間に決まってるだろ」
「なんて口が悪い」
「ムリですよぉ帰りましょうぅ」
「魔物・・・」
エクスがはぁ〜と溜め息をつき、司会進行役を買って出た。このままでは埒が明かない。
「えっと、僕たちに何か用ですか?」
「はっ、坊や。自分で考えな」
「・・・ハニトラに来ました。無理ですよね、すみません」
「お、お嬢っ!?」
あっさりと美女?がゲロしたため、視線が集中。恥ずかしそうに目を伏せた。
「ハニトラ?」
「あー!!もう、いいや。この計画はこんな女がいるなら、ぜってームリ。ねぇー坊や。頼むから、アタイ達にハニトラされた事にして子爵んとこに行ってくれない?ねぇ頼むよぉー」
「扱いは悪くないらしいです」
「断って拉致られるよか、良いだろ?」
どうやら交渉に切り替えてきたらしい。
姐さんが媚びて、美女?が補足説明し、ゴロツキが脅す。
以前ならここで屈していたかもしれない。
だけど、エクスにはもう効かない。
「嫌です」
ドヤァと幸せそうなエクス。
良く言ったわねとご満悦なルカ。
くま吉が追撃する。
「分かったなら、さっさと帰りな。いっぺん鏡見て出直してきやがれっ。てめぇらに、ハニトラはぜってぇ無理だ」
エクスがぎょっとする。
「ちょっと、くま吉?それは言い過ぎ」
ハニトラ姐さんの顔が屈辱に染まった。
そんなの私でも分かってんだよと中指を突き立てた。正論は暴力だ!自分で言うのは良いが言われるのは駄目だ。
「許さねえ。アタイらが、ぜってぇハニトラしてやっから覚悟しとけっ。ちょっと帰るよ、アンタ達!」
「す、すいませんでした」
「お嬢。足元に気をつけてくれ」
まもののむれを やっつけた!
色々あったけど買い物が終わって、ルカの家が見えるとウサギが扉を開けて迎えてくれた。
今日はもう、くたくただ。
労働では無いけど買い物は疲れる。
「はぁ〜やっと着いた」
「エクスぅー偉いよ。くま吉も偉い」
家に入るなりルカはとてもご機嫌なご様子で笑って戯れてくる。こんなに喜んでくれたなら悪くない1日だったかな。
ところでまた来るのだろうか?
あの真っ直ぐな人達には、ハニトラとか無理だと思うんだけどなあ。