32 ウラカルの憂鬱1
ウラカルの陣営、
スラム帝国。
「アアッ!なんだ?なんだ?ロクなのがいねーぞ!」
ウラカルは、自分の陣営に集めさせた女達の前で苛立ちのあまり、金属の盾を蹴っ飛ばす!
ガランガランと大きな音が響き、集められた女達がびくっとした。
「ボス。・・・申し訳ない」
周りを囲んでいた目付きの悪い配下達が、申し訳なさそうに項垂れた。しかしながら、彼らは荒事専門だから男ばかりなのは仕方ないだろう。
「お前ら。こいつらに、エクスってガキを落とせるとか本気で思ってんのか!?」
メンバーを順に紹介しよう。
子供 ……。
老婆 心は乙女。
妊婦 養って欲しい。
野人 ウホッ。
犬♀ 血統書付き。
ハニトラ要員として集められたのは、そうそうたるメンバーだったのだ。これで落とせたら奇跡に近い。
ウラカルは使えない部下達に嘆く。
「わんっ!」
犬が吠えた。
ハッハッハッと発情期なのか興奮して、やる気を見せて4本足で立候補してくる。くりくりとした瞳が綺麗な純粋な犬だ。
「おいおい、ふざけんなっ!てめぇは落選だ!せめて獣人にしろやっ!」
「くぅーん」
敏腕ウラカルは、犬をオーディションから落した。
ライバルが一人落ちた事を知り、老婆がいそいそと髪を整えだした。
まるで、乙女のような仕草。
それに気付いたウラカル審査員のこめかみがゴリッと動いた。
「ババア、お前はもう枯れてんだよっ!今更、少年にときめいてんじゃねぇ!はい、落選」
ウラカルにオーディションを落とされてしまった老婆(心は乙女)が泣き崩れると、おそらく息子と思われるいい年をした部下が出てきて老婆を慰めだした。
ウラカルはミッションの困難さに嘆く。
どんな要人さえ殺す自信がある。
しかし子爵さまのオーダーは、ハニトラだった。
このメンバーで?
ウラカルには、困ってる時いつも助けてくれる女がいた。
「ちっ、しゃーない。ここはアタイが出るしかないねぇ」
横から助けてくれた自分の恋人を見つめる。
嬉しいウラカル。
しかし・・・
「「さすがっ姐さん。頼りになりますっ!!」」
「まぁ仕方ないね。おっと愛してるのはアンタだけだから」
嬉しい申し出だが冷静に見て、姐さんはそんなに可愛くはないと思う。うん、全然可愛くない。
もちろん、性格は好きだが、部下みたいに、ましてオタサーの姫として調子こいてる恋人みたいに、勝利を信じきれない自分がいる。
「「ヒューヒュー、焼けちゃうすね、ボス」」
「アンタが嫌なら、やらないけど?」
こんな事を自分のために言ってくれるなんて、やはり目を閉じるとサイコーの女だ。
だがよ?エクスは果たして目を閉じてくれるのか?
ウラカルに迷いが生じる。
あああ?こんなのどうすりゃいいんだよ!
ウラカルには癖があった。
どうしようもないピンチの時、コインを投げるのだ。表ならオタサーの彼女を信じる。裏なら冷静になって他のボスに仕事を横流しする。と決めた。
いくぜっ
ピーンッと弾かれたコインは光を反射してくるくると回る。裏だっ、裏が出てくれ。
ぱしっ。
テンテンテーン。
掴み損ねた。
動揺しすぎて落としてしまった。
こんなの初めてだ。
呆然とコロコロと転がりながら砂に筋を描くコインの表裏の行く末を見つめる。
綺麗な手が止まりきっていないコインを掴んだ。
「落としましたよ、ボス」
そっと拾い上げて、差し出してきた少年と目が合った。見つめ合う2人。
細い身体。整った顔立ち、緑の瞳に灰色の髪。何かが引っ掛かる。コインの受け渡しで指先が触れ合った瞬間、なぜか少年の手を握りしめていた。
困惑を浮かべる顔をじっと見る。
ちょっと待て、コイツは。
ピーンときた。
自分の口元が緩んだのが分かる。
「採用!お前を採用しよう」
「え??」
敏腕ウラカルは、スラム街に光るダイヤの原石を見つけた。俺が間違ってた。性別なんかに拘っていては、もはや勝ち目など無い。
「よぉっし、お前はちょっと女装してこれからエクスを落としてこような」
「え??そんなの嫌ですよ!?」
「そうだよ何言ってんのさアンタ!その子は男だよ?」
ウラカルは勝利を確信して嗤う。
「うるせぇぞ!!!良いから、この俺がやれって言ってんだよッ」
見込みどおり、数分後。もじもじした美女?が完成した。ワンピースにショートヘア、なかなか眼福である。
部下達がうへへーと鼻の下を伸ばし、満場一致で女王になった。
オタサーの女王の座を秒で奪われた姐さんが怒りだすが、この仕事をしくじる訳にはいかねえと心を鬼にする。
「よぉしっ!行けや。スラム帝国最強のハニトラ要員。エクスを落としてこいッ」