28 落日のギルド6
森の精霊達はギルマスを讃えた。
彼こそは秒速の男だと。
新記録を樹立したからだ。
「逃亡ルートは、大森林の脇を抜けて街道に入る、だな。よし、行くぞっ」
3、2、1、スタート!
森の中へと入り、誰も踏みしめていない草を踏みつけると強い草の匂いがした。
ゆっくりと歩く。
ギルマスは、先ほど暗闇の中を横一文字に走った蒼い光に興味をそそられて近づいていく。
以前、冒険者達が、新型結界の近くで屑魔石が拾えるというのを話していたのを思い出したからだ。
屑魔石なんて大して金にはならないが、拾えるなら拾いたい。運が良ければ大きな魔石もあるかもしれないと。
森林警備隊に導入されたという噂の新型結界を間近で見ると、丸太の支柱に鉄線を張っただけの簡単な柵だと分かり少しガッカリする。
それに地面も暗くて、屑魔石も探せそうにない。
「何だ?初めて見たが新型結界は安そうな柵だな。こんな玩具で大丈夫なのか、この街の警備は?まぁいい、私には関係の無い話か。たしか、ここを乗り越えれば近道だったな。よいしょっ」
地図を頭に思い浮かべながら、鉄線の柵を乗り越えようとして、ぎゅっと鉄線を握る。
これが、痛恨のミス。
「ぶべべべべ」
電気がビリビリと奔る。
逃亡開始より、52秒で感電っ。
ニューレコード!
これを見ていた森の精霊達は拍手喝采っ!!わー。
ギルマスは、エクスの電気柵に触ってしまった!
感電した事により夜の森に愚か者の姿が蒼白く光って浮かび上がった。
「は、離れぬっ!何故だ??結界は人に無効のハズでは!?痛いっ。うああああ!!!」
手を鉄線から離そうという意志に反して腕の筋肉は収縮し、鉄線を熱烈に握り締めて全然離さない。それもそのはずで、これは結界とは名ばかりの、異様に長持ちするだけの初級電撃魔法なのだ。
「手が離れぬっ。拙いっ、このままだと死んでしまうううう。ぐはっ・・・」
しまいには、限界を超えたのか口からぶくぶくと蟹のように泡を吹き出し、顔面蒼白になってビクンビクンと痙攣しだした。
もはや意識も無く、自力では手が離せないため、継続ダメージで死んでしまうのは時間の問題だった。
そんな時、感想欄より祈りの声が届く・・・
『勇者よ!ギルマスの命を助け給え。彼はちゃんと絶望の中、断罪されてほしい』
その真摯な祈りに応えるように、愚かなギルマスを救済すべく勇者が現れた!
祈りを託された勇者の種族名は、ゴブリン。
醜い緑顔の勇者はニタリと嘲笑う。
そして両手を広げて電気柵にぴょーんと近づき、
バチュン!
と命の花火を盛大に上げた。
愚かなギルマスを、死地から救ったのはより愚かなゴブリンだった。
ゴブリンは、激しい勢いで燃え尽きてあっという間に屑魔石に変わる。
勇者ゴブリンがアースになり、全ての電撃を命の時間だけ肩代わりした事により、ギルマスは鉄線を無意識下で手放す事に成功。
どうにか、一命を取り留めた。
電線と別れを告げた悪運だけは強いギルマスは、糸の切れたあやつり人形のように立ってる力を失うと、母なる大地と熱烈なキスをする。
要救助者1名。
朝1番に屑魔石を拾いに冒険者が来るまでは、しばらく森のベッドでおやすみなさい。
「おいっアンタ!!生きてるか?・・・え、ギルマスか??なんでこんな場所に?」
ギルマスの鞄には金庫の横領品がパンパンに入っていた。
・・・まだ目覚めない。
「エクス、追いかけて来るなっ!聞いてくれ、私は逃げてるんだぞ。ううぅぅ。。」
苦しそうにまだ醒めぬ夢の中で必死に逃げ続けていた。