25 人形使いルカ4
助けてー。
素材の下敷きになったウサギからそんな声が聴こえた気がした。
気付けば僕は唱えてた。
「サポート1」
筋力+1
生命+1
敏捷+1
知力+1
MP+1
AP+1
倒れてきた素材に挟まって足をぱたぱたさせていたウサギに僕のバフ魔法が命中っ。
ビクンッと震えたウサギは、片手で素材をぐぐぐっと持ち上げてまるで強キャラのようにゆらりと立ち上がってするりと見事脱出成功。
微かな知性が宿った瞳で、ペコリと優雅にスカートの裾をつまんでお辞儀をしてくれた。
うんっ任務完了!
ルカがくいくいと裾を引っ張ってきた。
「エクスありがとう。でも、もういいよ」
「そ、そうだぜ相棒」
振り返ると、申し訳なさそうな心配そうなそんな目で見てきた。透き通った瞳の中には僕がいる。
くま吉も足をひしっとホールド。
突然訪れたまるで物語の勇者みたいなワンシーンにトゥンクする。
なんか、これ格好良くない!?
うっかり勇者病に罹ってしまった僕はニヒルに笑い調子に乗った。
「良いんだルカにくま吉・・・僕には使命がある。彼女達を助けられるのは僕だけなのだからっ」
ぎゅっと2人を抱きしめてから、そっと優しく突き放す。
でも、僕は行くよ。
僕の手には力が宿ってるから。
だから、この身を削っても立ち止まるわけにはいかないんだっ!
完全に勇者に成りきった僕は、部屋を歩き回り次々と困ってるウサギ達に片っ端からバフ魔法をかけていく。
「サポート1、サポート1、サポート1」
ドジっ子ウサギ達が、次々と知性を取り戻してペコリとお辞儀をしてくれた。
ふっ、いい子達だ。
最奥までずんずんと歩き、勢いよく大部屋の扉をバンッと開くと大勢のウサギ達が、のんびりとちくちく針で縫製していた。
なになに?と手を止めて一斉に見てくる。
えっ・・多くない?
そう思ってしまった僕の心から情熱が急速に消えていく。
は、働きたくない。
目の前には円らな瞳のウサギ達。
は、働き
くっそおお!仕方ないっ。
全員パワーアップしてやんよ。
そう悲痛な覚悟を決めたとき、
突然。後ろからルカに抱きつかれた。
高めの体温を背中に感じる。
ふわりと甘い香りがした。
「げふっ」
というか、タックルだコレ。
華奢な女の子に押し倒されるなんて。
もやしっ子な僕。ううっ。
馬乗りになったルカと目が合う。
あっ・・お怒りモードだ。
「エクスぅー!いい加減にしなさいっ!私の話を聞いてたのかな?仕事したいなら幾らでもさせてあげる。でも違うんでしょ!この子達は、難しい事をさせなければ暴走しないから。お願いだから、貴方は少し休んでよぅ」
「ご、ごめん。ちょっと変なテンションだったから。・・・つい」
ティータイムでリセットしましょう。
こぽこぽというポットからカップに注がれる音がして、心躍る香りがふわっと漂った。
たぶんこれは凄く高い葉っぱだと思う。
落ち着く〜。
先ほど助けた知力+1ウサギが淹れてくれたお茶はサイコーだ。彼女が喋りだす日は来るのだろうか?とふわふわな白い毛を見てふと思った。
「さっきの報酬よ」
「うっ・・」
渡された大銀貨を見つめる。
わーい。キラキラしてるや。
ルカは、思う所があるらしく机に突っ伏して愚痴ってきた。
「はぁ・・つい前の感覚で難しい事を頼んだら暴走しだして。しまいには混乱して糸に絡まってしまう子まで出ちゃったし。一度上がった生活レベルを落とすのって大変ね。便利すぎるのよ、貴方の魔法」
顔だけあげてジト目で見られたけど、僕にどうしろと?くま吉がわたわたしながら、そんなルカをぽんぽんする。
「主〜、元気だせよ。絡まった糸はキッチリ解いたから問題ねぇよ」
「そうそう」
ルカの悩みより、紅茶の香りに夢中な僕の雑な相槌に、不機嫌になったルカが茶菓子のクッキーを軽く投げつけてきた。
コツンと体に当たり床に落ちる。
さっと救出。
あっ、これ美味しい。
「ちょちょっと、エクス。落ちたの食べないで」
「なら投げないでよ」
僕の思わぬ正論に、ルカが困惑した顔からあっという顔に変わったかと思うと唸りだした。
ほほぅ、これはもしかしたらルカ先生を言い負かしたのかもしれない。いつも言われてばかりだから、してやったり感がある。
すると、クッキーを掴んだルカが、何かを企むようにニッコリ笑ってきた。
・・・あぁ、なんか嫌な予感が。
「なら、エクスがちゃんと口でキャッチすれば何の問題もないはずよ」
問題大ありだよ。
全く内弁慶がすぎる。
「ルカ。僕の運動神経を何だと思ってるの?」
「追加報酬よ受け取りなさい、エクス」
いい笑顔で、ひゅーうっと山なりに投げてきた。
飛んでくるクッキー。
僕は犬か?
いや、違う!
僕は、シャドウウルフだっ。
がぶっといこうとして、クッキーはカツンと鼻先に当たった。くぅん。
「ご、ごめんなさい。エクス」
あたふたするルカ。
可愛ければ許されるとでも。
いいや!許さないね。君には分かって貰う必要があると、その手に報復の武器を取った。
僕のターンだ。
「食べ物で遊んじゃだめだよ、ルカ」
僕の鼻先に当たり机の上に落ちたクッキーを、動揺してるルカのぷるぷるした唇にそっと当てると、クッキーを咥えてしまったルカの顔がぼっと燃えたみたいに赤くなった。
ふふっ。さっき食べたけど、このクッキーは美味しい。とても美味しい。机の上に落ちたからといって、この誘惑に耐えられるかな?
だから、僕が落としたのを食べたのは仕方ない。
食べるかどうか迷ったルカは、さんざん迷った挙げ句ぽりぽりぽりごくんとクッキーを飲み込むと、恥ずかしそうにくま吉でそっと顔を隠した。