207 二日酔い
穴蔵酒場で歓迎された翌朝。
朝日とともに目に入ったのは、空中にふわふわ浮かぶ黄金色に輝く水球だった。
どうも部屋に散らばった硬貨やら宝剣に宝箱まで映り込んでいるらしい。
「ふああ。ここはどこ?」
宝物庫というよりはルカの好きそうな内装だけど、どうやってここまで歩いたのか全く覚えてなくて酒の精霊に記憶を盗まれているようだ。
「もしかして、アミン様の家?でも昨日は会ってないような」
こうなった原因は。
「神の水のせいか。あれ?でも一度は断ったはずなのに」
さらに記憶を戻すと、やっぱりルカも危険察知してくいくいっと裾を引っ張ってきて厳しい顔で首を横に振ってきたからお断りした。
店主も申し訳なさそうに「回し飲みはドワーフの文化でしたな。人族は恋人同士しかしないと聞いたことがあります。勘違いをして失礼しました」と頭を下げてくれたはずなのに。
「でも飲んだ。なんでだ、あっ!」
なぜか今度は強めに裾を引っ張られたんだ。
無言だったけど、「なんで?エクスは飲まないの?」ってルカの目は語ってたから。
原因判明。
「でも、幸せ、幸せな味だった」
魂を癒すような一杯。
あれは、紅葉ガニの次に衝撃な体験だった。
不思議とアルコール臭さは無くて、だから全部飲んでしまったんだけど。
「ええと…それから」
ルカが、幸せそうにふわふわ笑いながら撃沈したのを見るや、ドワーフのおじさん達が何やら即席のベッドを作りだして。
なんとなく御礼に魔法を使ったんだっけ。
「ふふっ」
そしたら、めちゃくちゃ褒められた。
凄い!天才だ!神よ!
魔法が珍しいのかどんなゴミ魔法でも驚いてくれるから、調子に乗ったんだと思う。
「ううん。迷宮入りだ」
結局、大した事は思い出せなくて、タイミングよく、てくてく歩いているくま吉に聞くことにした。
「おはようくま吉。ここはどこ?」
「ドワーフの国でい。相棒、大丈夫か?」
んー、聞く相手を間違えたかも。
「くま吉こそ…昨日は悪さしてないよね?」
「何言ってんでい。俺っちが暴走した相棒をフォローしてやったんじゃあねえか」
「そうなの?ごめん」
「良いってことよ。へへっ。見ねえ、お代はばっちり頂戴したぜ」
「そう、なんだ」
どうやら、この金銀財宝は何も知らないドワーフさんたちから巻き上げたものらしい。
ぼったくり過ぎて恨みを買ってなきゃいいけど。
「寝ぼけてんなら、さっさと顔でも洗ったらどうでい?」
「ふああ。うん。そうするう」
シャキッとしたくて水球に顔を突っ込んでみると、ひんやりしてて気持ちいい。
初めて作ったけど浮かぶ水球は良いアイデアかも。
「ほらよ、使いねえ」
「ありがとう。ふわふわだ!」
くま吉がくれたバスタオルから花の香りもして幸せ。
「よっと」
ガチャッとくま吉が窓を開けた音がして、冷たい風と一緒に外の騒ぎ声が耳に入ってきた。
「なんじゃこりゃー!!!おいっ。ここ、建物無かったよな?」
「あぁ、アミン女王のごり押しした神職人さんが一夜にして建てたんだ」
つまり、ここはドールハウスか。
「あ?空の女王に取り入った噂のごますり野郎か。人間のくせに気に食わねえ。どうせこれも張りぼてなんだろ?」
「それが、昨夜ちらっと見たけど中身はあったぜ」
うわっ! シャドーと目が合った。
「はあ!?」
「だが、そんなモンはどうだっていい」
「おいおい、何言ってるんだ。気になるぞ」
ビビるように家具の陰にびゃっと隠れた生き残りシャドー。
「まー、いいから最後まで聞けよ。この家も凄いんだが、凄くないんだ。あの少年は、他にもたくさん。無限水に、永久機関、溶けない氷、原初の炎まで産み出した」
「神か?」
「あぁ神だ。彼こそ神職人エクス」
こっちを伺うように見てきてちょっと可愛い。
「どうしたんでい?相棒」
「な、なんでもないよ」
くま吉に教えたら消されちゃう。
「隠し事はナシだぜ」
「なんでもないってば」
迫るくま吉、心配そうにその後ろで見てくるシャドー。
バタバタという音がして風が強くなり。
「良くねえ、そういうのは良くねえ。吐いちまいな。楽になれるぜ」
「わわわ」
空から建造物が降ってきた。
どうにか窓に近づき風をシャットアウトすると窓がビリビリと揺れた。
「なんでい?」
「あー、アミン様が出迎えにきたみたい」
「やべえ、主に内緒で出てきたんだ。急がねえと」
アミン様だ。







