204 ドワーフの国
あれからどれくらい走っただろう。
夜を駆け抜け、朝日を浴びて太陽は真上に来ようとしていた。
「おかしい、御者さんにはサポートワン掛けてないのに」
「奴さん、よっぽどこいつを気に入ったみてえだな」
そんな子供みたいな。
「それよりお昼にしましょう」
引きこもりの達人であるルカは全く気にしてない様子でバスケットを開きサンドイッチを取り出す。
何を勘違いされたのか欲しいの?みたいな目線で渡してきたタイミングで大きく揺れる馬車。
「ひゃう」
「むがっ」
お口に直接サンドイッチをねじ込まれてしまいルカの顔が青ざめる。
「こめんなさいっ」
「だいひょうぶ、ありはほう」
そのままもぐもぐ頬張り平気だよとアピールすると、ほっとした顔に。
「エクス可愛い」
「ごくん。あー、うん。どうも」
「まだある。えいっ」
この後、ルカのスイッチが入ったらしくせっせとお口にダイレクトアタックしてきたせいでちょっと食べすぎた。
雛鳥に見えたのだろうか。
「ふーっ、ご馳走様」
「どういたしまして」
満腹でちょっと眠くなってきちゃった。そうだ! このまま人形の海にダイブしちゃえ。
「ふわぁ、おやすみ~」
「相棒、遊ぼうぜ」
それにしても眠たくなった時に寝ていいとかなんて贅沢なんだ。
「エクス起きて」
「起きろ相棒」
「んんぅ、ふあああ。おはよお」
くま吉に揺すられて目を開けるといつの間にか人形は片付けられていた。
窓の外は、草原から岩だらけの山道に変わっていて知らない土地に来たんだというよく分からない高揚感が胸に満ちてくる。
それはルカも同じなのか無邪気にはしゃぐ姿が可愛い。
「もうすぐ着くんだって!」
「ほら、顔洗ってさっさと出発準備でい」
「分かったよ。痛たた」
ピシッと体が悲鳴をあげて顔を顰めると、不安そうなルカが長い睫毛がしぱしぱ羽ばたく。
「エクス大丈夫?」
「うん、どうやら寝違えたみたい」
「どこが痛むんでい?俺っちがさすってやるぜ」
「あー、ありがとう」
まぁいちおう御礼は言っておこうか。君の気持ちは嬉しいよとごろんと転がり背を向ける。
「へへ、俺っちに任せな」
「はいはい、お願いしまーす。うぐっ!?」
的確にツボを押してきて顔からぶわっと悪い汗が吹き出す。
ボタンなのか?爪なのか?少し硬いところでぐりぐりしてきて痛気持ちいい。
しかも忘れるくらい前にかけたファイヤーエンチャントのお陰でさらに効く。
これはお灸とかそんな効果あああ~と目をとろんとさせておると、門に差し掛かったのか視界に影が差した。
「うわっ大っきい」
ルカの声に窓の外を見ると、門番の代わりに巨大なゴーレムがいた。
さすがは職人の国、聞いた話によると飛行船と同じぐらい魔石を喰らうらしいけど僕の魔法なら。
「はん。相手にとって不足はねえぜ」
「くま吉が近づいたら踏み潰されるよ」
「てやんでい。俺っちだって巨大化できるんだぜ。なんだったら今見せてやるぜ」
門番ゴーレム VS 巨大熊。
うん。どう見ても悪者サイドだ。
「見たいけど、また今度ね」
「仕方ねえな」
門は素通りらしく街中に入って馬車がようやく止まった。
「どうやら着いたみてえだぜ」
コンコンと前の窓が叩かれ、達成感に満ちた御者さんが顔を出す。
「エクス様、ありがとうございました。この御礼はいつか必ず」
「御礼なんて良いですよ」
あれ?御礼を言うのは僕の方だよね。
「ドワーフが集まってきています。右に引き付けますので左から出てください」
「はい。ありがとうございます」
右がざわつき始めたので、ルカと頷く。
「行くよ」
「うん」
「がってんでい」
集まりだした野次馬を抜け僕らはドワーフの国へ潜入成功。
「相棒、良い奴だったな。奴さんの犠牲は無駄にしねえぜ」
「いや、生きてるから」
また魔法を掛けて上げたくなる人だ。
何か新しいネタを仕入れたいところ。
「どこに行くんでい?」
「これから決めるところ」
街の1番のイメージはなんだか小さい。
道行くドワーフもそうだし、目線の高さが丁度いい。
なんだか背が高くなった気分。
「だったらよ、さっきのデカブツのとこはどうでい?」
「えー、腹が減っては戦は出来ぬ。まずはお店探しにしよう。ルカは何が食べたい?肉?野菜?」
あっ、駄目だ。
何も聞こえてないというか初めての国で人が見てくるからかちょっと震えて駄目な子になってる。
さっきまで楽しそうだったのに。
「?」
「なんでもないよ。大丈夫だから安心して」
不安そうに見上げてくる目に僕に任せてと微笑む。
といっても初めての國なので、こういう時は聞き耳を立てるに限る。
「空の女王はまだ帰って来ないらしいぞ」
「そうか、今回の遠征は長いな。あの威張った他所もんを何とかして欲しいのに」
「ゲルグだっけ?」
うーんハズレ。
「あー腹減った」
「今夜はガヤガヤした所で景気よく食いてえな」
惜しい。
「今日はどこに連れて行ってくれるの?」
「洞穴亭」
「嬉しい!あの個室大好き」
ビンゴ!
お目当ての店に連れて行ってくれそうなドワーフのカップルをストーキング開始。
ミッションは成功し、読めない文字の看板が掛かった随分と小さな店は、いきなり階段を降りて地下に向かうみたいだ。
少し狭い洞穴という雰囲気で、所々蝋燭が掘った壁に埋まっていて面白い。
視界が開けたら、受付のドワーフのお姉さんが目を丸くした。
「まあ!珍しい」
「?」
どうやらかなりローカルなお店らしい。
「失礼しました。人間のお客さんは珍しくてね。お部屋に案内しますね」
「はい」
案内された洞穴はいい雰囲気だ。
「エール、火酒、水割り、どれになさいますか?」
「えっと、水わり?でお願いします」
「すぐにお待ちしますね」
いや、別に急いでないんですが。
「エクス凄い!」
「そうかな」
「堂々として格好良かった。まるで全て知ってるみたいだった」
ルカが息を吹き返したのでお店選びは大成功!
「さっき聞かれたのはなんだろう?」
「食前酒かしら。ドワーフはね、ひゃう!」
店員がいきなり戻ってきて、涙目で固まるルカ。
「あら?お邪魔だったかしら。後の注文はそちらの伝声管でお願いしますね」
「いえ、分かりました。ありがとうございます」
出ていったのを見送り振り返ると、ルカがくま吉を抱きしめて顔を赤くしてた。
「ううっ」
「今のは仕方ないよ。ほら水を飲んで落ち着こう。乾杯なんてね」
ルカと一緒に、運ばれてきたお水を喉へ流し込む。
ごくん。
次の瞬間、カッと焼けるような熱が喉を駆け上がる。
ハラが肚が熱い。
頭がぐるぐるする。
なんだこれ。
「これ、もしかしてお酒!?」
「うん。そうみたい」
ルカも目を丸くして、さっそく僕らはドワーフの洗礼を浴びた。
水を頼んだのに酒???







