203 馬車旅2
「ひゃうっ」
馬車が止まったせいで人形が波のようにうねりルカが変な声をあげた。
「すみませんっ! 大丈夫ですか?」
「大丈夫です!ちょっとびっくりしただけで」
御者さんに心配されてちょっと恥ずかしそうなルカの代わりに僕が答える。
「良かった。ごめんなさい。次からはゆっくり止まります。ここで少し休憩にします」
「はーい」
いわゆるトイレ休憩ってやつ。
「僕もちょと空気を吸ってこようかな。ルカは?」
「行かない」
恥ずかしそう。
代わりにくま吉を誘おうかと探すと楽しそうに人形の海を泳いでいたから一人で外に。
人形を車内から零さないように窓枠を掴みするりと窓から身を翻す。
「とうっ」
すたっと着地したけど足元がふわふわ。
木陰で用を足しウオーターボールで手を洗って少し散歩してるとどこからか馬の餌を小脇に抱えた御者さんが近づいてきた。
「エクス様。この先の飼い葉を買った民家でお手洗いを借りられるそうですけどどうしますか?」
「ありがとうございます。でも、僕はもうすませたので大丈夫です」
Uターンして馬車まで一緒に戻ろう。
「いえ、ルカ様の心配を」
「あー、ルカなら大丈夫です」
「そうですか?」
「ルカはトイレに行かない子なので」
「は?」
「そういう貴族魔法があるんです」
「ずるいですね貴族」
ちなみに教えてくれたけど中級魔法らしく僕には使えなかったので同意だ。
「ところで」
「はい?」
期待の眼差しをびんびん感じる。
「今日も例の豪邸を建てるんですか?」
「たぶん。でもルカに聞かないと。お願いはしときます」
「ありがとうございます! でも無理でしたらテントを設営しますのでご安心を」
めちゃくちゃ嬉しそう。
これだけ喜んでくれるとやりがいがあるよね。
!? 馬の近くに人影が。
「んっ??止まって」
くいっと御者さんの服をひっぱり急停止。
警戒レベルを引き上げてよく見ると、あれはルカ?
「どうしたんですか?」
「ルカが外に出てるみたいです」
気づかれないようそっと離れた位置から指をさす。
結局、好奇心に負けて外に出たルカは、満足そうに馬を撫でていた。
月明りを浴びた銀髪がきらきらと白銀に煌めきその姿は。
「んぉぉぉ、ルカ様美しい。まるで絵画の女神様のようでなんと幻想的」
ただその横で、馬がくま吉の差し出した木桶に盛られた果実を興奮しながらガツガツ食べてるので幻想的かどうかは意見が分かれるところ。
「あっ、勝手に餌をあげてしまったけど良かったんですか?」
「大丈夫です。気にしないでください。今後は餌代が上がりそうですが・・・」
おおぅ、人間は贅沢を覚えると戻れないように馬もそうらしい。
後でルカに言っとかないと。
「ごめんなさい」
「いや、本当に大丈夫です。こんな神々しい光景をの見せられたら幾ら払っても構いませんよ。仲間にさらに自慢できますし」
「ははは、ほどほどにしてくださいね」
ルカが満足するまで木陰で見守る僕ら。
「さて戻りましょうか。エクス様のおかげで良いものが見れました。ありがとうございます」
「いえ、ルカには内緒で」
「はい!もちろん。それでもルカ様のおかげで今年一番の走りが出来そうです。驚かせてあげますよ」
そう言うと御者さんはせっかく買ってきた飼い葉をリリース。
ブヒヒーン。
まぁ馬は満腹でやる気も十分みたいで早く走らせろとその場で地面を掘るように蹴っているしいいのかな。
僕も何かしたくなってきた。
「そうだ! 馬車の車輪って外せますか?」
「できますけど?」
ふふふ。
「フロート」
「うおっ! 私の馬車が浮いた!?はあ?浮いてますようううう嬉しいっ」
ブフォン!?
不味いっ馬も興奮しだした。
状況が分からなくて、暴れる一歩手前という危うい感じを放ってる。
どうしよう?
「あのっ御者さん!」
「エクス様ありがとうございます!ありがとうございます!」
そんなことより、馬を見て!
今にも暴れ出しそうでヤバいのに。
「お願いだから、落ち着いてください!」
「これが落ち着いてられますか?だって馬車が浮いてるんですよ」
ブルゥゥゥゥ!
「ああああっ」
話が通じないこのままだと危ないのに。
御者さんも馬も!
馬なんてもともと通じないけど。
あれ?
そうだ!
分からせれば良いんだ。
「サポートワン!」
暴れ馬よ、賢くなあれ。
「ブルッ?」
おおっ成功だ。
ただちょっと、馬のくせに紳士みたいな目で見てきてちょっとキモイ。
それに喋らないけど会話みたいに聞こえてくるし。
「うわっ」
首をうまく使って馬車に乗せてくれた。
凄いな馬面紳士、キモイとか思ってごめん。
「ありがとう馬」
「ブヒヒ」
窓から帰宅。
「おかえりなさい」
「ただいまー」
「それにしてもまったくエクスは」
まさかいきなり咎められた。
「ルカだって勝手に馬に餌をあげて」
「あの子、頑張ってた」
「それはそうだけど」
きょとんとした顔のルカ。
「私は悪くないし、エクスも悪くない」
「え?」
「貴方は最高よ」
微笑みに毒気を抜かれてると縫いぐるみの海からひょこっとくま吉が顔を出した。
「相棒、一緒に泳ぐかい?」
「いや遠慮しとく」
「なんでい」
ガコン、ガコンと音がして、興奮気味の声が出発の合図。
「車輪外せました! 御二人とも最高ですよ」
「どうも」
「今度は私たちも最高の走りを魅せますのでご期待ください」
「よろしくお願いします」
「はいよーっ!」
「ヒィヒーン!」
滑らかに発進した魔改造馬車はぐんぐんと加速し、最高に速い。
車輪の音が消え、ゴガガガッという荒々しい蹄の音が夜に響く。
窓からびゅんびゅん流れる木々が気持ちいい。
「ひゃっほーう。こいつは最速だぜ」
人馬一体というけれど、魔法では味わえない馬の揺れがなんとも不思議な感覚だ。
「楽しいね!エクス」
「うん」
これはこのまま着いてしまいそうな気がする。







