201 ルカは最速
ぽやっとしたエクスを除き、水面下では勇者エクス獲得のために大きなうねりが起きていた。
映像を見た貴族の令嬢が恋に落ち、父親に取り計らってくれとせがむが大きく出遅れている。
翌朝には、勇者協会のジャスティス卿が、権力拡大のためシロン様に結婚を唆し、勇者新聞で周りを固める手はずになっているのだ。
しかも、第二夫人に聖女のハニトラをぶち込む二段構え。
勇者協会は勇者の数だけ聖女を有している。
といっても彼女たちはシスター服に身を包んだだけで、神の加護はない。
代わりに有るのは飛び抜けた美しさ。
今回、難関の聖女選抜に勝ち抜いたアナスタシアもその一人だった。
フォレストエンドに豪華な馬車が到着した。
降りてきたのは、長くて揺れるような金色の髪、長いまつ毛、仕事をした事のない細い手足、そのくせルカを圧倒する豊かな胸の女。
胸元で弾むようにクロスが跳ねると、街に残っていた愚民が鼻の下を伸ばす。
「聖女さまだ!なんとお綺麗なのだろう」
あー男どもの視線がキモイ!と腹黒聖女は心の底て舌打ちしながら、優しく微笑み手を振り応える。
「聖女さま、ここからは歩きになります。お足下にお気をつけを」
「ええ、神の御加護があらんことを」
勇者の家まで歩いていると、街のあらゆる場所に映る勇者の姿に胸が高鳴る。
「あの方が私の勇者様」
合格です!勇者エクス。
超優良物件に気分が高まります。
手練手管と虐めを駆使して同期を蹴落とし勝ち上がった甲斐がありました。
隣にぴったりと子供が張り付いてますが、あれが報告書の人形姫ですね。
どうやって引き剥がしましょうか。
いえ、全てが終わってから恋心を自覚させた後で捨てた方がより絶望の表情を楽しめそう。
あぁぞくぞく致します。
内に秘めたその邪悪さは、同時刻に家に向かっていたエクスに悪寒が走るほど。
「へくしゅ」
「こいつは、悪い虫だな」
「またそれ?なんか寒気がしたんだよ」
おわっ!ルカの足が止まり急ブレーキをかけられた。
なんなの?と見ると真剣な顔でくま吉とアイコンタクトしてる。
「たしかに鈍い相棒が寒気とかとんでもねえな。がってんでい。エマージェンシー。ケース13発動!」
「?? 」
分かってないのはまるで僕だけみたいな空気でくま吉が急かしてくるんだが。
「相棒、ぼさっとすんねい。ルート変更!その先を左でい」
「うん?」
勢いに押され辿り着いたのは御者さんの店?
肩から飛び出したくま吉がぺしべしと扉を叩くが、「お休み」の看板がかかってる。
「たのもー。 ちいっ!中でのんびり油売ってやがる。突入でい」
めんどくさいなとルカをちらりと見ると、お願いみたいな表情なのでため息。
「お休みのところ、すみませーん」
まあ、家主が出てこないのはルカで慣れてるから中に入るのに抵抗はないんだけど。
道が悪くて通常営業できないだけで人はいるらしく、事務所の奥から声が聞こえてきた。
ちょっと入りずらいので会話が切れるタイミングまで待とうか。
「いいな~」
「でしょう。これこそ今ここに映ってる大魔導師エクス様より賜りしネオランタン!」
「それにしても凄い眩しいな」
「まさに絶望の夜道を照らし続ける聖なる道標です」
「あー、羨ましい。欲しいよ。俺も本人に会ってみてえ~!!」
「はは、もう彼は雲の上の人ですよ」
待ったせいで余計入りずらいくなったんだけど。
この空気の中に入っていくのやめようよ、とルカを見るけど無理そうで扉をノック。
「あ?誰だよ。どうぞ」
部屋に入ると御者さんとその仲間が、看板見なかったのか?みたいな目から英雄を見るよぅな興奮の目に豹変した。
「本人来た!?」
お寛ぎのところごめんなさい。
「どうも」
「これはエクス様!お待ちしておりました」
「いえ、休業中のところすみません」
「大丈夫ですよ!貴方なら。うわっ!俺、大魔導師様と話しちゃったよ!?帰って子供に自慢しよ。あっ!高級茶菓子取ってきます」
走るように同僚の人が消えた。
「ルカ様もお久しぶりです。ところで今日はどちらへ。王都でしょうか?安心してください。私は夜も走れますので。このネオランタンで」
「早とちりすんねい。行先はドワーフの国。すぐに出してくれ」
「アミン様ですね!了解です。支度しますのでお待ちください」
ドタドタと足音が遠ざかる。
「良かったの?」
「当然でい」
ルカも小さく頷く。
ルカは早い。
この若さで自分のブランドで成功を修めてるのは誰よりも初動が早いのもあるのだろう。
「どうしたの?エクス」
「でもなにか忘れてる気が。ううん」
「いいの。落ち着いて思い出して」
「あっ!」
暗闇に光る無数の目を幻視してぞくり。
「クイーン忘れてる!1回戻ろうよ」
ほわほわしていたルカの顔がさーっと青くなり、そして悩むような間があり覚悟を決めた顔に。
「戻らない」
「ええ?」
なんで。
「女には負けられない戦いがあるの」
いったいこの子は何と戦ってるんだ。
「勇者さま、高級お茶菓子です!どうぞ」
「エクスさま、馬車の用意が出来ました!どうぞ」
なんだかんだ40秒で支度はすんだ。
「ありがとうございます」
「いえいえ感謝を申し上げるのはこちらです! 道が荒れてますので、街を出るまでぐるぐると迂回しますのでご容赦ください。それでは出発~!」
「はい、お願いします」
馬車の扉が閉まると、動けるようになったルカは口を尖らした。
「エクスは分かってない」
「ええ?」
分かってない所に付け込んだのは私なんだけど。
「戻ったら大変」
「まさか」
ほら全然分かってない。
絶望下で、今も流れてるこの再現映像を見てときめかない女なんていないのに。
「これよ」
「この映像はちょっと恥ずかしいよね。なんだか美化されてる気がするし」
これは記憶なんだと思う。
記憶は美化されるものだから、流している本人も気づいてないの。
「とにかく、このまま帰ったら明日は女の子に囲まれて身動き出来なくなるんだから」
「それは困るね」
全然困ってなさそうな顔てデレた。
パンチしたい。
だからシロン姫との縁談話がきそうなことは伏せたの。
あの純粋培養なお姫様ならたぶん恋してるし、押されると弱いエクスが王家に縛られる未来を私が防がないと。







