20 ホワイト王族は仲良くなりたい2
それから、3日。
動きがあった。
まず始めに動いたのは意外にも王家。
ラードリッヒ子爵家により、王家の末娘に献上された謎の魔道具?は、今も魔石なしで冷たい風を吹き続けていた。
ハッキリ言って不気味以外の何物でもない。
当然、王家は裏にいるこのぶっ壊れ魔道具?の製作者の調査に動いており、ようやくその全容が明らかになったのだ。
「報告が纏まりました」
隠密により調査報告書を渡された爺やは、大魔導師エクスについて、ほぼ正解を掴んだのだが、2行目ですぐに顔をしかめた。
「ご苦労。・・・この報告書は真なのか?」
「真に御座います」
《エクスのギルドカード》
rank:抹消
title:欠陥魔法使い
name:エクス
sex :男
age :19才
data:160cm,45kg
job :魔導師
命題 【効果時間延長】
犠牲 〈初級魔法しか使えない〉
(なぜ抹消されている?いったいエクスは何をやらかした?しかもギルドのつけたこの蔑称は何だ?)
続けて、2枚目を捲る。2枚目には断片的な情報から、エクスの持つ推定能力が報告されていたのだが、情報を得る毎に爺やの身体に震えがはしった。
「ぬぐぅ、コヤツは人間なのか?」
「はい、人族です」
《エクスの推定能力》
謎の冷たい風が吹く魔道具
永遠氷
湧き続ける水壺
消えぬ灯り
温泉の精霊との契約
家妖精の使役
バフによるゾンビ効果
バフによる仮初の命
大森林警ら業務の影のエース
スライムウォーターを常飲(不味い)
「これは真か?」
「真に御座います」
感情を捨てた隠密からは平坦な声が返ってくる。
「あ、いや疑っているわけではないのだが。 ううむ、攻撃力は無さそうなものの王家に弓を引かれると不味いな。ゾンビ、仮初の命、黒魔法の可能性もあり非常に不味い」
最後の頁、3枚目に手をかけた。
王家は人心掌握のプロだ。
世の中には金で動かない人間がいる事を知っている。変わり者の魔導師などその典型だ。
名誉や権利や特殊素材などは、いくら金を積んでも手に入らない。
そんな本人の隠れた欲望を暴き、ベストなタイミングで与えてコントロールするのが、王家のお家芸である。
それを可能にするのが《願望読み取り器》という王家の秘宝である。
あくまでもその時の願望なので変わる事はあるが確度は高い。
今回も、使った。
よって3枚目は、とても重要だ。
委細不明の規格外の大魔導師に、いったい何を要求されるのやら。
国の滅亡とか、魔王の再来とか、賢者の石を求められると非常に不味い。
「どうか、この国に災いを呼ばぬ人材である事を祈るばかり。抱え込みたいが、エクスの人物像すら読めないのに、その要求なんてさらに予想がつかない。エクス、お主は何を企んでおるっ!!」
ごくりとツバを飲み、爺やは天に祈りながら、3枚目を開いた。
《エクスの願望》
もう・・・・働きたく無い
「んんん???…これは真か?」
「真に御座います」
本日、三度目の真発言。
もはや大安売りである。
爺やはドッキリであって欲しいと悪戯好きの第三王女ルーラを探すが、騒動の種を持ってきた姫様は何処にもいない。
隠密には、平坦な目でじっと見られる。
「これは、いったいどうしたもんかの〜?この歳になっても世界は驚きに満ちておるとは」
「如何致しますか?」
心が揺れない隠密は、平坦な声で次の指示を仰ぐ。
「如何も何もエクスは働きたくないのだろ?こんなの爺にどうしろというのですか、姫様ああ!」