2 最後の仕事(子爵)
「おおっ、そうだ!良い事を思い付いたぞ。明日までにこれと同じ物を100個作っておけ」
もうすぐ仕事が終わる頃に、いつものように自分に都合のいい事ばかり言ってくる領主のラードリッヒ子爵さまを恐る恐る見上げた。
なけなしの勇気を出して、ぎゅっと小さな拳を握り、震える声を絞り出す。
「お、お断りさせて頂きます」
すると、さっきまで上機嫌だった子爵さまの耳がぴくりと動いて剣呑な目つきに豹変して、僕をまるで路傍の石ころのように睨みつけてきた。
「今、何と言った?欠陥魔導師。私の命令に背いたように聞こえたのだが、まさか、そのような事は有りえないよな??」
もう無理だ。
僕はいったい、いつ寝れば良いんだ。
5年間も彼らの度重なる理不尽な要求に従ってきたから、きっといつものように脅せば言いなりになると思ってるのだろう。
「・・・僕は発言を変えません」
ぐっと見返して拒絶する。
子爵さまがサーベルに手をかけたのが視界に入った。
「貴様ァ!平民のくせに貴族である私に楯突くとは、それ相応な理由があるのだろうな??生半可な内容であれば死罪にしてやるぞ。しかし私は寛大だ。謝罪し発言を取り消すチャンスをやろう」
ガチガチと恐怖で奥歯が鳴る。
でも、決めたんだ。
僕はもう自分の心に嘘はつかないって。
言ってやるっ
抑えつけてた気持ちを開放する。
「もう・・・・働きたく無いんです」
うおおおおーー
ついに、言ってやった!!
湧き上がる解放感で背筋がゾクゾクする。
「なっ・・・!?」
子爵さまは驚いた顔になり目を大きく開いて僕を凝視すると、まるで酸素を求める金魚のように口をぱくぱくしだした。
「ええと。子爵さま、大丈夫ですか?」
心配になり声をおかけしたら、子爵さまの手がわなわなと震えてサーベルが鞘の中で暴れてカチャカチャと音を立てた。
「なん、なん、何だと!?この欠陥魔導師が!やはり所詮は、初級魔法しか使えない底辺冒険者だったな。そうだ!その腐った性根を叩き直すためにも、さっきのアイテム納品命令を倍の200にしよう。我ながら良い考えだ。指名依頼を出すから逃げられると思うなよ!!あーあ、最初から素直に私のいう事を聞いておけば楽だったのになあ??」
たしかにギルドの指名依頼は強制に近いもので断れない。
でもそれは、冒険者ギルド員に限られる。
「僕は引退しましたので別の方に出してあげてください。今までお世話になりました。子爵さま」
何かまだ言いたりなそうだったけど、役目は果たしたので、ぺこりとお辞儀をして足早に次の依頼先へと向かった。
「おいっ!待たんかっ帰ってこい。まだっ私の話は終わっておらんぞーーーー」
新たな依頼はギルドにどうぞ。
僕はもう居ませんが。