196 偽勇者イゼルの死2
騒ぎの中心に向かうにつれ視線がすごくてルカを置いてきて良かったと思う。
縛られた森林警備隊の人たちと顔が合うと恐怖で暴れだした。
「むぐーっ!!」
大丈夫、助けに来ましたよ。
「お疲れ様です。エクス大魔導師」
「あ! 領軍さん」
なにかこっそり話したいことがあるらしく近寄ってきて耳打ちされた。
さりげなく数人が囲み衆人環視のなか密室を完成させる練度の高さに憧れる。
「イゼルは最悪なクソ野郎ですが火あぶりって本当ですか? せめて斬首にしてもらえないでしょうか?」
「僕は死刑そのものに反対です」
領軍の人が困った顔をした。
まさか、僕の働きたくない魂胆を見破って。
「勇者協会が取り仕切るこの状況では少し難しいかと。我らは無学ですので。ですが、くそ野郎は弁が立ちます。本人が喋れば変わるかもしれません」
「アドバイスありがとうございます」
好敵手という関係なのだろうか。
「勇者様!こちらへ」
「はい」
てくてくと歩きやたら豪華な椅子にちょこんと座るとセレモニーが始まった。
「フォレストエンドの迷える民よ!勇者さまがご到着なされた」
「おおおおーーっ」
歓声と拍手が心地よい。
「これより裏切りの偽勇者イゼル一味の断罪を行う!」
さてどうやって助けようかと考えながら成り行きを見守ってるとざわざわした空気のなか長そうな巻物を開いた。
「偽勇者イゼル一味の罪状を読み上げる。一つ、魔王フールに魂を売り渡し護りを明け渡して街に招き領主と領軍を監禁した。一つ、職人を騙し新型結界の賃金を踏み倒しかつ軟禁したうえ強制労働をさせた。一つ、勇者協会の信用を失墜させた。一つ、勇者新聞の記者と癒着して捏造記事を書かせた。一つ、不正に勇者くじの確率操作を行った。一つ、魔薬の流通をさせた。一つ、紙の鎧を着用し民衆を騙していた。一つ、・・・」
やばい、予想より罪が多すぎてびびる。
「よって偽物の一味を、勇者様の炎で浄化するのが妥当と思うが、異議のあるものはいるか?」
「むぐーーーっ!!」
僕の代わりに手を上げようとしたのは縛られているカイゼル髭のおじさんだけで、圧倒的劣勢。
「異議なし!!!」
「殺せええええええええ」
「殺せ! 殺せ! 殺せ!」
どうしよう。
「さぁ、勇者様。浄化の時間です」
なんか駄目な雰囲気だ。
まるで殺すのが正しいみたいな空気感に戸惑う。
なんて言えばいいんだろうか、ここからみんなを説得するのは、僕にはきっと無理だ。
この世には自分で出来ないことや決められないことがたくさんあるから。
「勇者様?」
でも僕は魔導師だ。
いや大魔導師。
なら不条理を具現化するなんて朝飯前さ、そうだ! 奇跡を見せてあげる、
不可能なんて燃えろ。
「ファイヤーボール」
「おおーーーっ」
「むぐーーーっ!!!!!!」
じょぼじょぼという音とアンモニア臭がして、説明下手でごめんねと思う。
拘束している縄に魔法を指定。
「えいっ」
「キャーーー」
ご婦人の悲鳴が上がる中へろへろした火の玉はイゼルさんに命中っ。
ここからが魔法の真骨頂で拘束している縄だけに絡みつき縄を食らうように焼き切った。
どよめきが起こる。
「燃えてないぞ?」
「イゼルって不死身だったのか」
そういえばきちんと飛ぶファイヤーボールは中級魔法で、初級魔法の着火を無理やり飛ばすために対象制限を加えてデチューンしてるのは珍しいのかも。
まさか僕もこんな使い方ができるのは想定外だったけど。
他の部分もちょっと焦げてるけど割と成功かな。
さぁ、あとは任せました。
「む、むがーーっ!? 生きてる??なぜか生きてる??さすが儂」
木の杭から解放されてきょとんとしているおじさんに微笑んだ。
「後は頑張ってください」
「んおおう?君がエクス君か? 感心な少年よ。なぜ儂を?」
「死んでほしくないからです」
「感謝する。儂の生き方から学びなさい」
ここからは彫像のおじさんにバトンタッチだ。
知らない人ですが、領軍さんが言うには話が上手いんですよね。
僕は森林警備隊長なんて就きたくないんです。
お願い、生きて!