194 すらいむ万歳
ルカに裾を引っ張られた。
どうするの?って聞いてるみたい。
「帰ろうかなって思うけど」
「そいつはいいな、早く焼肉しようぜい」
ルカはというと優しい目で見てきて、単純に予定が知りたかっただけみたい。
イベントから抜け出し瓦礫の道を戻ろうとすると、足場が悪くても動ける珍しい魔導馬が置いてあり、僕にとってはそちらの方が目を引く。
これは古代王国の発掘品で車輪じゃなくて脚がついている珍しいタイプ。
「勇者様!」
「ひゃいっ触ってません」
おそらく持ち主の勇者協会の人から声をかけられて心臓がとび出そうに。
「あのっ勇者様、どうぞその魔導馬にお乗りください。家までお送りします」
「へ?」
乗りたい気持ちと警戒心が半々で迷ってしまいルカを見ると首を横に振った。
そうだね、乗ってみたいけど変なローブの人とは関わらないようにしよう。
「お気持ちは嬉しいですが、ルカが人見知りなので遠慮させて頂きます」
「そういう事でしたらご安心を。もちろん2人きりでどうぞ」
くいくいっと裾を引かれて再びルカを見ると、なんだかさっきと違って乗り気だ。
ええっ!?
「ほら、相棒。ぼやぼやしてねえで、さっさと乗ろうぜ」
「う、うん」
案内された室内は豪華な内装で小窓には分厚いカーテンもありプライバシーはバッチリで、これにはルカもにこにこ。
お送りしますと声が聞こえて得体のしれない魔導馬車は進みだした。
「へへっこいつはなかなか良いじゃねえか、なっ勇者さま」
「乗ってもいいのかな?」
「気にしすぎ、こういうものだから」
さすがはお嬢様、庶民とは感覚が違う。
後で料金を請求されたらと思うと、そりゃルカは余裕だけど、ん?今の僕なら余裕かも。
「それにしてもよ、さっきの騒ぎはいってえ?」
「火事場泥棒かな」
「違う。勇者協会の暗躍で領軍が動いて森林警備隊の勇者イゼルが葬られるところだと思う」
なんで分かるのか。
「でも勇者なら身内では?」
「口封じよ、勇者協会は影で悪い事をしているからイゼルに都合の悪いことをバラされる前に関係者全員を殺すつもり」
「はっ、これだから政はきなくせえ」
「うん。なんか関わりたくない」
ルカが微笑む。
「それよりエクス、お疲れ様!」
「ありがとう」
「主、ここはひとつ頑張った英雄に褒美をあげたらどうでい?」
くま吉が変な事を言いだした。
「褒美?なんでも言って!叶えてあげる」
「特には」
「なんでえ?」
と、言われても。
すらいむ枕は手に入れたし。
ううーん。なら、くま吉に代わりご褒美をって危ない危ない!
それがこいつの狙いかも。
「なんにもないの?」
「うん」
「相棒は睡眠欲に特化してるからなぁ」
そういう訳じゃないけど。
「そうだ!」
「なに?」
嫌な予感が。
「眠りたいなら膝枕してあげる」
「え?いいよ」
「遠慮しなくていいんだぜ、それとも何か、主のは気に入らねえなんて言うつもりじゃ」
「エクス?」
はい、詰んだ。
泣き真似される前に、ルカがぽんぽんと叩く膝に急降下する覚悟を決めた。
「お願いします」
「どうぞ」
細い足首から小さな着陸ポイントを目測で割り出して急降下。
痛っ、成功したのに固い大地へと着陸。
師匠より固い!
「どう?」
「最高だよ」
紳士レベルが上がった。
耐えきった自分を褒めていると、凄く良い香りに包まれて、だんだん柔らかさを感じ出した頃、
!!!
ルカの細くて冷たい指が髪を掻き分けて侵入し頭皮に触れてきた!
まるで楽器を奏でるように細長い指は優雅に髪の毛を梳かしていく。
何これ。
気持ちいい。
これがお姫様の気分だろうか。
撫で撫でなんてリィナにした事はあってもされた事はなかったけど。
「気持ちいい?」
「うん」
髪の毛を梳かし終わるとひんやりした指は、頭のつぼを押し始めた。
痛気持ちいい。
「エクス硬いよ」
「そうかな?」
ふふ、ちょっと嬉しい。
「疲れが溜まってるとこうなる」
「そうなの?」
褒められてなかった。
でも、最近は休みっぱなしだからそれは気のせいです。
「うぎっ!?」
「ここはたしか、どこか弱ってる。治してあげるから頑張って」
華奢な指が見つけた弱点をぐいぐい攻め立てるけど、負けたようでもう止めてとは言いだしづらい空気だし。
「うううっ!くふーっ」
痛みがズパンッときて、爽やかに引いていく。
「どう?」
「軽くなった、気持ちいいです」
ヤバい。
なんかこう詰まっていたものが溶けだして。
僕はすらいむになった。
ヒールの呪文で治らない内側がガンガン癒されていく。
「頑張りすぎ」
「そうかな?」
今度は覚えてルカにやってあげよう。
そしてヒィヒィ言わすんだ。
「格好良かったよ」
すらいむ万歳。