191 膠着状態
マーラは帰ってこないけど、全員で一つの部屋に集まった。
それでレビジョンさんの映像を見ていたんだけどこれが全く動きがないようで、静止画?
「あー俺っちもうダメでい。飽きちまった」
しまいには、くま吉が足をバタバタしだしたけど賛成だ。
「ルカ、動きないし解散でも」
「だめっ」
ルカの不安に揺れる瞳に囚われた。
一緒にいてあげたい。
「ごめん」
「いい」
それにしても、セーラさんは研究疲れかなんかソファーで寝はじめたし、ニトラは怯えてるのか隙間に挟まってて。
ライ姉だけは本に夢中だけど、石板は代わり映えしない景色で止まったまま。
「僕らも少し寝ようか」
「うん。寝りゅ」
ベッドはどうやら一つだけ。
でも安心して、僕は大魔法使いだから。
「レビテト。じゃーん、簡易ベッドの完成!おやすみ」
余った布に浮かぶ魔法を掛ければ魔法の絨毯に。
ひょいっと飛び乗ると、思いのほかふよふよして気持ちいい。
「どうしたんでい?主」
「なんでもないーっ」
今度はルカが足をばたばたしだした。
エクスの排除を目論む力の有るものはもはやホワイト王国にしかいなかった。
悪の勇者協会は、勇者と枢機卿と信徒が外部と音の断たれた空間を作り密談を交わす。
「エクス消えてくんねーかな?」
不満げに悪態をついたのは勇者サンダルフォン。
「外で滅多なことをいうものではないぞ」
「しかし俺ちゃんの見せ場を奪いやがって、ガキのくせにあいつもシロンちゃんの胸を狙ってんのかよ」
「儂に二度言わせるつもりか?」
「じょジョーダンだよ。外では気をつけるって!」
ジャスティス卿にひと睨みされて黙ってしまった。
老獪な男は不敵に笑う。
「見えた未来は二つ。スタンピードがもう一度起こるか、新たな勇者が生まれるか、どちらに転んでも勇者協会は構わん」
「ジャスティス卿、ご神託を」
ひざまずく白い覆面の信徒に手をかざす。
「もちろん二つとも押さえる。魔石を馬車1杯運搬して放置せよ。それとエクス大魔導師に勇者の認定式の話をしてまいれ」
「心得ました」
「征け、汝の勇気を示せ」
「はっ!」
勇者が納得いかない顔をした。
「今のは?」
「魔王は魔物を産む。栄養ある魔石を食えばスタンピードを発生させるなどわけないが…」
「違ぇーよ」
「戦闘中は産めない可能性が」
「それじゃねーよ。問題は新たな勇者だ」
「実力があれば、エクス君が勇者になってもいいと思っておる。その場合はシロン姫はエクス君のもの。力なき者に正義なし」
悔しそうな顔をしていた勇者だったが、気でも触れたのか、にちゃあと笑った。
「なあ、ネトラレって知ってるか?」
「聞いたことがないのう。誰かの必殺技か?」
「あひゃひゃ。それ採用!今日から俺ちゃんの必殺技だから。いいぜ!俺ちゃんも少年とシロンちゃんの仲を認めてやるよ」
「う、うむ。急に物分りがええな。気持ち悪っ」
ジャスティスは、気持ち悪い目で見たがこの男はそれに気がつくような繊細さは持ち合わせていない。
「では、心を入れ替えて魔石運びの任に加わります」
「うむ。汝の勇気を示せ」
「はっ!」
やれやれとため息をついて、我に返ったが、もういない。
「…まっ待てっ!サンダル。お主は行ってはいかんぞおおお」