184 帰宅
「相棒。やっぱりよぉ。この喧嘩の終わり方はスッキリしねえ。ここはひとつ俺っちに任せてはくんねえか?」
「くま吉は男前だね」
「や、やめろい。くすぐってえ。こちとら真剣なんで~」
無駄に心配してくれる友達のお腹を弄ぶと、なんだか心がぽかぽか。
無言で何か考えだしたルカの手を握る。
「ひゃう!?」
「帰ろう、ルカ」
「う、うん」
ぽーっと思考停止したルカを連行して、すたすた歩いてたら、
「待ってくださいっ」
困惑したレビジョンさんに回り込まれた。
「何ですか?」
「えっと、エクス大魔導師。本当にもう戦わないの·····ですか?」
「はい」
信じられないっていう批判の目。
「さきほどエクス大魔導師が逃げだす姿を皆に笑われてましたよ! 初級魔法しか使えない無能ハッタリ野郎だって。違いますよね!貴方にはまだ隠し球があるんですよね??」
「あれで終わりです。それに僕は家に帰ってるだけなので。あの、もういいですか?」
駄目っぽい。
「そんなのっ詭弁です。あんな大見得を切っておいて。私はですね。ルーラ姫が気まぐれに与えた大魔導師という肩書きに期待してたんですよっ! それなのに、いくら体を壊して引退してるとはいえ、少し無責任が過ぎぶはっ」
流れを無視した重いモフぱんちがレビジョンさんのよく喋る口にめり込んだ。
KO!
金色の獣はまず殴る。
彼は、レスバ最強!
クレイジーベア。
「おうおう、そんなにやりたきゃ手前でやれよ。俺っちだって筋通して耐えてんのに、無粋がすぎらぁ」
反論を許さない物理スタイルにより、周囲に映っていた僕の困惑した表情にノイズが走りプツンと消えた。
「これ大丈夫?」
「へっ、一撃で伸びるなんてよ。気合いが足らねえぜ」
彼のバックには、ホワイトニング王国がいるのに。
「どうしよう」
「なあに、礼はいらねえよ」
「エクスと同じバフ魔法使ったの!」
褒めてません。
「ルカ、レビジョンさんにヒールを」
「いや」
え?
「なんで?」
「エクスに悪口言った」
「別に僕は怒ってないよ。それに王家の不信を買ったら、国外追放になるかも」
可愛い笑顔のルカ。
いざとなれば僕が守るけど、うん?
笑顔?
「ふふ。考えて。国外追放される2人。秘境に辿り着き、待っているのは快適なドールハウス暮らし。そこには悪い虫もやってこないし、私がずっと養ってあげる」
「あー、うん」
普通に暮らせそう。
でもそこには、魂の料理を出す猫娘のいる食堂や、リィナ商店でのだらだらした時間がなくて。
「なに?」
「いや、なんでもないよ」
ちょっと魔王より怖かった。
「クレイジーベア、貴方は素晴らしいわ」
「よせやい照れるぜ」
帰り道、ルカが変な歌を歌い出した。
「追放ー♪追放ー♪にーこやかに♪手をつないで、どこーまでも♪」
「主、楽しみだな」
「ちなみにどんな暮らし?」
「私がエクスのためにピアノを弾いて格好良い服を作ってたくさんお喋りして、ライネと美味しい手料理を作るの。エクスは食べる係」
ほら、ニトラも困惑してるよ。
これで2対2。
「ニトラちゃんには、狩りをお願いしてもいい?」
「うん!任せて。得意だから」
「ありがとう」