179 スタンピード5 二軍うさぎの空中戦1
同時刻、エクス家。
長い髪を振り乱す眼鏡の女がガタガタと夜逃げするかのように部屋を荒らしている。
「ヤバいヤバいヤバい。逃げるのはちょっと待ってくれ少年ー。あいたっ」
慌てて研究資料を纏めてるのか、散らかった部屋でコケて研究資料をぶちまけたのがセーラ。
「エクスは私が守る守る」
とか言いながら、恐怖と戦っているのか自室でガタガタ震えているのがマーラ。
ライネはニトラの出ていった喧騒の街を眺めている。
そんな中、肝心のエクスはというと、ルカ達と部屋にいた。
さすがに、ぽやっとしたエクスもちょっとそわそわしているようだ。
「エクスはもう冒険者じゃないんだから防衛には行かなくていいの!ここにいて。それに、スタンピードはスクランブル発進した二軍うさぎがリィナ商店と食堂をガードしてるから大丈夫よ」
「う、うん」
でも、心ここにあらず。
護りがあっさり破られて、どうやって逃げようかと人々が考える中、無報酬で倒しに行かないと!とか考えるお人好しは彼くらいだろう。
「しかたないわね。リンクアイズ」
「うわっ!たしか、夜会で見た魔法」
ルカの魔法で、壁一面にリィナ商店の景色が大きく映る。
「使い魔の目を通して遠くを見る上級魔法よ。命題魔法じゃないから複数上映は出来ないけど」
おどけるルカにエクスは興奮して賞賛の眼差しで見た。
「それでも凄いよ。ありがとう、ルカ」
「ふふっ」
二軍うさぎの一体の視線とリンクしたらしく、モンスターの姿は無く地面にはクズ魔石がキラリ。
安心したエクスに反して、ルカは思案顔に。
「どうしたの?」
「スタンピードで壁が破られたわりには、魔石が少なすぎる気がするの」
ルカは元冒険の意見を求めたが、エクスは気のせいでしょと首を捻る。
この男、実戦経験が街で一番豊富なくせに、魔石を拾うのを禁じられていたためピンとこなかったようで、
「森林警備隊の人が頑張ってるんだよ」
「ううーん。そうかしら」
的はずれな事を。
そんな折、クイーンの耳がピーンと立った。
「見つけたわ!エクスさん」
どや顔?のクイーンに注目。
「クイーン、状況は?」
「ふふふ、スタンピードを起こした魔王フールとゼノ。招かれざる客にはご退場願おうかしら」
「うん。やっつけて」
うさぎよ、踊れッ!
「さぁ、ショーの始まりよ。全軍出撃!」
クイーンのオーダーで、視線をリンクしているうさぎもふわふわと高度を取り始めたようで気づけば部屋に映る映像は屋根を見下ろしていた。
周囲に仲間の二軍うさぎがちらほらと視界に入って頼もしい。
これには、エクスの口も綻ぶ。
近かったようでフールが映った!
理由は分からないけど、地面にちらりと映る赤いボロ雑巾のようななにかが気になるエクス。
「ルカ。あそこ、ズームできる?」
「操作は無理なの」
「そっか、ありがと。気にしないで」
「何かしら?」
徐々に近づき、ゴミを注視していたエクスの表情が変わった。
「ニトラッ! ルカッ!力を貸して」
「えっえっ!?どうしたの??」
強引にぐいぐいと手を引っ張って、走り出すエクスにルカはついていけないようであわあわ。
この女、エクスの横顔をこっそり盗み見ていたせいで衝撃映像をスルー。
「ニトラが怪我してたっ。急ぐからっ」
「そっそうなの!? いいけどっ強引なのドキドキするぅ」
真っ赤な顔のルカをひっぱって駆け出す。
くま吉もひょいっと飛び乗り、ついていくようだ。
慌てて出ていく2人に便乗して、クイーンにバイバイと手を振る余裕を見せつける。
階段滑りで鍛えた緊急対応が活きたッ!
「主、ここはいっちょ景気づけに、相棒にハイパワーいっとこうぜ」
「え?え? 分かった。ハイパワー?」
ドクンっとエクスの血に魔力が流れ込み筋肉が喜ぶ。
エクスがマッスルエクス君に。
「くま吉ナイス!行くよルカ」
「はぅぅぅ」
お姫様だっこして、フールの元へ突撃だ!
取り残された主役のクイーンの耳がへにゃっと曲がる。
「わ、私の見せ場なのに」
そんな彼女をぽんぽんと叩いたのは、エクスの虚ろ。
「ぼくは見てるから」
クイーンが、はっとして照れたのかぐねぐねしだして気持ち悪い。
「うん」
こんなんで·····大丈夫だろうか?