178 スタンピード4 剣聖ニトラ
レビジョンは高揚感に包まれながら街中に襲来したグリーンドラゴンと、剣聖と思わしき猫幼女の対決を見守る。
グアオッ!
初手、ドラゴン。
振りかぶった爪撃は、ブィーンと鳴く妖刀によって爪切りのようにバチッと切れられた!
「·····凄い」
レビジョンは目を丸くし、ドラゴンも短くなった爪を見て明らかに動揺する異様な光景。
「おにく」
完全によだれを垂らす幼女のペースだ。
「現場のレビジョンです。現在、フォレストエンドからお送りしています。突然現れた剣聖ニトラがグリーンドラゴンを圧倒しています」
レビジョンに心の余裕が生まれ、調子に乗ってナレーションを始めたが、
「今、ドラゴンが後ずさりました。近づく剣聖。·····あれ?剣聖の動きが止まりました。どうしたのでしょうか?」
なぜか小さな剣聖はピタリと動きを止め、振り返って警戒するように空を睨んだ。
視線を追ったレビジョンの背筋が凍りつく。
「うっ!」
いつのまにか魔王がいた。
空に浮かぶ長身の美男子は魔王フールと、傍らにいる小さな羽の悪魔ゼノが放つ圧倒的な威圧感に凍りつく。
いったいいつから居たのだろうか。
ついさっきまで、音もなく、存在感もなかったはずなのに。
「美味ちぃぃぃぃ!」
ゼノの歓喜の絶叫が響く。
「あはっ人間の悲鳴が最高だよ。ねえフール、ところであいつ誰?」
「ア゛ア゛」
問われたフールだが、
「あー僕ちんが壊したんだっけ。まっいっか!あいつを殺しちゃえ。いっけーフール」
ブォン。
消えた!?
忽然と、命令されたフールが。
「くぎゅっ」
と同時に後ろで幼女のくぐもった声が聞こえる。
嫌な予感を肌で感じながら振り返るとニトラの首を締めているフールの後ろ姿。
「どうやら、さきほど急に現れたのは、無詠唱のショートワープだったようです」
首を締められたまま剣を突き立て反撃しようとした剣聖を、魔王が腕を一振りしゴミのように建物の土壁へ叩きつけるように投げ捨てた。
「うぷぷー。やっぱり雑魚だ。でも、ドラゴンを消されると、また街の外からやり直しだから確実にころしとこうかな。僕ちん頭いいー!」
土埃の中から剣を構えた剣聖がふらふらと現れ、レビジョンはほっとする。
「うぅぅぅ。ふぎゃおー」
低い唸り声をあげて飛びかかる剣聖を手をぐっと握って応援っ。
ニトラの剣と、フールが虚空からか出した剣が出会い火花が散る。
ギャオン!
だが、まるでダンスするように巻き付いたフールの剣は、ニトラから剣を奪って弾き飛ばし、剣聖からただの幼女に。
そのまま
―――返す刀でばっさりと斬られた。
「うぐぅ」
今度こそ、赤く咲いたのは幼女の血。
「うあうあう」
辛うじて息はあるのか芋虫のように血を流しながら蠢く!!
カッと目を開くレビジョンに、ぐるりとフールが虚ろな目を向けた。
バシュ!
「ぐふっ、油断しました。エクストラヒール。ぐぅぅぅ」
腹が焼けるように熱い。
無詠唱のシャドウジャベリンが腹に突き刺ささった。
慌てて掛けた回復魔法が重度の火傷を塞ぐが、気絶しそうな回復痛のせいで意識が朦朧とする。
「うぷぷー。ざぁこ」
調子に乗るゼノの後ろで、フールが別のターゲットをオートサーチしたのか手を伸ばした。
レビジョンが、ぼんやりと視界に捉えたのは数体の電撃うさぎ。
バシュ!
そのうちの一体に、フールが先制攻撃をしかけて、空に綿が散った!
「」
隣にいたうさぎ達の目が一斉に赤く光った!
ブォン!
「ああっもう!クイーンまで邪魔するのー」
ふよふよと、空へうさぎが浮かぶ。
街のあちこちから、うさぎが次々と囲むように現れた。
「ははは、見えますか?シロン様。これは勝ったかもしれません」
レビジョンの瀕死の目に希望が宿る。
予想よりも多かったその数に勝利を確信し、瀕死の癖に中指とフラグを立てた。