172 作戦会議
応接室に、全員を集めた。
「これよりフール対策会議を始めます」
なんで僕が仕切ってるのかっていうとルカが人見知りだからだ。
セーラさんとマーラさんがいると手のかかる子に戻るので耳元でごにょごにょ言ってくるルカの声を増幅する役割なんだけど、
「ちょっとタイム!」
考えが噛み合わないため、ルカを外に連れ出して中断した。
「な、なによ。エクス?もしかして·····2人だけで話したいこと?はっ! か、駆け落ち」
「違うけど」
暴走したルカの期待するような視線をぶった斬ると、とたんに不機嫌に。
「じゃあ、なに?」
「少し大袈裟だと思うんだ」
ジト目が突き刺さる。
「あのね、エクスもさっきドラゴンの咆哮聞いたでしょ」
「う、うん」
ルカ先生は愛らしくやれやれと言葉を紡ぐ。
「もうすぐスタンピードが起こります。フールもすぐに攻めると手下がやられて戦力不足になると領内から追い出されるからもう少し戦力を貯めてくるはずで、猶予は恐らく3日」
「でも、領軍の人は大丈夫って」
首をふるふる。
「森林警備隊は無能を露呈、領軍の隊長も怪我で戦線離脱、呼んだ冒険者も力不足だし、頼りの王家も隣国へ派兵したばかりで人手不足」
「詳しいね」
素直に感心するとちょっと機嫌が治った。
「だから私たちは選択を迫られてるの?逃げるか、死ぬ気で戦うか」
「ルカはどうしたい?」
迷いながらも縋るような視線で見つめてくる。
「失いたくない」
「なら、戦おっか?」
ルカの顔に希望が宿る。
「良いの!?」
「もちろん。くま吉も頼りにしてるよ」
「へっ、さすがは相棒だぜ。主、心配は無用でい」
そっと手を握って、みんなの待つ部屋に。
「えー、それでは会議を再開します。これよりフールを撃退します。なにか意見のある人?」
沈黙。
あれ?えーと。
この重い空気は、森林警備隊の初任務の時のような。
難しいとか、無理だろうとか、そんな重めの空気に思わず、
「フールってそんなに強いかな?」
本音が漏れた。
射抜くような視線をマーラから感じて怖いです。
生気が戻って良かったね、なんちゃって。
「何を言っているんだエクス」
「いや、その·····なんとなく」
地雷を踏んだらしい。
ごめんっ、言い方を間違った気はしてます。
「エクスはフールを見ていないから危機感が無いんだ! アイツは魔王、何でも出来た。人間では勝てっこない」
「そう、そこ」
今度は疑問を打ち返す。
「そこ?」
「確かに人間としては強い。高度な魔法が使えて少しだけ羨ましい。でも魔導師としてはどうなの?」
魔導師の核心。
「え??」
「上手く言えないけど·····フールは犠牲が少ない」
誰もついていけないのかポカーン。
うっ、何だこれ。
「さすがです!旦那様」
僕の事を盲信してるライネが何も考えず拍手してきたけどこれはノーカン。
ルカもついていけないのか黙って長考。
あー、説明下手でごめん。
「打倒フール。何かアイデアある人は教えてください」
とりあえずお茶を濁した。
「新しい武器はどうだろうか?」
セーラさん!乗ってきてくれて好き。
「なるべく簡単な構造で、僕らが思いつかないやつをお願いします」
「少年は振動剣を知ってる?」
聞いた事のないワードだ!
「知らないですっ」
「例えばよく切れる軽いニホントウに、マッサージチェアに使っているガタガタ揺れる魔法を付与する。すると、高周波で振動するブレードになり、非力でも岩をバターのように切れる振動剣になるだろう」
凄い!やっぱりこの人は天才だ。
「素晴らしいです。さすがはセーラさん」
「そ、そうか?」
自分の凄さって自分では気付きにくいよね。
「ニトラ!」
「うにゃ!?」
隠れんぼで負けてふて寝してたニトラがびくっとした。
「セーラさんから魔剣のレシピを貰ったから使ってくれる?」
「いいよ」
興味なさそうにそっぽを向くけど、ぶんぶん揺れる尻尾が嬉しさを隠せてないぞ。
「少年が使わないのか?」
「僕は鈍臭いですし」
「ごめん」
使ってみたいけど自分の足を斬るのが関の山だろう。
この話は終わり。
「エクスさん、私と彼が何とかしてあげるわ」
「なに、クイーン?」
発言したのはクイーン。
今まで無視してたのは、僕の虚ろが宿った人形とイチャイチャしてたから。
「制空権よ」
「なにそれ?剣は間に合ってるんだけど」
違うのか。
「教えてあげるわ、エクスさん。空を制するものが戦いを制するのよ。それが制空権」
「そ、そうなんだ。魔法は使っていいよ」
自分の虚ろに許可すると2人は抱き合って、砂糖吐きそう。
「うさぎ部隊で空を支配するのよ。戦いのやり方が変わるわ」
「任せた」
くいくいっと裾を引っ張られてルカをみると、むうって顔で見てくる。
「えっと、ルカも何かするみたいです。マーラさんは自分の命題と向き合って。セーラさんはちゃんと寝ること、以上です。総員、戦闘準備!」
「「はいっ!」」
良かった。
みんなに明るさが戻って。